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魔女の心臓  作者: sion
1.目覚めるとそこは……
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3

 

 はいはい心臓ね、それなら今でも持ってる。お安い御用って――。


「やれるか死ぬわ!!!」


 トンデモナイ物を要求してきやがった。頭大丈夫かこいつ? ひょっとしたら名前を思い出せない俺よりも重症なんじゃないか。


「あ~! その顔はこいつ頭大丈夫かって思ってるわね」

「お前頭大丈夫か?」

「わざわざ口にしなくてもいいから!」


 腰に手をあてプンスカと怒る貧乳少女。可哀そうに胸にも頭にも栄養がいかなかったんだな。この魔女っぽい格好といい、心臓欲しい発言といい、相当に『こじらせてる』な? 厨二病的設定は多くの少年少女が通る道だから大丈夫だぞ。でも出来れば、お家の中だけかノートに書き溜める程度にしておきなさい。


「何か失礼なこと考えてるでしょ」

「いいえ、全く。それより冗談はもういいから、お前が知っている事を教えてくれないか?」


 冗談じゃないのにと何やら怖い呟きをしているが、あえて無視の方向で。


「まあいいわ、教えてあげるわよ。まず簡単に言うと、ココは私が作ったダンジョン。カナメはココに生まれたダンジョンマスターで、これから一緒に魔王を目指すのよ!」


 やばい聞いたところで全くわからんかった。簡単じゃなくていいから詳しくお願いしたい。

 ダンジョンって何? ダンジョンマスターって? 魔王? 聞いた倍の事を質問したくなった。ツッコミどころも質問どころも多すぎる。

 いい加減暗がりにも慣れてきたので周りをぐるりとみわたすと、どうやらここは20mくらいのドーム型の空間のようだ。

 天井真ん中に1mほどの穴が開いており、太陽の光が差し込んでいる。そして少女の後ろから見える光加減からして、あそこが外へと繋がっている入り口なんだろう。

 ダンジョンってよりやっぱりただの洞窟じゃね? さっき自分でも洞窟って言いかけてたし。だいたいダンジョンってなんだよ、ごっこ遊びでもやってるのか? 魔女の格好に魔王設定だし。どちらにしろ、少女一人の力で作れるとは到底思えないから、自然にあった洞窟をダンジョンって呼んでいるだけな気がする。


「ここでごっこ遊びでもしてるのか?」


 とりあえず思ったことをそのまんま聞いてみる。

 心臓が欲しいとか、魔女の格好と魔王発言をしている事からして、俺の中ではユリアは厨二病設定大好きっ子として認識された。もしそうなら、闇の秘密結社や魔女の隠れ家ゴッコみたいなのに惹かれるのも仕方ないだろう。


「誰がごっこ遊びよ! カナメはここのダンジョンマスターなのよ。もっと自覚を持ちなさい!」

「ダンジョンマスター?」

「そうよ。カナメは私が作ったダンジョンに生まれたダンジョンマスターなのだから、私が生みの親と言っても過言ではないと思うけど、親というのはあれね……」


 どれだよ! と心の中で突っ込んでいる間にも妄想はグングン進んでいるようで。


「──カナメの母親じゃないものね。私のことは妻でいいわ!」

「いいわけあるか。ロリコンじゃあるまいし、後5年後くらいに出直して――」

「このこの~。照れちゃって」


 肘でわざとらしく突いてくる、うざいな。うん? 今、気になる事言ったな。私が生み出した?


「じゃあお前が俺をこの世界に呼んだのか?」

「別に呼んだ覚えはないわよ。私はダンジョンを作ったの! でっ作ったダンジョンにマスターとしてカナメが生まれたんだから、結果的に私がカナメの生みの親みたいなものって言ったのよ?」


 生み出した? ダンジョンが生まれるってのもよく分からないし、ダンジョンマスターは尚更分からないな……ここは素直に俺が異世界から来たことを伝えて細かく教えてもらうとしよう。このままだと質問しても分からない事が増えていくだけな気がするしな。

 そして本物の異世界転生者を前に驚くといい。好きだろう? 異世界転生。


「あー実は俺、どうもこことは別の世界から来たみたいなんだわ。いわゆる異世界っていうの? だからこちら側の常識ってのが良く分からないのだけれど……」


 さあどうだ! 厨二病なら大好物であろう異世界人だぞ。驚き興奮するがいい。そしたら異世界話でもしてやらんこともない、俺の聞きたい話を聞いた後なら。


「なんとなくそんな気がしたわ、住んでいた所のくだりで。そして『自分をこの世界に呼んだ』とか言い出したから、ああ異世界人なんだなって」


 あっけらかんとした表情で言いやがった。くだりとか言うなよ。そして異世界人に対する反応薄っすいな、ひょっとして珍しくないのか。

 まあいいか、でもこれで色々な事を詳しく聞きやすくなったし。わからないことはドンドン聞いていこう。


「まずダンジョンって何だ? 何のために出来るんだ?」

「じゃあ先ずはそこの説明ね、ではこちらをご覧ください」


そう言って一枚のチラシを渡してきた。





□■□■□


 ダンジョン──それはこの世界における宝物庫と言われている。

 鉱石や宝石が採れ、ただの水ですら貴重な資源となる。

 宝箱が置かれている事もあれば、珍しい素材の取れる魔物(モンスター)が生息する場合もある。

 鉱石、お宝、素材とダンジョンは人類を魅了してやまない。

 だがそれら得るためには多大なリスクが伴うであろう。

 卑劣な罠に危険な魔物達、そしてそれらを守る守護者。しかし、それらの危険を突破し、ダンジョン最深部へ辿り着いたものが手に入れる事ができる【秘宝】


【秘宝】

 一口に秘宝と言っても様々だが、一応に優れた武具やアーティファクト、はたまた失われしロストギフトと呼ばれる幻のスキル書等々。たった一つ手に入れれば名声は一気に上がり、売れば一生安泰と呼ばれるほどである。


