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お金や名誉はいらないとだと……。
「ならお前が欲しいっていう心臓って何なんだ?」
「そうね、そろそろ『それ』の説明をする時が来たようね。でもその前に私の綿密な計画と私自身の事を説明しておかなくちゃね」
そう言って、またしても何処から取り出したかわからないホワイトボードに、今までのあらすじを書き始めた。
①村で一番の天才児で将来を期待されて都市にある魔法学園に入学した事。
②知識では負けなかったが魔力が少なくてろくに魔法が使えなかった事。
③魔力を得るための方法を死に物狂いで調べた事。
④実技が全然駄目で学園を途中で中退させられた事。
⑤大きな魔力を得るために魔王の心臓を必要としてる事。
⑥ダンジョンマスターが魔王となる可能性が高い存在である事。
⑦その為にダンジョンを作りダンジョンマスターの誕生を待っていた事。
「そして⑧計画通りカナメが生まれたの今ここだから!」
パンパンとホワイトボードを指示棒で叩く。
「つまりお前は魔王になった後の俺を心臓が必要なんだな?」
魔王になる前の心臓はいらないと。ん? その理屈だと――
(……魔王になったら俺を殺すのか?)
思わず口から漏れた。小さな声だったから聞こえなかったと思いたいが怖くて顔が見れない……。
魔王の心臓。その為に俺に協力してるのか……殺して奪うために。
さっきまでの優しやが急に恐ろしいものに感じた……俺を安心させて、信用を得るための……全部演技なのか?
恐る恐る視線を上げ相手の顔を正面から見る。
まるで感情を無くした能面のような顔でこちらをジッと見ていた。そして……呆れたような表情になると。
「殺す気があるんだったら、始めっからこんな話なんてしないでおくわよ。何も知らせずに協力しておいて、魔王になった瞬間に後ろからグサーの方が確実じゃない」
馬鹿ねぇと言わんばかりの顔だ、流石に口にはださ――。
「馬鹿ねぇ」
いや、言われたし。そして二本指を立てるとこちらに振って見せ、
「魔王にはね、心臓が二つあるのよ」
なんだって? 思わず自分の胸を触るがトクントクンっと鼓動してるのは一つだけだ。
「カナメはまだ魔王じゃないでしょ」
そもそも魔王ってなんだ? 何となくイメージはあるが俺の思っているのだと普通に『魔族の王』だよなやっぱり。
「そもそも魔王ってなんなんだ?」
「魔王ってのは一定の条件をクリアした者への称号ね」
「称号?」
「そう、この世界では功績などによって称号がつくの」
「ゲームみたいなシステムだな」
「まあイメージとしては間違ってないわ。ついた称号によって特典もあるしね」
ますますゲームっぽい。
「魔王の称号の特典は魔力。ああ魔力の説明も必要ね。前の世界ではなかったものだから。魔力はまあ、ちょっと違うけど今は簡単に魔法を使うために必要なモノ位の認識でいいわ」
ドラ○エのMPって認識でいいのかな?
「その魔力を生み出すのが心臓内の魔力精製炉。魔力の質、容量、回復量はこの炉の強さに左右されるわ」
自分の生い立ちを消して、新たに人の上半身を書きその真ん中に丸に『魔力炉』と書いた。
「つまり魔王になるとその魔力精製炉ってのが二つになるのか?」
「そうよ、心臓が二つになれば当然魔力精製炉も二つになるのよ」
それが称号によって手に入れることができる『魔力』か。
「続けるわよ。まず前提としてほぼ全ての種族は一定条件を満たすと魔王になる資格を得るといわれているわ」
「一定の条件?」
「そう、この条件はまだ解ってないところもあるけど、優れた魔族が長い年月をかけてなった例もあるし、ただの人間が大虐殺の果てになった例もある。一番多いのはダンジョンマスターがなったケースね。そこから条件の一つは『数多の生物を殺すこと』で間違いないと言われてるの」
「条件の一つって事は他にもあるんだな」
「ええ、でもそれは後からやればいい事よ、まずは解っていることからね。だからまずはガンガン冒険者殺して一つ目の条件をクリアするわよ」
満面の笑みで恐ろしい事を言ってくる。
「おま、そんな恐ろしいことを笑顔でさらっと……悪魔かな?」
「失礼ね天使よ!」
だとしたら堕天してるよ絶対。笑顔で沢山人を殺そうって言う天使がいたら嫌すぎるだろ。
「それならいっそ、お前が魔王になればいいんじゃないか?」
「私は魔王にはなれないのよ」
「さっき全ての種族が魔王なれるって……」
「ほぼ全てよ、私は含まれないわ」
「なんでだよ」
「……今は秘密よ」
続けて「女は秘密が多いのよ」と言うが魔王になれるなれないの内容じゃ色気が無いな。おっとスタイルの話じゃないぞ。
「そしていくつかの条件を満たし、魔王の称号を得ることにより心臓が二つに増える。それにより強大な魔力得てるのよ」
まあ心臓が増えて魔力精製炉が二つになれば強いわな。
「そしてその増えた心臓をお前は俺から抉るわけか? やっぱり死ぬんじゃない俺」
「単純に心臓が二つになるわけじゃないわ。魔王の称号を得た後に選択する事ができるの」
「選択?」
「増えた心臓をどうするかのね。ダンジョンマスターなら選択肢は三つね。自分か、コアか、他人にか……ね」
自分か、コアか、他人?
