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86話 エルフ的思考法(1)

 長老の家は、見掛けこそ立派だったが、せいぜい部屋の数が二つに増えたくらいで、内装はイリスさんの家と比べて特段豪華ということはなかった。


 やはり、エルフは外の世界に比べると、貧富の差が少ない社会ではあるようだ。


「おじいちゃーん! いるー? リロエだけどー!」


 リロエが親戚の家に来たような気軽さで家の中に声をかけた。


「おうおう。リロエ、来よったか。テルマもしばらくぶりじゃのお」


 奥からのそのそと歩き出てきた老人のエルフが呟く。


 いかにも好々爺といった雰囲気だ。


「ご無沙汰しております――今日は村を救うに足る力をもった冒険者を連れて参りました」


 テルマがどこか他人行儀な口調で言って一礼した。


「――おうおう。後ろにおるのがリロエの連れてきた冒険者か。わしが村長むらおさのシュタムじゃよ」


 シュタムは僕たちを一瞥して呟く。


 リロエに対する者とは違う、政治的な固い表情をしている。


 悪意は感じないが、かと言って好意的でもない声色だ。


「こんにちは。ご存じの通り、ダンジョンを攻略しにやって参りました。つきましてはその任務を果たすまで、滞在の許可を頂きたく存じます」


「村の半分の者がそなたらを呼ぶことに賛成した。しかし、そなたたちを快く思わない者がもう半分おる」


 僕の要求に、シュタムはのらりくらりと呟く。


「まさか全員一致していないから出て行けとはおっしゃいませんわよね?」


「そうは言うておらん。わしの住んでおる樹はちょうど村の真ん中辺りに立っておる。賛成の者は村の西に多いから、西の端から、わしの樹までの間において滞在を認める。東の区域には入らぬように」


 ナージャの疑問に、シュタムが矍鑠(かくしゃく)と答えた。


 バランス感覚があるというか、おそらく、シュタム本人に独裁的に振る舞えるような権力はないのだろう。


 村の意見を集約し、最大公約数的な結論を導き出すのが、彼の役目なのだ。


「承知。して、寝起きはいずこですればよいのでござるか? 吾は立ったままでも眠れまするが、主たちには宿が必要にござる。そこらでキャンプをしてもよろしいか」


「あ、あと、ご飯の件もどうしましょう!」


「村の外れに、物置きになって人の住んでおらぬ洞がいくつかある故、そこで寝泊まりをすればよかろう。そなたらはイリスの一族と縁があるようじゃから、世話の一切はイリスとリロエに任せる。物置の洞はイリスの家の近くにあるしの。食糧は必要な限りにおいて、他の村人から徴収して良い」


 シュタムが二人の問いを一瞬で捌く。


「ご配慮くださりありがとうございます。おかげ様で滞在の目途が立ちました。ダンジョンの攻略については――?」


「先ほども言うた通り、その件に関しては村の意見は二つに割れておる。外の力を借りるべきと考える村人の代表がそなたたちで、村人の力のみで解決すべきと考える者たちの代表がペスコなのじゃから、後はそれぞれで話し合って決めるが良い。さきほど遣いの者をやらせたから、もう少しでペスコたちがワシの家の前にくるじゃろう」


 シュタムは僕が持ち出す話題を予期していたような早口で答えた。


 丸投げか。


 まあ彼としてはどちらかに肩入れする訳にはいかない立場なのだろう。


 日和見主義と言ってしまえばそれまでだが、理解できなくはない。


「わかりました。では失礼します」


 僕たちは長老の家を辞した。


 ペスコという人物と顔を合わせるのは気が進まなかったが、一応話はつけておかなければならないだろう。


「きたわ!」


 数分経った頃、リロエが静かに空を見上げて叫んだ。


 5人くらいのエルフが空を飛んでこちらにやってくる。


「――っていうかあれ! エルフ以外の人もいますよ!」


 ミリアが別の人影を指さす。


「……鎖につながれてるけど」


 僕は顔をしかめた。


 5人のエルフはそれぞれ両手に鎖を一本ずつ握っていた。


 その先は首輪に連結しており、人間、獣人、ドワーフなど色んな人種が、引き摺られるように地上を歩かされている。


「戦闘奴隷でござるな。胸に焼き印がござる」


 レンが目を細めて呟いた。


 そもそもエルフなら鎖を使わなくても魔法で従属させられそうだし、もしかして、僕たちを威嚇するためにわざとやっているのかもしれない。


「――ウチが里から持ち出したのと同量の宝石をあいつらも持って行ったわ。きっとそれで買ったのね」


 リロエが複雑な表情で呟く。


「戦闘奴隷のレベルは――10代後半くらい? あの戦力でダンジョンを攻略できるとは思えない。一体何に使うつもり?」


 テルマが首を傾げる。


「……ふう。見るからに厄介そうな人たちだなあ」


 僕は頭を掻いた。


「ふっ。もう来ていたか人間共。言っておくが、貴様らの出番はないぞ。我らがすぐに汚れた魔族共を駆逐するからな」


 僕の前に降り立った青年のエルフが、尊大な口調で言う。


「あいつがペスコよ」


 リロエが小声で呟く。


「あなたたちがダンジョンを攻略してくれるというなら、僕たちに否はありませんが……。その人たちを使うんですか?」


 僕は戦闘奴隷たちに視線を遣って言う。


「ふん。そうだ。戦闘力には期待できない雑魚だが、『生きている』以上精霊を入れる器にはなる」


「――まさか、古代の外法を使うつもり?」


 テルマが目を見開く。


「外法?」


「ヒトの魂を抜いて、そこに精霊を植える込魂法(ここんほう)という特殊な術がある。肉体という器に守られた状態なら、アンデッドのダンジョンにも精霊を持ち込める。でも、代わりに魂を抜かれた彼らは廃人状態になる可能性が高い。危険な術だから、最近は使用を禁止していたはず」


 テルマが嫌悪感を滲ませて答えた。


「精霊を使役できない分際で、無駄に知識だけはあるな半人が。外法とされたのは、せいぜいここ数千年の話だ。平和という美名の下に停滞に甘んじている、ぬるい時代の産物に過ぎない。込魂法(ここんほう)は、古代の魔族との戦争では頻繁に用いられた記録があるれっきとした戦術の一つ。先の合議でも、緊急事態には使用を認められている。今がまさにそれだ」


ペスコは悪びれることなくそう反論する。


「エルフってもっと知的で洗練された種族のイメージだったのですけれど、喜々として奴隷を用いるなんて意外と野蛮ですのね」


 ナージャがチクりと嫌味を言う。


「野蛮? 野蛮だと? 創造神様から与えられた本来の使命を忘れ、自然を破壊し、無駄に快楽と享楽を貪る退廃した文明を蔓延らせている怠惰で邪悪な人間共が、我らを批判するか。とんだ笑い(ぐさ)だ」


 ペスコはそう言って、取り巻きと共に嘲笑を浮かべた。


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