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138話 実力

 翌日。


 街の中心にある尖塔の前には、僕たちを含め、隠しダンジョンの攻略に参加するパーティが集合していた。


 その数は、およそ六チームほどで、本番に参加予定の約半数が揃っている――と、アナウンスしたのは、白髪のナイスミドルな人間の男性。彼が、当日も実況と解説を務めるという。


 マニスでは、ビッグマウスの小うるさい実況しかなかったが、何とアレハンドラには音声による実況に加え、映像による中継もあるらしい。


 目にしたものを幻影魔法として転送するマジックアイテム――望遠鏡のような道具を構えた獣人が、今も僕たちの姿を撮影している。


 その光景は街の建物の壁面や地面の一部に反映され、視聴スポットになった場所には、どこも人だかりができていた。まるで、歴史の授業で習った白黒テレビが普及し始めた頃の日本を思わせる姿だ。


 予行演習でこれなら、当日はさぞかしにぎわうことだろう。


「みんな、昨日はよく眠れた? 食料は持った? ロープは? ――うんうん。みんな大丈夫みたいだね。それじゃあ、しゅっぱーつ!」


 アルセは僕たちをぐるりと見回してから、某国営放送の教育番組のお姉さんのような口調でそう言って、先陣を切る。


「ううっ! 今日も勇者さんがまぶしいです!」


 ミリアが目をしばしばさせて言う。


「あの母性を刺激するような声色が、ウチらの森で百年ボス猿のツガイをしていたメス猿に似てるのよ」


 リロエがジト目で呟く。


 今日もうちの女性陣は不機嫌だ。


「はあ。みんな、そんなにアルセさんのことが気に食わないなら、なんで今日の案内を受けたの? 普通に断ってもよかったのに」


 僕は呆れて肩をすくめた。


「そんなの決まってますわ。あの女を近くで観察して、あら探しをするためです。しばらく一緒にいれば、きっと何かボロを出すに違いありません。あんな完璧な人間なんて絶対怪しいですわ」


 ナージャが僕の耳元で小声で囁いた。


「然り。ヒトは良くて七癖と申しまするからな」


「――大剣の威力はでかくても隙がある」


 レンとスノーが息を潜めて頷く。


「僕、そういう陰険な思考法はよくないと思うなー」


 そうたしめながら、アルセの後に続いて尖塔の中に入っていく。


 テルマに説明してもらったところによれば、アレハンドラのダンジョンの特徴はその多様性と広大さにあると言う。


 マニスのように生活物資になるモンスターが固まった場所もあれば、カリギュラのように鉱物資源が豊富な所もあり、まさに世界の中心の名にふさわしく、このダンジョンだけで全て物資を入手できるのだそうだ。


 唯一の欠点は、それぞれのジャンルの最上級の資源は出にくいことらしいが、そもそもレアな資源が出るほどに深い階層は、多くの冒険者にとっては高嶺の花だし、入手量が少ない資源に社会的な汎用性はないので、無視できる程度のデメリットらしい。


 あらかじめ諸々の手続きは済ませてあるため、僕たちは次々とダンジョンの一階層に侵入していく。


「じゃあまずは、このダンベルリーフから! ポーションの原料から、スープの下味まで、色んな用途に使えるアレハンドラ市民のお供だよ! ちなみにこの子も今日のお昼ご飯になる予定です!」


 アルセは茶目っ気のある口調でそう言うと、腕だけ異常にマッチョな人型の草モンスターを両断する。


『ん?』


「どうかした?」


 ピンっと髪を逆立てて何かに反応した風精霊に、僕は問いかける。


『いや、今、一瞬何か変な感じがして……。でもボクの気のせいかも』


 風精霊はそう言って首を横に振ると、またすぐに髪をしゅんとさせて、黙り込む。


「じゃあ、次は3階層を目指すよ! おいしいホーンラビットのお肉が取れるの!」


 アルセは勝手知ったる地元のダンジョンといった感じで、迷うことなく歩み続け、瞬く間に3階層に辿り着く。


 角の生えた黒い兎を狩り終えると、その後も、5階層、10階層、15階層と、サクサク進んでいく。


 そもそも、各地方の英雄が集まっているのだ。


 初めて挑戦するダンジョンとはいっても、低階層のモンスターでは相手にならない。


 中でも、アルセの活躍は目覚ましいものがあった。


 東に懸賞付きの悪辣なモンスターがいれば、率先して討伐する。


 西に困っている冒険者グループがいれば、行って救援してやる。


 最も危険な前線に立って剣を振るい、常に笑顔と気配りを忘れない。


 もう20階層を過ぎたが、未だ仲間の援護も必要としないぐらいにアルセは強い。


 しかも、彼女の戦闘は、不思議なほど絵になった。


 奇襲をしかけてきた三体の鳥型モンスターを同時に斬り捨てたり、本来ならその階層にいるべきでない強敵が出現したり、まるでモンスターが忖度したのではないかと邪推したくなるほど、『見せ場』と自然に遭遇する。


 同行している撮影班の人たちも、これだけやってくれれば、さぞ撮りがいがあることだろう。


「ふう。じゃあ、ここの見通しのいい安全な部屋(セーフポイント)で、休憩しよっ! しかも、今日は特別に、私がクロアおばさんに焼いてもらったパンで、みんなのためにサンドイッチを作っちゃいます!」


 アルセはそう言うと、魔法使いの手を借りて火を起こし、今日の探索で獲得したモンスターの素材を調理し始めた。


「ふふっ。前みたいにお肉を焦がさないでくださいね」


「もうっ! モレーヌ! お客さんの前でバラさないでよ! あの時はアレハンドラを出たばっかりで自炊に慣れてなかったの! 私だって旅をする中でばっちり料理が上手くなったんだから!」


 アルセは仲間と親しげに軽口を叩き合いながら、ワイルドに剣に突き刺した兎肉を焼いていった。

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