森の花火やさんともぐら先生
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よろしくお願いします。
モモンガさんとお月さまがおしゃべりする夜にセミくんがもぞもぞと土からでてきました。
「セミくん、こんばんは。もう夏になるね」
モモンガさんはお月さまにさようならと手をふると、花火やさんをしているお家に帰っていきました。夏になると花火やさんはとってもいそがしくなります。
白くてとうめいな羽が大人の羽になったセミくんがミーンミーンとうたうと大きな森に夏がやってきました。
すずしくなりはじめた夕方になると森の花火やさんのお店にはかわいいお客さまがたくさん集まっていました。
「モモンガさん、花火をいっぱいくださいな」
「ちゃんと大人といっしょにあそんでくださいね」
「はーい」
両手いっぱいの花火をもらった子どもたちは、お父さんやお母さんといっしょに花火を楽しみます。
夏はやっぱり花火ですからね。
花火をする子どもたちの笑い声が夜の森にひびくと、セミたちがもぞもぞと土からでてきました。
「あっ、セミがいっぱいでてきたよ!」
子どもたちがセミたちを見つけました。
木によじ登ったセミたちの背中がひらいて白くてとうめいな羽がでてくるとみんなは花火をやめて、じっと見つめます。
お月さまの光に照らされたセミの白い羽はとてもきれいでした。
白くてとうめいな羽が大人の羽になったセミたちがミーンミーンと声をそろえてうたうと大きな森はすっかり夏になります。
ようやくすずしくなった夜に森の花火やさんはお店をあけました。
「モモンガさん、せんこう花火をくださいな」
「もぐら先生いらっしゃい。セミたちは、みんな元気にすごしているよ」
「それはよかった」
もぐら先生がせんこう花火をはじめると、たくさんのセミたちが集まってきました。
「もぐら先生、見てみて!」
「もぐら先生、とべるようになったよ!」
「もぐら先生、たいようさんと友だちになったよ!」
もぐらさんは、セミたちが土の中にいるときに土の上のことをおしえる先生をしています。
セミたちはもぐら先生の教え子なのです。
もぐら先生は、ぱちぱち光るせんこう花火を手にもちながら、にこにこ立派なセミになった教え子のはなしをききました。
「もぐら先生、はやねのセミスケは?」
セミたちがもぐら先生にたずねると、もぐら先生はポリポリとほっぺたをかきました。
「セミスケはなあ、やっぱり夜になると寝てしまうんだよ」
「えー! セミスケがこないとつまらないよ」
「そうだよ、みんなで青い空を飛ぶやくそくをしてるのに!」
もぐら先生はせんこう花火がポトンと落ちるとにっこり笑いました。
「もぐら先生にいい考えがありますよ」
もぐら先生が手まねきをするとセミたちとこしょこしょないしょ話をはじめます。
「わあ、そんな大きなめざましがあるんだね!」
「それならぜったいセミスケも起きるよ!」
「みんなで青空を飛びまわりたいもんな!」
セミたちは、もぐら先生にきいた夜空にかがやいて、大きな音のなるめざまし時計のはなしをきいて、わくわくしました。
もぐら先生とモモンガさんは、セミたちにひとつおねがいをしました。
「森のなかまたちに花火大会があることをつたえてくださいな」
「もっちろん!」
「まかせて! 大きな声でみんなにつたえるよ!」
「飛んでまわってみんなに知らせにいくんだ」
セミたちがはりきって森のなかまたちにつたえると、花火大会の日は大きな森はおまつりさわぎになりました。
「よし、はじめるよ」
モモンガさんの言葉で、森の花火大会がはじまります。
どーんどーん、と花火があがると森の夜空にかがやく花がさきます。大きな音ときらきら光るお花にみんなが夜空を見ていると、土がもぞもぞうごきました。
「ふわあ、おおきな音にびっくりしたなあ」
はやねのセミスケが土から出てきました。
せっせと木にのぼると、せなかから白くてとうめいな羽をひろげます。
モモンガさんが打ち上げる花火が、セミスケの白い羽にきらきら光ってとてもきれいでした。
白くてとうめいな羽が大人の羽になったセミスケとみんながミーンミーンとおおきな声でうたって、青空をとびまわると大きな森の夏もそろそろおわりです。
すずしくなった夜に森の花火やさんのお店にもぐら先生がやってきました。
「モモンガさん、とってもながいせんこう花火をくださいな」
もぐら先生がせんこう花火を手にもってもだれもきません。
もぐら先生もモモンガさんもなにもはなしません。
ぱちぱち、とやさしい音だけがしずかな夜にひびきます。
「モモンガさん、今年もめざまし花火をありがとう」
「どういたしまして。もう夏も終わりだね」
セミたちのきせつがおわると大きな森に秋がやってきます。
もぐら先生は、夏のおわりにモモンガさんとながいせんこう花火をします。
せんこう花火がポトンと落ちるともぐら先生はにっこり笑いました。
「来年は、あの子たちの子どもがやってくるな」
「そうですよ、またいそがしくなりますね」
もぐら先生は土の中にもどっていきました。
モモンガさんは花火やさんのかんばんを『おやすみ』にかえました。
ここは森の花火やさん。
夏のはじまりからおわりまでお店をひらいています。
大きな花火があがる日は、はやねのセミが立派なセミになるので足もとに気をつけてあげてくださいねーー。
おしまい