甘党冷酷魔族な私と美青年魔族な彼
前作『ハズレた下級魔族の俺と残念魔令嬢な彼女』の裏側? です。
お父様、その方に手を出さないでくださいませ。
私のものですわ。
保冷庫からタルトを取り出し自然に微笑みが浮かんだ。
素敵なタルトができましたわ、さっそくミゼル様のところに届けに参りましょう。
ベリータルトを箱に入れてから籠に入れる。
厨房から出るとお父様が居間で、くつろいでるところだった。
ほとんど、ヤヘツーサに当主業は任せてるらしく、最近よく見かける光景ですわ。
「どこに行くつもりだ」
まーかいだージャーナルに視線を向けたふりしてお父様が聞いた。
「魔王城ですわ、ミゼル様のところへ参りますの」
「そうか……では」
お父様がいつも通り期待に満ちた目で見た。
「ええ、エクセレントでスペシャルなおもてなしをしてまいりますわ」
薄情な娘でごめんなさいと思いながらケーキの籠を掲げて微笑んだ。
お父様がまーかいだージャーナルをローテーブルに放り出して立ち上がり掃き出し窓まで歩いていって開けた。
「どうしてわかってくれないんだぁ〜」
庭園にお父様の声が響き渡り庭師のウサギ獣人たちが耳を押さえた。
お父様の望みはわかってますわ、でも……
行ってきますわと能天気に聞こえるように告げて転移をした。
私はアールセイル•橙•オーランジァスという橙本家の長女ですわ。
高位魔貴族は他家との政略結婚でつくった子供と一族の特徴を引き継がるため下級人型魔族とつくった子供がいるのが常識ですの。
私は政略結婚の方の子供ですから本来なら他家に嫁ぐのが本当ですけど……ある特殊な事情があっておいそれとは行かないのですわ。
初夏の青紫色の空の下に嫌味なくらい堂々とそびえ立つ魔王城を見上げて視線を下に向けると信じられない魔族がウロウロしてましたわ。
茶色の柔らかそうなセミロングの髪を一つにまとめたあの姿は……どうやって魔王陛下の腕の中から出たのかしら……と小首をかしげてあたりを見ると周りの魔族たちが狙ってるのが見えましたわ。
あんな最上級の下級人型魔族なんて黒地方の特別保護区くらいでしか見かけませんものね。
魔気をはなって威嚇して早々に保護すべく後ろから抱きつきましたわ。
「今日はベリータルトにしましたわ~」
よくイルギスが一人で出しましたわね〜とすり寄るとブルブル震えだしたのがわかりましたわ。
可愛いですわ。
「……あら? 成長期かしら? 」
「でかくて悪かったな」
知ってる方より少しだけ低めで心良い声と私より大きい身長と抱き心地の良い体にうっとりした。
ミゼル姉さん……とつぶやいてふるえる姿さえ愛らしく周りの魔族が生唾を飲み込んだのに気が付きましたわ。
ええ、魔王都に極上の下級人型魔族が無防備にいることなんてないですものね、護衛もなくフラフラいたら当然、さらって囲い込むわよね。
優越感に浸りながら可愛い顔を見ようとそのまま回り込んだ。
綺麗な緑の目がみひらかれた。
「ミゼル様? じゃないですの? 」
「み、ミゼルは俺……いえ私の姉でごさいます」
ミゼル様の弟……そういえば、黒地方特別保護区に兄弟姉妹がいると言ってたわ。
ミゼル様は長女って言ってたからほとんど同じくらいの長男さんかしら、あえて密着するとなんか遠い目をしてたわ。
「まぁー、ミゼル様の弟君ですのね? お姉様に会いに来ましたの? 一緒に参りましょう」
とりあえず、魔王城に避難してイルギス様に話を通しましょうと私は彼に抱きついたまま転移した。
いつも通り、イルギス様がいる玉座の間に転移しましたわ。
通常の上級魔族でも普通は直接転移できないのですけど……私は規格外なのと魔王陛下の敵にならない事がわかってるので可能ですの。
