第2話
勇者の掟
一つ、嘘をつくことなかれ
一つ、周く役立つ存在たれ
一つ、秩序遵守の立場たれ
一つ、…
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「ーーさて。これから勇者について、行動規範を教示する」
若く美しい聖職者は、世の女性を蕩けさせる美声で、滔々と話す。
「その前に、オスカー、質問」
「……なんだ?」
「勇者って、辞退することはで…」
「で き ま せ ん」
少女ーーエリンが質問を言い切る前に、若き聖職者・オスカーが否定する。一語一語を丁寧に。
そして問答無用で説明し始めた。
「現在の勇者は、お前を含めて4人。勇者はこのストラスクライド王国の4州を交替で廻ることになる」
「うん」
「期間は、各州2ヶ月。王都は3ヶ月滞在し、1ヶ月を休暇とする1年循環だ。勇者たちの休暇は、各々被らないように手配するそうだ」
「了解」
「各州及び王都滞在中、必ず領主あるいは職業組合の依頼を解決すること。その費用は王国が全て捻出する」
「おおー」
「…合いの手を入れるな。勇者の一団は、上限を6人とする」
「少ないね。勇者が死んだらどうするの」
「…お前な、簡単に死ぬような奴が勇者に選定されるわけないだろ」
「あ、それなら、私も長生き出来るかな?」
「………」
何言ってんだコイツ、と呆れたような顔つきで、オスカーはエリンを眺めた。
だが、実はエリンのつぶやきは、割と核心をついていたりする。
勇者は死なぬよう、様々な取り計らいがされている職業ではあるが、現在4人しか存在していない。
いくら稀少性の高い職業とはいえ、全人口に対して0.00001%にも満たないこの比率は、たいそう異常である。
ーーという事実は、巧妙に隠されいるため、知る者はほとんど居ない。
天から賜りし能力ーー“賜物“を持ち、比類無き強さ故に、勇者の存在は諸刃の剣なのだ。
「……勇者は稀少。それゆえ、おこぼれに与ろうとする徒党を防ぐためだ」
「そっか…」
あごに指をあてて考えこむエリンを見て、オスカーの眼差しがふっと緩む。瞳の奥は温かい光が見える。愛おしそうに、オスカーはそっとエリンを見つめた。
「ね、オスカー」
「なんだ」
「依頼をこなせなかったら、どうなるの?」
「次の当番勇者に引き継ぐ」
「滞在の延長は無いんだね?」
「おそらく。ローテーションを重視しているからな」
「もう一つ。勇者の給料って?」
「……給料いるのか?セコい勇者だな」
「先立つものは、大事」
「給料は出ないが、ギルドの報酬は勇者一行の総取りで構わない。依頼中に発掘した宝も、全て勇者のものだ」
「……なるほど」
エリンは、まさか自分の職業が勇者になるとは思っていなかったから、現実味が薄かった。しかし、こうして説明を受けると、勇者とは本当に特別待遇なのだ。
それゆえに背負うものも重いのだろう。
「エリン。紋章を呼び出せ」
「どうやるの?」
「クレスト、と呼んでやればいい」
「紋章」
その声で、エリンの左手が輝きだす。美しい紋章が、神殿の天井を照らした。
「そうだ。そして『掟』と口ずさめ」
「『掟』」
言われた通りに唱えると、エリンの脳裏にたくさんの『勇者の掟』が浮かんでは消える。それは脳に直接文字を送り込み、強制的に記憶させる。手の届かない場所に無理矢理詰め込まれた不快感に、エリンはめまいを起こした。
「……大丈夫か、エリン…」
「…う、ん。だいじょお…ぶ。やっと収まった」
オスカーは少女の背を優しく撫でた。その手の温かさに、エリンの胸がホッとなでおりる。
「それが、勇者の掟だ。こればかりは、勇者にしか分からない。俺も知らないんだ」
「そうなんだ…」
「…さて、大丈夫なら、これから王都へ向かうぞ。家に取りに行く荷物はあるか?」
オスカーからの問いに、エリンはないと答えた。




