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39話 依頼

 ナージャが僕たちのパーティに暫定的に加入してから三日後のこと。


 今日もダンジョンで依頼をこなした僕たちをテルマさんが呼び止めた。


「今日、ミルト商会から、タクマたちに指名で依頼がきた。期間は、明日から二ヵ月程度。内容は、マニスから王都カリギュラへと荷を運ぶ商隊の往復の護衛。額面の報酬はダンジョンに潜るよりは若干下がるけれど、旅費・食費・ミルト商会が王都カリギュラで仕事をしている間の宿泊費は全て向こう持ちだから、総合すると悪くない話。どうする?」


 これがシャーレが言っていた『うまい仕事』か。


「僕としてはカリギュラに行ったことがないから、是非受けたい依頼だけど、みんなはどう?」


 僕はそう言って、ミリアとナージャを見た。


 僕は今のところ、異世界の都市はマニスしか知らないから、別の都市にも行ってみて見聞を広めたいものだ。


「私はいいかと思います! 護衛といっても、この辺りは治安がいいですから、早々危ないことはないと思いますし!」


 ミリアがビシっと手を挙げて応えた。


「ワタクシも構いませんわよ。どうせその内、マニスを出てカリギュラへ向かうつもりでしたから」


 ナージャが頷く。


「では、満場一致ということで、その依頼、受けるよ」


 僕はテルマさんに向き直って答える。


「わかった。では商会に伝えておく。後、一応、カリギュラの方の冒険者ギルドの方にも便宜をはかってもらえるように取り次いでおくから」


 テルマさんが頷いて言った。


「よろしく」


 こうして話はあっさりとまとまり、僕たちのカリギュラ行きが決定した。




                 *




 当日、ミルト商会の前に僕たちは集合する。


 すでにそこには、荷車が4台、ずらりと縦に並んでいた。


 4台とも、僕が初めて異世界に転移した日にシャーレが操っていた荷車よりは倍以上は大きい。


大規模な商隊だからこそ、護衛が必要だということだろう。


 動力源らしい動物も、前に見たバッロではない、それよりも二回りほど大きい馬っぽい動物だった。挨拶がてら撫でるついでに『動物学』のスキルを発動してみた所、『ホーシィー』という生き物だと分かった。


 ちなみに、荷車ごとに護衛が雇われていて、僕たち以外の冒険者の姿もちらほら見かける。


 シャーレは4台の内の一台――最後尾の荷車の管理者、という位置づけらしい。


「シャーレ。この度は仕事をくれてありがとう。改めてよろしく」


 僕はそう言って挨拶する。


 僕の基本装備はダンジョンに潜るのと同じだが、今回の依頼のために旅行用の大き目なバックパックを用意してある。


「おう。ちゃんと給金分は働けよー。特にそこのお前! 完全に旅行気分じゃねえか!」


 シャーレは僕に片手を挙げて応えた後、帽子の角度をしきりに気にしているナージャに、そう釘を刺す。


 ナージャは、一応レイピアは装備しているものの、僕と一緒に買った服の内の一つ――ワンピースを避暑地にいるマダムのような雰囲気で着こなしていた。


 大きめの旅行カバンを持ってきてるから、さすがそっちに防具が入っていると信じたいけど。


「あら、ワタクシがいることで一隊が華やかになり、男たちの志気が上がるでしょう。それに、タクマだって、楽器を持ち込んでいらっしゃるじゃありませんの」


「僕のリュートは戦闘時にも使えるよ。まあ、正直、旅情があるかなと思って持ってきた面もあるけど」


 ダンジョンならともかく、屋外の大人数での戦闘なら吟遊詩人のスキルも活きる機会があるかもしれない。


 もっとも、実際戦闘になったら、僕が直接戦いに加わった方が戦力になる確率が高いとは思うが。


「あの! シャーレさん! お昼ご飯の時間はいつですか!」


 ミリアが遠足を楽しみにしている小学生のようなトーンで言う。


「好きな時に食えよ……おいおい。マジで大丈夫か。お前ら」


 シャーレがこめかみを指で抑えて唸る。


「そんなこと言って。ワタクシの見立てでは、護衛者の中にタクマよりレベルの高い冒険者はおりませんわよ。レベル40以上の冒険者を雇おうと思ったら、最低でも倍値――交渉次第では三倍値は払うべきですわ。それを中級冒険者クラスの賃金で抑えてるなんて、かなりの経費の節約ですわね? シャーレ」


「……さっ。出発しようぜ!」


 シャーレは都合の悪い話など聞えなかったかのように、御者台につく。


「ではワタクシは後ろで適当に異常がないか見張ってますわ」


 ナージャは荷台の後ろにつき、商品の織物を枕代わりに寝転がる。


「わかった。じゃあ僕はシャーレの横で危急の事態に備えるよ。ミリアのスペースはかなり狭くなっちゃうけど……」


 僕は後ろを見遣る。


 商品でいっぱいになった車内には、身体を伸ばせるような余裕はない。


「大丈夫です! 私、狭い所好きです! ドワーフはこういうところ落ち着くんで」


 ミリアは箱と箱の間に身を潜り込ませて、にこにこ笑う。


 ビシッ。


 と、鞭の音が響いて、先頭の荷車が出発する。


 やがて僕たちの番がやってきた。


 市街を抜け、橋を越えて、街道へと出る。


 マニスにやってきたのはつい最近なのに、僕はふと郷愁に駆られ、後ろを振り返った。


 完璧ではないけれど、それでもマニスはいい街だ。


 さて、カリギュラはどうだろう?


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