本当につまらない、面倒くさい力ですわ。
抱きついた大っきいミゼル様がブルブル震えながらうつむいている。
魔王陛下の魔力で圧倒されてるみたいですわ。
あら、今日の護衛官は戦闘狂と名高い竜人のムーさんですわ
「アールセイル何用だ」
「イルギス様なんて用はありませんわ、ミゼル様〜、ご機嫌いかがですか〜」
不機嫌そうなイルギス様の膝の上のリゼルとつぶやくミゼル様の愛らしさに癒やされながら微笑んだ。
リゼルさんって言うんですのね。
つぶやいたミゼル様は濃紺レースのドレスもお似合いですけど、エロエロしいですわね、イルギス様の煩悩は108つ以上ありそうですわ。
「アールセイル、そのものは……ミゼルの双子か? 」
イルギス様がリゼルさんに気づかれて顎に手をやって興味深くリゼルさんを見ましたわ。
「可愛いでしょう? ミゼル様の弟君ですわ」
やっぱり、ミゼル様タイプが好ましいようですわね、私もですわ。
でも、リゼルさんは失神しそうですわ。
ミゼルさまも顔色悪そうですわね、大丈夫、リゼル様はしっかりと保護させていただきますわ。
だって私の心をこんなにわしづかみにした下級人型魔族はミゼル様以来ですもの。
「弟か……それなら、私の義弟だな、めん」
イルギス様がニヤニヤしだしたのでさえぎりましたわ。
「私がエクセレントなおもてなしいたしますわ」
イルギスばかり可愛い方を独占させませんのとリゼルさんの周囲に最高強度魔力盾をめぐらせた。
お前には縁もゆかりもないだろう、俺が面倒見るのが筋だ。
うるさいですわね、私が見つけたのですわ。
言い合いをしながらいつも通りミゼル様を抱えて電撃を放つイルギス様を魔力盾で防御する。
続けてオレンジ色の魔力をイルギス様に叩きつけると少しの動きで避けられ壁が爆発して穴が空いた。
右後ろの戦闘狂竜人ムーさんが槍を握り直し戦いたそうにしてるのが見えましたの。
すぐに決着をつけないと少々やっかいだと思いながら小さい爆発をイルギス様の顔の前で炸裂させて目をつぶったところで転移してミゼルの手を握って引き離した。
ついでにイルギス様の腹にも小さい爆発を炸裂させる。
「ミゼル様と弟君は私がエクセレントゴージャスなおもてなしをいたしますわ」
リゼル様にも転移の術をかけた。
その向こうでま、まてと片手を伸ばし、もう片手で腹を押さえたイルギス様が見えたけど、もう遅いですわ。
そう、私は本当は魔王陛下よりも魔力が上の特殊な魔族……これ以上、力のある魔族を生み出すのは簡単だけど、魔王陛下への反逆になってしまう……唯一の方法が魔王陛下の妃になることで、お父様もには望んでるけど……私は望んでないわ。
だって私とイルギス様は同族嫌悪で合わないんですもの。
橙本家の居間でいつも通りお父様がくつろいでいましたわ。
狙って帰ってきたんですもの、当たり前よね。
お父様が驚いた顔をしてミゼル様を見つけていつも通りの嫌な感じの笑いを浮かべたわ。
「アールセイル? よくやった! さあ」
「ええ、早速エレガントでストロングなおもてなしですわ〜」
お父様、私、頑張りますわ〜と大きな声で気づかないふりをして使用人に東屋にお茶の準備をするように命じたわ
「普通のもてなしか? 」
「普通ではありませんわ」
お父様が威圧を出して私に迫ったのでサラリと流してミゼル様とリゼルさんを見ると震えてるのが見えてなんか小動物感満載で可愛かったですわ。
「エレガントでエクセレントでデラックスな最高のケーキでおもてなし致しますの〜」
私がいつも通りに答えるとお父様はいつも通り立ち上がり、居間の掃き出し窓を開けましたわ。
「なんで、なんで、なんで、なんでわかってくれないんだぁ〜」