「一つ目は単純に自分に入れて魔力倍増で強大な力を得る」
俺様Tueeeeee-したいならこっちってことね。
「当然デメリットもあるわ。簡単には殺されたらそこでおしまいなの」
「そりゃ誰だって殺されたらお終いだろう?」
「いいえ。他の二つは一概にそうとは言えないわ」
いうと少女はピンっと指を二本立て、
「二つ目はダンジョンマスターの心臓はダンジョンコアとリンクしているって言ったでしょ、ダンジョンマスターがダンジョンから離れられないのはその為、だから増えた心臓をコアの中に入れる事によってその頸木から外れる事が出来るダンジョンから自由出れるようになるわ」
あるじゃん、ダンジョンから出る方法! 出来るならそれを目指したいな、死ぬまでダンジョンなんて辛すぎる。
「でもそれって一番目と同じで殺されたら死ぬんじゃね?」
「そうね、でもダンジョンコアに心臓を入れておけば再度ダンジョンマスターとして復活できるわ」
「何それ凄い!」
「まあ、いろんな制約は付いてしまうけど。死んでしまうよりかは良いかな位の生活はできるの」
ちょっと制約が気になるが悪い話じゃなさそうだな。何より自由に外に出られるのは大きい。
そして三本目の指を立てると。
「でっ三つ目が私の目的、他人に譲るよ! 死者に渡せば生き返り、生者に渡せば強大な魔力を得るって言われてるわ」
魔力が乏しいって言ってましたもんね、まあ乏しいのは魔力だけじゃなさそうだけどね。そっと身体的特徴を見ながら目元を抑える。
「なんだかムカつく目をしてるわね。でも私が欲しい心臓はわかったよね、その理由も。私はカナメを魔王にして心臓をもらって魔力を得るの」
「こっちも殺されても死なないのか?」
「ちょっと違うわね、距離に制限はあるけど一定以内近くにいれば、心臓がリンク状態になってほぼ同時に壊さないと相手の心臓を修復させることが出来るのよ」
中盤のボスとかでいるタイプだ! 「ふはは、こちらの心臓だけを貫いても無駄だ。我にはもう一つ心臓があり同時に破壊されない限り死なん!」とか言って自分の殺し方を教えていくスタイルの奴。
「それはつまり──」
「二人でいればほぼ無敵ね」
『死なない』ではなく『死ににくい』か、けど確かにこんなのほぼ無敵だよな……。
「ちなみにその距離ってどれだけ離れていられるの?」
「約1.5m」
「近!」
もうそれ隣あわせじゃん。剣の横なぎで簡単にまとめて殺されそう。
「そうでもないわよ、壁越しでも可能だし。完全に死ぬ前にリンクできれば良いのだから、多少離れていて片方が危ない時に駆け付けるでもいけるわ」
そう考えるとちょっと行けそうな気がしちゃうな。
ユリアはバンッとボードを叩き仁王立ちになると。こちらを指差し。
「私があなたを魔王にしてあげる!」
堂々と宣言すると今度は自分の胸に手をやり。
「だからカナメは私を魔女にして!」
うーん、正直狙いたいのは二のダンジョンコアだけど。こんなに協力してくれるコイツの厚意を無にするのは人として駄目な気がするな。両方納得できる方法ってないのかな? まあ追々考えていこう、今は情報が少なすぎる。コイツの言っているのが真実とも限らないしな。
「ちなみに魔女ってのはなんなんだ?」
「魔女は魔王から第二の心臓を授かった女性が名乗る存在。人知を超えた魔力を操り、古代魔法も使える人種最高の魔法使いと呼ばれているの!」
目をキラキラさせてどこか遠くを見るように言う。
「魔女になれば魔法もガンガン使えるし、今まで馬鹿にしてきた学園の連中に……ふふふ」
なんか半眼でブツブツ言ってるよ、やだこの子怖い。
何やらドス黒いオーラが発生してそうだが、残念ながら俺には視認出来なかった。しかし負の感情が蠢いているのは何となくわかる。なにか話題を変えなくては。
「冒険者を殺して魔王にといっても、そんなにもダンジョンに人って入ってくるのか?」
「うん? そうね一攫千金を夢見る冒険者とか鉱物を取りに商人とか、その人に雇われ炭鉱夫が来るのよ」
さっきのチラシの冒険者か。
「鉱石や薬草とかの素材を取りに来る村人も0ではないわね。ただそういう人達は、基本的に腕自慢や冒険者の護衛をつけてたりするわね。それに魔物の素材を取りに冒険者も来るし、当然秘宝狙いでガンガンコア目掛けて潜って来る冒険者もいるでしょうけどね」
「やめて! コア壊されたら俺死んじゃうから」
「だから通常ダンジョンコアはそのダンジョンの最下層に。なおかつ強力な守護者を抜けた先に設置かれていること普通なの――」
でもここワンルームダンジョンなんですが……入ったそこが最下層ですよ。第一、俺のダンジョンコアは何処にあるかすら知らない行方知らずだし。誰かうちのコア知りませんか?
「だからカナメも何時までも真っ裸でダンジョンコアを尻に敷いてないで、コアとあといろんな所も隠した方がいいわよ」
「俺、裸なのかよ!! 」
ダンジョンで目覚めて長いことたった気がするが、今知らされる衝撃の事実!!
「自分が全裸って気がつかないほど馴染んでるの?」
違げーよ!