 以下はダンジョンにて活躍する冒険者の方々の声です


・いっかいの農夫だったわたしも冒険者になって毎日がハッピーです。(冒険者K)

・今まで酒場でお弁当のパセリのような扱いだったわたしが一気に唐揚げのような主役になれました。(冒険者Y)

・年齢=彼女いない歴だったわたしもモテモテになりました。(冒険者K)

・今まで酒場でツケの催促ばかりされてましたが今ではいつも現金払いです(冒険者Y)


 このように冒険者になって人生を変えられた方が、今も続々と増加中!


 そんな名誉や名声、使いきれない程の財宝を手に入れるための人材を統括する冒険者ギルドは、日々新たな可能性を求め、日夜冒険者を募集しております。次のダンジョン到達者はあなたかもしれない!


 冒険者になるならイチア領キョスイ冒険者組合まで


□■□■□




「なにこれ?」

「冒険者ギルドが発行しているチラシ」


 胡散くせー。冒険者談もYさんとKさんしか出てこないし。何ここ二人しか冒険者いないの?


「でも解りやすいでしょ? まあこんなふうにダンジョンってのは資源なの。尽きぬ事のない金脈みたいなものよ」


 そう言って手近な岩肌に近づき、これまたどこからかハンマーを取り出して壁の出っぱりを叩く。


「ここだって、カナメが生まれた事によってすでに銅鉱石が生まれている」

「そうなのか?」

「多分だけど、岩肌が変化しているからきっとね。ダンジョンの壁は基本破壊不可だけど、鉱石が生まれた所は結晶となって盛り上がって出てくるの。そしてダンジョンで始めに出来るのは銅だからおそらくは……。レベルがあがればもっと色々出来るはずよ」

「そうか」

「だから、ここで銅が取れることが人に伝われば冒険者達が来るわ」

「おお!」

「まあ、今のままじゃすぐにカナメを討伐して終わりになるけど」


 駄目じゃん!

 そうか少しの銅が取れるより討伐して秘宝とやらを手に入れた方がいいよな、俺だってそうするし……ん?


「そうなると、ここにダンジョンが出来た事が知られたら、冒険者が来て俺討伐されちゃうの?」

「いきなり出来たダンジョンに冒険者がふらっと来る事は稀ね。それにいきなり討伐は可能性低いと思うけど絶対に無いとは言えないわね。未発見のダンジョンを見つけた場合は、まず領主に報告してからどれくらいの規模で何がどの程度採れるか、どのレベルの魔物がいるかを調べる探索隊が組まれるから、それが来るまでは大丈夫なはず。彼らにとってもダンジョンは貴重な資源だからね」


 なるほどね。


「これでダンジョンは大体わかったでしょ」

「まあな」

「次にダンジョンマスターの必需品ダンジョンコアの説明に入るわよ」


 胸の前で腕を組みメガネを直す絶壁少女。ここで組んだ腕の上に膨らみが乗らない悲しさよ。


「ダンジョンコアは文字通りダンジョンの中心で、ダンジョンの心臓と言われているわ。ダンジョン内で何か行う時には必ず必要だし、壊されればダンジョンも死んでしまう。勿論ダンジョンコアとリンクしているマスターも死んでしまうわ」


 ダンジョンコアめっちゃ重要じゃん! それこそ俺の第二の心臓と言っても過言じゃない。とするとこいつの欲しい心臓ってもしかするとダンジョンコアのことなのか? 疑問をそのまま口にする。


「馬鹿ね、ダンジョンコアなんて貰ってもしかたないわよ。私には壊して魔力を得るかくらいしか価値が無いもの。それに壊したらカナメ死んじゃうんだよ」


 まるでアホの子を見るように言ってくるけど心臓だってあげたら死んじゃうからな!


「でも『秘宝』は入るんだろ、手に入れれば一生安泰って」

「冒険者ならそうするでしょうね、だけど私は冒険者じゃないわ」


 別に冒険者じゃないと売れない訳ではないだろうに。一生安泰な金額なんて、宝くじが当たったようなもんだろ?


「それにカナメが死んじゃったら意味がないじゃない」


 巨万の富や名声よりも俺の生命が大事だと言ってくれている。見ず知らずの会ったばかりの俺に……。


「何でここまで良くしてくれるんだ? べ、別にお前の目的なんて興味はないけど、知っていた方が良さそうだから──」


 騙されていないか知るためにも、情報は大事だからな。念の為に聞いておくだけだ。


「カナメ──」


 少女は目を輝かせてこちらを見上げると。


「男のツンデレ気持ち悪い」


 と、言いやがった。ほっとけよ。


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