庭園に悲壮に響くお父様の心の叫びに血も涙もなくてごめんなさいと思いながらだから、丁寧なおもてなししますわと的を外れたことを答えて美しい庭園に移動して、私、手製のケーキを可愛らしいミゼル様とリゼルさん姉弟におもてなしいたしましたわ。
リゼルさんがうっとりと食べてくれているのが印象的で胸がキュンキュンいたしましたの。
リゼルさんが人界でアルバイトされているところまで聞き出して、その日は無事に帰しましたわ、とりあえず……
しばらくして時間が空いたので人界に行こうとしたら珍しく護衛がつきましたわ。
「私、一人でも大丈夫ですのに……」
「ヤヘツーサ様より姫を野放しにするなと命じられてございます」
竜人とハーフの護衛が鋭い眼差しで敬礼した。
人に変化できればついてもいいわと告げると、淡いオレンジ色の鱗の竜人ハーフのミシャはでは準備致しますと、いったん下がってどこから手に入れたのか人界のシャツとズボンに着替えて完璧な人族の姿で現れた。
妙に浮かれてるのよね? 確か竜人ムーさんと従姉妹だったわよね? ムー姉ちゃんに恋人〜 人界〜 とくだ巻いてたって侍女のアルセがぼやいてたけど……
まあ、いいわと思いながら、一応、魔族連絡会、通称魔連を通って人界に転移した。
高位魔族になると人界くらい勝手に転移できるけど……一応、行きくらいは魔連を通した方が、いざというときにいいのよね。
目的地はパン屋……たしかこむぎの熱愛とかいうところよね。
街の中の三階建の緑の瓦のパン屋は奥が厨房で上が住宅らしく、香ばしい匂いがただよっていた。
ガラスのはめ込まれた扉を開けると可愛らしいリゼルさんが会計のカウンターにいた。
「いらっしゃいま……せ」
リゼルさんの緑の瞳が見開いた。
そのあとキョロキョロなにか探してなぜか絶望的な表情を一瞬したけど、その顔さえ可愛いって反則ですわ。
「リゼルさん、ごきげんよう、美味しそうなパンばかりですわね」
「あ、ありがとうございます」
リゼルさんが少しだけ震えながら愛想笑いを浮かべてくれてもう抱きしめたくて仕方なかったですわ。
厨房から覗きに来た筋肉質の店主らしき中年人族にミシャがかっこいいとつぶやいてるのを聞いて、あなた、恋人探しに来たの? と少しムッとしましたわ。
「このデニッシュの見事なこと、美味しそうですわ」
丸いデニッシュ生地の上にいちごとクリームチーズが美しくのせられている。
姫、ほどほどにとミシャの小さい声が聞こえたのでトレーを持たせて、大丈夫ですわとトングでシナモンロール、果汁いりメロンパン、いちごデニッシュ、アンパンとか、あんバタバンズとか甘い匂いのする美しいも魅惑的なパンを乗せていきましたわ。
ケーキみたいな生クリームコッペにカスタードタップリのクリームパン、洋梨デニッシュパン……目移りして欲しいものを次々と入れて、姫、入れ過ぎではとうめくミシャに渡して……気がついたらトレー3つになってましたわ。
美味しそうなのが悪いんですわ、屋敷のみんなとミゼル様とイルギス様にも差し入れましょう。
リゼルさんがびっくりしたように緑の綺麗な目を見開いた。
隣にはカレーパンをバットにもって出てきた店長も驚いている。
後ろでああ、店長さん、私が食うのではないのです……とミシャがつぶやいてるのがきこえた。
本当に口数が多い護衛ですこと……そしてあの筋肉店長は沢山食べたほうがアピールできると思いますわ。
「こちらをお願い致しますわ」
「は、はいありがとうございます」
にっこりと微笑んでトレーをカウンターにおいていくと可愛いリゼルさんが急いで一個、一個ビニール袋にいれてくれた、人界の……特にニホンって本当に丁寧ですわ、店長も一緒に入れている姿に可愛いってミシャ……
