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54話 襲撃者

「あまり調子にのらないで欲しいですわ――ね!」


 ナージャが壁を蹴り、トラップのスイッチになっているワイヤーを引き抜く。


 壁に仕込んであった兵器が、少女目がけて射出される。


 モンスターの脚と棘の皮を組み合わせて作られた矢のような、槍のような攻撃だ。


「ぬるい。道中の罠も拝見したが、そなたの罠は殺気がはしり過ぎにござる」


 獣人の少女はそれを予知していたかのように、サッと後ろにステップを踏む最小限の動作で躱した。


「ちっ! お見通しって訳ですの! ワタクシの本業は罠を作るより探す方なんですのよ!」


 ナージャが舌打ちする。


「ライトニングボルト! 『ファイア!』」


 僕は魔法を同時詠唱して、ナージャを援護する。


「……無駄でござる」


 獣人の少女は身体をひねって、胴体――黒い服の正面から僕の魔法を受ける。


(無効化した!?)


「ちっ! 魔防のアミュレットを縫い込んでますの? そりゃ対策はしてまいりますわよね! タクマ! ミリアを連れて下がりなさい! この娘の速度についていけるのはワタクシだけです!」


 ナージャが叫ぶ。


「わかった!」


 言われるまでもなく、僕は行動を開始していた。


 楽器を放置したまま、僕は反対側の壁の下部のみを解体し、そのまま蹴り倒して、橋代わりにする。


「ひうっ! 一体なんなんですか!? あの人、どうして私たちを襲ってくるんですか!?」


「ミリア! 話は後だ! 先に行って! それからナージャにプロテクトを!」


 僕はミリアを先に逃がしつつ、そう命令した。


「は、はいいいいいいいい! プロテクト!」


 ミリアは涙目に動揺しつつも、僕の指示に従って走り出す。


「ソイル! 《ソイル》」


 僕は盾を後ろ手に回しながら、ソイルの魔法を次々に繰り出す。

 

 やがて、完成する即席の道。


 滑りやすい汚れた床を避け、僕はその道の上を駆け抜ける。


「元々の隠密スキルも高いのでしょうけれど、このワタクシが接近にも気が付かないなんて相当ですわね。あなた」


「そなたこそ、探索者の身の上での剣技と渡り合うとは見事」


 ナージャと獣人の少女は互角の戦いを繰り広げていたが、やはり敵の方がパワーが上なのか、徐々に押されてきている。


 そう長くはもたなそうだ。


「ナージャ! 早く!」


 道の中ほどまでやってきた僕は叫んだ。


「今、行きますわ!」


 ナージャは獣人の少女が視線をそらさないまま、後ろに跳躍する。


「させぬ――フっ!」


 瞬間、獣人の少女は、口をすぼめて何かを噴射した。


 さらには靴の爪先から、何かを射出する。


「くっ。飛び道具なんて卑怯ですわよ!」


 ナージャはさすがの身のこなしで口から吐き出した何かをかわしたが、足から射出された方はよけきれず、腕をかすらせた。


「御免。(きょう)神への信仰は修羅道にて」


「ええ。存じ上げておりますわ! 暗殺道ですものね! 当然、毒も仕込んであるのでしょう」


 僕の作った道に着地したナージャは不敵に笑うと、傷を受けた部分の腕の肉を薄く抉り取った。


 たちまち血が溢れ出す。


「ナージャさん! 『ヒーリング』! あと、ポーションです!」


 すでに道の先にいたミリアが、傷を治しながら、状態異常回復のポーションをナージャに向かって投げる。


「助かりますわ!」


 ナージャが状態異常回復のポーションを一気飲みする。


 彼女がこれを多めに持っていけと言っていたのは、そういう意味だったのか。


「ナージャ! 道を解体するよ! いい!?」


 ミリアに続いて汚れた床の上を走り終えた僕は、そう宣言する。


「余裕ですわ!」


 ナージャが床から踏み切った瞬間、僕は土で作った道を消滅させる。


 これで、獣人の少女が突っ込んできたとしても、クロービのように滑って転倒する――


「甘いでござる」


 獣人の少女は、横に跳んだ。


(嘘だろ!? アクションゲームじゃないんだから!)


 なんと少女は壁に垂直に立って、まるで重力などないかのように全力疾走してくる。


 これも何かのスキルなのだろう。


「くっ! ソイル 《イリュージョン!》」


 僕は苦し紛れに投擲しながら、密かに足の爪先で呪文を描く。


「その程度――ぬっ!」


 難なく僕の投げた石を剣で弾いた少女だったが、幻影魔法の方はまともにくらった。


 壁から足を離し、くらんだように床にしゃがみ込む。


 おそらく、僕に対する戦力の事前の調査で攻撃系の魔法の使用は把握していたが、つい数日前に習得したばかりの魔法までは対策ができてなかったのだろう。


「ソイル 《ウインド》 ソイル 《ウインド》」


 僕は後退しながらも、すかさず石礫を少女に向かって投擲した。


「まだまだ!」


 カキン! カキン! 


 見えてないはずなのに、獣人の少女は僕の攻撃を全てしのぎ切った。


(くそっ! なんて勘と反射神経だ!)


 少女のすさまじさに、僕は歯噛みする。


「ひいいいいいい! 怖いですううううう!」


 走りながら絶叫するミリア。


「とりあえず下の階層に退避して態勢を立て直しましょう!」


 ナージャはそう言いながら、事前に準備してあったトラップを片っ端から発動して回る。


 あの少女が引っかかるとは思えないが、時間稼ぎにはなるだろう。


「わかった! ソイル! 《ソイル》」


 僕も時間稼ぎに壁を作ってあちこちの道を封鎖しまくる。


 少女に対する有効策を思いつけないまま、僕たちは逃げるように11階層へと進出した。


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