表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/50

36.

 (※ナターシャ視点)


 その悲劇は、何の前触れもなくやってきた。


 アーノルドが出かけて、屋敷には私以外、誰もいない時のことだった。


 ノックもなしに、部屋の扉が開いた。

 最初は、アーノルドが帰ってきたのかと思った。

 しかし、彼は出掛けて来たばかりで、まだ帰ってくるには時間がかかる。

 部屋に入ってきたのは、アーノルドではなかった。


 部屋に入ってきたのは、強盗だった。


「え……」


 あまりに突然のことで、私はそれ以上言葉が続かなかった。

 

「おい、金目の物を出せ! そうしないと、どうなるかわかるよな?」


 入ってきた強盗は、一人だった。

 被り物をしているので、顔はわからない。

 彼の手には、ナイフが握られている。

 それを見ただけで、私は恐ろしくなって震えていた。


「あ、あの、私は、この屋敷に住まわせてもらっている者なの。お金がどこにあるかは、わからないわ」


 私のその声は、小さく震えていた。


「なんだと?」


 彼が、こちらを睨んできた。

 そのせいで、さらに恐怖を感じた。


「本当よ! お金は金庫にあるかもしれないけど、金庫の場所なんてわからないし、暗証番号もわからないわ! お願いだから、殺さないで!」


「騒ぐな! 外に聞こえたらどうするんだ。大きな声を出すな」


 彼がナイフを見せながら言った。


「わ、わかったわ。何でも言うことを聞くから……、お願い、殺さないで」


「安心しろ、妙な真似をしなければ、殺すつもりはない。どこかに、金目の物はないか?」


「そういえば、一階にある小さな壺が、高価なものだったと思うわ」


「どれのことだ? 案内しろ」


「わかったわ」


 私はベッドから立ち上がろうとした。

 しかし、そこで気付いた。


 立ち上がったらだめだ。

 体が治っていると、バレてしまう。

 たとえ強盗であっても、体が動くところを見せるわけにはいかない。


「あ、あの、私、ずっと長い間、体が思うように動かないの。案内なんてできないわ。言葉で説明するから、それでいいでしょう?」


「いや、だめだ」


 彼が、低い声で言った。

 私は身体に、悪寒が走った。


「そうやって嘘をついて、おれがこの部屋からいなくなったら、助けを呼びに行くつもりなんだろう?」


「そ、そんなことしないわ。本当に、体が動かないの」

 

 私は必死に訴えた。

 体が動かないのは嘘だけど、その姿を見られるわけにはいかない。


「おい、下手な嘘は止せ」


 彼がナイフを構えて、こちらに迫ってきた。


「壺があるところに案内しろ。無駄な抵抗はするな。そうすれば、殺しはしない。だから、手間を取らせるな」


 彼の目は、本気だった。

 私の言うことが嘘だと、本気で思っている。

 まあ、事実嘘なのだけれど、でも、私が普通に動いているところを見られるわけにはいかない。

 でも、壺のところまで案内しないと、私は彼に殺されてしまう。


 私はいったい、どうすればいいの……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