大きな袋を2つ受け取って一つをミシャに渡すと可愛いリゼルさんにむかって満面の笑みを向けた。
リゼルさん、可愛い過ぎですわ。
「みんな美味しそうで迷ってしましたわ、リゼル様、この間は楽しかったですわ、ぜひまた来てくださいませね」
「あ、ありがとうございました」
可愛くお辞儀をするミゼルさんに未練を感じながら、同じく店長にふらちな視線を熱心にむけるミシャに、行きますわと声をかけてパン屋から出た。
ずーっとあの愛らしいリゼルさんと一緒にいたいと思いながら、ふぬけた護衛を連れてその日は魔界に帰りましたわ。
そしてしばらくの日常……聞こえるのは反逆者の怨嗟……
「アールセイル、ミゼルの弟にわざわざ会いに行ったそうだな」
「ええ、可愛らしかったですわ」
イルギス様に滅しても滅しても湧いてくる、反逆者たちの処分を伝えながらあの可愛い魔族を思い出した。
私の仕事は魔界のうちでも暗部に属する。
大罪人オストロフィスはある意味、表の軍部が追えるくらいの変な言い方だが、明るい方の反逆者で、ある意味泳がせてた。
捕まえたスケープゴートを今後どうするか……また逃がすのか、捕まえておくのか、滅するかは闇の議会で協議中ですわ。
そして、私は自分が存在していくために魔王の下僕として動いている……でなければ、最初に滅されてしまっていた。
反逆者たちはいわばオストロフィスと違うもっとドロドロしている者たち……
ええ、素直なお父様や弟の知らない……能天気魔族で閑職な私の真実……私は反逆者たちのなにかで汚れまくり、恨まれまくりですわ。
「こんど、ミゼルを連れて会いに行くか? リゼルだったか……」
「リゼルさんは私のものですわ」
イルギス様と暗い微笑を浮かべながら累々と重なる、反逆者だったものをなんの感情もなくながめた。
癒されに行きたい……何かにまみれた手をじっと見るとあの可愛い魔族が浮かんだ。
イルギス様がなにか言ってますけど……
「……ご苦労だった」
やっとその声だけ聞こえたので礼をして寒々しい空間から転移した。
この匂いをごまかさないと、彼に会いに行けない。
チーズケーキにチョコケーキ、シュークリーム……
身体に洗浄の魔力をかけてから厨房に飛び込んで一心不乱に何かに追われるようにケーキをいつものように作り続けた。
もっと作らないといけませんわ。
「姉上、甘ったるい匂いが……」
「ヤヘツーサ、エゼルさんとヘルちゃんにもどうぞ、ジャリアさんは高級菓子しか食べないのよね」
エゼルさんはヤヘツーサの下級人型魔族の妻、ジャリアさんは正妻、ヘルちゃんはその娘で私の可愛い姪ですけど、ジャリアさんは私の事嫌いみたいですしね。
「そういえば、あの小動物魔王妃様とよく似た、男魔族に夢中だそうですね」
ヤヘツーサがマカロンを手にとって眺めた。
うまそうだが……胃が……とお腹をなでてる。
「リゼルさんの事が気になりますの? 」
「ええ、まあ、姉上に恋人くらいいてもいいと思いますが……下級人型魔族は癒やされます」
ヤヘツーサがたぶんエゼルさんを思い出して微笑みましたわ。
ジャリアさんだけのときはよく胃がとか今よりひどい顔してましたものね。
エゼルさんは薬師だし、胃痛も和らいでるみたいで良かったわ。
ヤヘツーサにマカロンを多量に押し付けて保存容器にケーキを沢山いれて人界に転移した。
もちろん人族に化けるのは忘れてないですわ。
あまり人が多くない田舎町の古い蔦が絡まったマンションがリゼルさんのうちだとミゼル様から聞いてありますの。
聞き出すときすごく震えられましたわ。
威嚇したつもりはないですのに?
マンションの管理人室で黒と灰色と白が混じったほわほわ髪のおばあちゃんがのんびりとテレビを見ていて癒やされましたわ。
旅長老とかCMに入るとき画面に出てましたけど……ウルヒファルシアさんがお好きそうですわと思いながらながめてると、なんかようかい? とおばあちゃんがこちらに出てきた。
ちょうど神樹の民らしき長老がどっかのお屋敷でひかえなさいこの神樹が目に入らぬかとか悪漢に言ってるところだったのに、申し訳なかったですわ。
「こんにちは、リゼルさんに会いに参りましたの」
「リッちゃんの彼女さんかね」
まだ帰ってないしここでお茶でもどうだいとおばあちゃんに手招きされたので遠慮なく管理人室に入れてもらいましたわ。
小さな部屋にテレビと座卓と座椅子と座布団がおいてあって、エアコンがあるのにかかっておらず、扇風機が一生懸命回ってましたわ。
模様のついたガラス戸の向こうの台所からおばあちゃんがにガラスのコップに麦茶を入れたものを二つ丸いお盆に乗せてテーブルに置いてよっこいしょと座った。
「リッちゃんもモテるからね」
「可愛らしいですものね」
なんとなく顔を見合わせてわらった。
ああ、リッちゃんよびいいですわ、呼んでしまおうかしら。
「まあ、私には可愛い店子で……あんたが高位魔族でも大事にしてくれれば何も言うつもりもないけどね」
鋭い眼差しでおばあちゃんが私を見た。
「ええ、大事にいたしますわ」
神樹の民……それも強い方かしらと思いながら保存容器を開けてチーズケーキを出してすすめた。
皿持ってくるよとおばあちゃんが立ちかけたので私がと断ってお皿を借りて盛り付けた。
神樹の民……それはかつて魔族を滅した天敵の種族……神樹から賜った小枝を武器に変えて戦う人族……今は和平状態でほとんど対決はないけど……なんでこんなところで大家をしてるのかしら?
今後、訪問するならおばあちゃんにも差し入れ必須ですわと、おや、うまいケーキだねとホクホクしている様子を見て思った。
管理人室でまってるとリゼルさんが戻ってっきて私を見て持ってた袋を落としましたわ。
「リゼルさん来てしまいましたわ」
手を振るとなんかとまどった顔で可愛らしいですわ。
「恋人がいたんだねぇ、リッちゃん」
「まあ、嬉しいですわ」
あまりの可愛さに両頬に手をあててしまいましたわ。
「美味しいケーキを沢山持ってきましたの、参りましょう」
腕を組んで呆然としているリゼル様のお部屋に行きましたわ。
おばちゃんに聞いておきましたの。
生活感あふれるちいさなお部屋のちいさなテーブルにいそいそと持ってきたケーキを出しましたの。
ショートケーキにチョコレートケーキ、シュークリームにチーズケーキと作りすぎたマカロンをたっぷりお皿を借りて盛り付けた所でやっとリゼルさん……リッちゃんさんの視線があってきましたの。
「召し上がれ」
「い、いただきます」
微笑んですすめるとキリっとした顔をしてスプーンを手にとってショートケーキを口に含んだ。
「お、美味しいです」
「リゼルさん、あーん」
スプーンにチーズケーキをすくってリッちゃんさんの可愛い口の前に運んだ。
「あ、あの……やめ……」
恥ずかしそうにでもうっとりと目を細めながら召し上がる姿に悶ましたわ。
その日は緑茶をすするリッちゃんさんやケーキを食べるリッちゃんさんやなんか困った顔で笑うリッちゃんさんを堪能して、こんどエレガントでグレードなケーキをお持ちしますわ〜リッちゃんさんとどさくさで呼んで魔界へ帰りましたわ
リッちゃんさんを愛でるための時間が増えましたわ。
裏のお仕事も表のお仕事もそこそこにケーキを作ってなるべくリッちゃんさんのところに行きましたの。
もちろん大家のおばちゃんにはワイロのケーキを差し入れまくってますわ。
あんた、本当に能天気魔族だねと呆れられてるのできっと裏のお仕事はバレてないですわよね?
おばちゃんもリッちゃんさんもアンコが好きとおっしゃってるから、トカチ産の小豆でも取り寄せて煮てみようかしら。
そんなことを思ってると玉座でイルギス様に抱き上げられているミゼル様と目があった。
何か話したい様子なのでこちらへ転移させる。
アールセイル〜と騒ぐイルギス様を尻目に部屋の隅に行くとミゼル様が震えながら口を開いた。
「あ、あのリゼルをもてあそんでないですよね」
可愛い、でも以前より惹かれない緑の目が私を見た。
ああ、心配されてるんですのね。
「リッちゃんさん……リゼルさんは私にとって大事な方ですわ」
誠実に見えるように真顔答えた。
「弟をよろしくお願い致します」
「大切にいたしますわ」
頭を下げるミゼル様のつむじに誘惑されながら頭を下げるとイルギス様が後ろからミゼル様を回収していった。
いつものように裏のお仕事のあとに多量にケーキとか最近作り始めた、アンコスイーツ、どら焼きを作ってたら、また、反逆者が出たと聞いて駆けつけて八つ当たりにめちゃくちゃに滅して差し上げましたわ。
『こ、この冷酷……』
最後になんか言ってましたが気にしませんわ、もっと沢山、沢山つくらなくっちゃいけませんわ。
このゴミの山より高く甘いものを作らないと……
アンコスイーツを山ほどつくって癒やしに出かけた。
もちろん大家のおばちゃんに貢いでリッちゃんさんの部屋を訪問した。
あんたも修羅の道だねぇと大家のおばちゃんが言ってたけど……気にしませんわ。
「リッちゃんさん、あーん」
どら焼きをあーんしながらさり気なく膝に乗ってリッちゃんさんに抱き寄せてもらって癒やしてもらいながら、心が……いえ可愛いリッちゃんさんさえいればいいですわと今度は生クリーム大福でも作りましょうと思ったですわ。
隣のコンビニ店員とやらがリア充爆発しろとか言ったそうですので、リッちゃんさんに危害を加えるようならご希望通り爆殺いたしますわ。
ああ、癒やされましたわ……明日も元気に滅してきますわ。
本当なら青紫色の空が広がる初夏の色も見えない人工的な光の地下室に反逆者の悪臭が立ち込めている。
グギャと叫ぶ反逆者をひねりつぶしても今日は心は暗くならない、むしろリッちゃんさんを思い浮かべて笑みが漏れそうだ。
「最近、キレが良うございますね」
裏家業の部下の白分家のオルセノンがズルリと蛇の尾を引きずりながら近づいてきた。
「ええ、絶好調ですわ」
にっこりと微笑んではいずって来たものをつぶした。
「冷酷令嬢様に見込まれるとはどんな魔族か……」
嗜虐の笑みを浮かべ、2つに別れた舌で唇をぺろりとなめオルセノンが目を細めた。
さすが、情報収集の白家ですわ、リッちゃんさんの情報をどうに集めたのかしら?
「一体何の話かしら? 」
「愛らしい方を囲って」
るそうでとオルセノンが行ったところで魔力を飛ばした。
「やりすぎですよ」
「リッちゃんさんに手を出したら滅して差し上げましたわ」
スルリと逃げたオルセノンにもう一発かますために力を練り上げた。
「嫌ですね、冗談でございますよ」
「冗談は顔だけに……」
言いかけたところで私のセンサーによく知った気配が接触したのがわかった。
魔力をオルセノンに投げつけて転移する。
あとのことなんてしりませんわ、私の大事な方になにかしたら……許せないかもしれませんわ。
転移するとあの安マンションの前で怯えるリッちゃんさんに見慣れた魔族……お父様が手を伸ばしたのが見えた。
「リッちゃんさん、来ましたわ~」
あえて能天気に告げた。
「アールセイル」
お父様が気まずそうに視線を向けた。
「お父様? どうしてここに? 」
少し魔力を込めて威嚇するとお父様はますます後ろめたそうな顔をした。
本当にほのぼのとされていますこと。
「もちろん……婿殿をさらいにだが? 」
お父様はそう答えて、許せないことにリッちゃんさんの肩に手を置いて転移した。
あとに残った私が魔力の残滓をたどって転移をしようとしてると大家のおばちゃんが出てきた。
「親子して騒々しいね」
紫の花柄リップルパジャマにクリーム色のカーディガンを羽織って、サンダル履きの姿で苦虫潰した顔で私を見た。
「すぐに取り返してまいりますわ」
ほの暗い笑みを浮かべた。
「……あんた……まあ、リッちゃんさえ幸せならそれで、しっかりやんな! 」
ぽんっと背中をたたかれた、力付けられた気がした。
会釈をしてリッちゃんさんの気配を追って転移する。
お父様がリッちゃんさんを囲って、何か言ってるところにでた。
「お父様〜御無体はいけませんわ〜」
私のリッちゃんさんに触らないでくださいませと思いながら手加減しながら力を放った。
「ちょっと待て、お前、婿殿と私を滅する気か〜」
「大事なリッちゃんさんには最高のシールドを張ってますわ」
お父様がリッちゃんさんを抱き込んで腕を前に出して魔力を弾いた。
オレンジ色の魔力はそのまま壁を破壊して大穴を開け屋敷を貫いた。
「うむ、極上の下級人型魔族……とはこういうことか」
おとなしく腕の中に収まるリッちゃんさんにお父様が納得した顔をした。
リッちゃんさんがお父様の腕の中で私の方を見た。
私が抱きしめたいのに〜
「私だってリッちゃんさんを抱き込んだことがありませんのにずるいですわ〜」
「だから、私はお前のことを婿殿と……」
「家を破壊するおつもりか! 」
壁の穴から腹を押さえたヤヘツーサが飛び込んできた。
また、胃痛がぁとつぶやいてるのが聞こえてしまいましたわ。
「あら、ヤへツーサいましたの? 」
「おお、いいところに、アールセイルの婿だ」
お父様がのんきに紹介している。
「婿ってなんですか? 姉上、もう少し穏やかにもらえないんですか〜」
「おじいちゃま、すごいのです〜爆発したの」
まだ幼い姪のヘルリアナも穴から飛び込んできましたわ。
リッちゃんさんが引きつった顔をしていますわ。
「お父様、いい加減に私のリッちゃんさんを離していただけませんの」
「大っきいミゼルちゃんなの」
ヘルリアナがわーいなのと意味なくクルクル回った。
「この大っきいミゼルちゃん、リッチャン殿? がヘルリアナの義伯父さんだ」
お父様が私にリッちゃんさんを押しやったのですかさず抱きついた。
癒やされますわ〜。
「姉上の婿が下級人型魔族……胃が……胃が……」
ヤヘツーサがお腹をなでてる。
「ヤヘツーサ、考えてみろ、アールセイルなんぞ、政略結婚に使ったら橙家の評判がどんなに落ちるか……現に縁談はすべてパーだ、割れ鍋に閉じフタ……フタが美しすぎるのはご愛嬌だが、一応別邸も用意してある」
お父様がしみじみとヤヘツーサの肩を叩いた。
つまり、胃痛の原因が……
そうだ、頭痛の原因が……
そして二人してキラキラした目で手を取り合った。
ヤヘツーサの足にヘルも手をつなぐの〜とヘルリアナが絡みついてる。
二人とも失礼ですわ。
「リッチャン君、姉をよろしく頼む」
「末永く幸せにな」
「おめでとうなの〜」
ギラギラした目でお父様とヤヘツーサついでにヘルリアナに祝福された。
なんですの? その危険物を処理したようなすがすがしい顔は?
「え……えーと」
戸惑うリッちゃんさんの愛らしさに萌えた。
「お、俺と」
「リッちゃんさんは私が幸せに致しますわ、だから結婚してくださいませ」
言いよどむ姿に萌えながら先回りしてプロポーズしちゃいましたわ。
「よろしくお願いします」
リッちゃんさんがうなずいてくれましたわ。
うれしいですわ〜。
天に登る気持ちってこんな感じですの?
実際に登ってもうっとうしい天使がいるだけですけどね。
「ウェディングケーキは私が作りますわ〜」
エクセレントでゴージャスなウェディングケーキを作ると心に誓いましたわ。
これで、私の胃痛が少しは良くなるー
叫ばずに済むぞ〜
わーい、伯母ちゃまおめでとうなの〜
祝福となんか厄介払いな言葉を聞いたけど、幸せだからいいですわ。
今日も元気に反逆者を滅し中ですわ。
「オストロフィス君はなんかピスピス鼻鳴らしてますね」
ミノムシ状態でぶら下げられてる子虎がまどろみながらぴすぴす鼻をならしてる時空間が映った映像を見て嗜虐心バリバリらしいオルセノンがチロチロ舌を出した。
オストロフィスは本当は大きくなれない体質の子虎でこちらの都合で術をかけて一時的に大人の雷獣にしていた。
あの子の双子の兄が生きていれば、いい大罪人になれたと思うんだけど……魔王陛下が滅してしまいましたしね。
「闇の議会はまだ決めかねてるみたいですわ」
「可愛い子虎なのに、前途不明とは……」
オルセノンは獲物を狙う目で見てるけど……可愛いのはリッちゃんさんですわ。
さっさと反逆者を滅して帰りましょう。
エゼルさんと幼馴染だなんて思いませんでしたわ、あの二人が話してるところ見ると癒やされますの。
あの後、リッちゃんさんは人界の仕事を辞めて婿入りしてくださいましたわ。
リッちゃんさんのご両親とも会いましたけど、本当に麗しい下級人型魔族のご夫妻で黒地方の特別保護区でなければ間違いなく残ってないだろうレベルでしたわ。
結婚式には大きなウェディングケーキを十個も作ってしまいましたわ。
ヤヘツーサがこんなにどうするんですか〜姉上〜と叫んでましたわ。
ヘルちゃんとお母様たちは大喜びでしたのに器が小さいですわよ。
お父様は白目向いてましたけどね。
「虎くんはともかく、私は新婚なのでもう帰りますわ」
「可愛いお婿さんによろしくお願い致します」
胡散臭い笑みを浮かべたオルセノンを冷たくいちべつして私は転移した。
魔王城の表に一旦出ると謁見の間で表の部下たちが改修工事していた。
一応地下の裏の仕事場から直接家には転移できない結界が張ってあってめんどくさいんですわ。
班長〜壊さんといてくださいとトカゲ族のエスメラルダさんに怒られてしまいましたわ。
そういえば、イルギス様がこの間ミゼル様をだしにリッちゃんさんを呼んだときいつも通り喧嘩になってけっこう壊してたわ、ごめんなさいと表の部下たちに謝って転移したわ。
可愛いリッちゃんさんが待つ別邸へレッツゴーですわと廊下についたらお父様につかまりましたわ。
「たまには一緒に食事をしたいんだが」
「無理ですわ」
むしろアールセイルはいらん、リゼル君だけいればいいんだと断るとお父様がいいくさりやがりましたわ。
本当にリッちゃんさんにメロメロってどういうことですの?
エゼルさんにはこんなに執着しませんのに……
「リッちゃんさんは私のものです、当分お断りですわ」
私はさっさと今の掃き出し窓から中庭に出て愛の巣である別邸に急いだ。
ええ、今、リッちゃんさんと庭を挟んだ別邸に住んでますの。
私はリゼル君で癒やされたいだけなんだ。
なんでわかってくれないんだぁ〜とお父様のいつもの叫びを聞きながら思った。
本当にリッちゃんさんって魔性の下級人型魔族ですわ。
あんまり、お父様がうるさければ別のところに屋敷を準備しようかしら。
玄関に入ると可愛くて綺麗で癒やしなリッちゃんさんが出迎えてくれた。
トマト煮込みのいい匂いはきっとリッちゃんさんの手料理ですわね。
「ただいまですわ」
「おかえりなさい」
思わず飛びつくとリッちゃんさんが抱き締めてくれた。
幸せを噛み締めながらいい匂いと微笑んで肩を抱いてもらって部屋に入った。
裏家業バリバリの冷酷魔族が幸せになったら滅した反逆者たちに恨まれそうですけど、幸せなもんは幸せなんですもの仕方ないですわ。
リッちゃんさんに額にキスされてとろけそうになりましたわ。
ええ、これで私、明日も頑張って裏家業頑張れそうですわ。
可愛いリッちゃんさんをうっとり見つめてそう思いましたわ。
そして絶対にお父様には渡しませんわ。
リッちゃんさんと幸せになりますの。
読んでいただきありがとうございますm(_ _)m