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110話 異変

「村に近づいてくる集団は、旗を手で掲げています! カリギュラの――我が国の旗です!」


 見張りの人が、追加の情報を叫ぶ。


「仮に友軍ならば、攻撃を加える訳にはいかないが……。姫様。いかがいたしましょう」


 代官さんがスノーの前に跪き、そうお伺いを立てる。


「……かかしが生きていたら怖い」


 スノーが眉間に皺を寄せて呟く。


「もし、あの人たちが仲間を装った敵だったら危ないってこと? 確かに、最悪、旗は正規軍から奪った可能性もあるしね」


 僕はスノーの言葉を噛み砕いてそう説明する。


「然り。加えて、彼の者たちの無防備が吾共を油断させるための罠である可能性も考慮にいれなければなりませぬ。たとえ、武器はもっておらずとも、魔法や暗器などの攻撃手段を有している可能性は否定できぬ故」


「とりあえず、安易に村に入れるのは危険ですわね」


 レンとナージャが、賛同するように頷いた。


「あの、そういうことならば、ひとまず代表者が何人か村の外に出て、彼らに話を聞くしかないんじゃありませんか?」


 ミリアが控えめにそう提案してくる。


「そうだね。そして、それは僕たちの仕事みたいだ」


「はあ。きもいけど、しょうがないわねえ」


 空から降りてきたリロエが、不承不承頷く。


「ですが、外からいらっしゃった皆様に、これ以上、ご迷惑をかける訳には」


「お気になさらず。これも契約の範疇ですから」


 遠慮する代官さんに、僕ははっきりと告げた。


 僕たちはモンスターの討伐をメインに想定していたが、あくまで任務の主目的は地域住民の保護なので、野盗の類への対応も、仕事に含まれているといえるだろう。


「……行く」


 いつの間にか、フルアーマーを装備していたスノーが、大剣を構えて呟く。


「姫様! しかし、万が一のことがございますと、私は親父様に顔向けができません!」


「……働かずに食べるのが許されるのはヌックスだけ」


 代官さんの懇願をスノーはぴしゃりと封じた。


 今回は僕が通訳するまでもなく、その意図は明らかだった。


 スノーのような武闘派の貴族は、いざという時に身体を張って戦うために、日頃耕さずに禄を食むことを許されているのだ。


「それじゃあ、行くわよ!」


 リロエ(と僕)が風の精霊の力を使い、パーティ全員を浮き上がらせる。


 どうやっても相手の攻撃が届かないであろう、アウトレンジの間合いをとって、僕たちは集団に近づいていった。


「止まってください! 詳しい事情を(うかが)うまで、あなた方を村へと入れる訳にはいきません!」


 はるか上空から、僕は集団にそう呼びかける。


「止まってる暇なんかあるか! ぼやぼやしてたら、手遅れになるぞ!」


 集団の中から、一人の男性が進み出て叫ぶ。


 彼らは一応、僕の警告に従って停止したものの、じれったそうにその場で足踏みしている。


「手遅れになるとはどういうことですか? そもそもなぜ、あなたたちはそんな格好をしているんですか?」


 とりあえず尋常じゃない危機感は伝わってきたが、いまいち状況を把握できず、僕は質問を重ねる。


「魔将よ! バルク砦に魔将が攻めてきたのよ!」


 先ほどの男とは別の女性が、胸を腕で隠しながら悲壮な調子で叫んだ。


「ねえねえ。魔将って、普通の魔族と違うの?」


「魔将とは、魔族の上位個体で、他にはない固有の能力を有している者を指しますわ。少なくとも、ここ数百年、正式に出現した記録は認められておりませんけれど。魔将と闘ったというのは、大抵、冒険者が自分の功績を大きく見せようするホラ話ですわ」


 リロエの疑問に、ナージャが胡散臭げに答えた。


 要するにチート能力持ちということかな?


 もしかしたら、僕がエルフの里で引き分けたあの大男も、魔将だったのかもしれない。


「嘘じゃないぞ! 俺たちは実際そいつと戦ったんだ! 奴は、磁気を自在に操る! 剣も、鎧も、鋼鉄の矢尻も、奴の前では、意味をなさない!」


「いえ、それどころかむしろ奴の餌よ! 鎧ごと吸い寄せられて何人もの仲間がやられたことか! だから、私たちは鎧も武器も捨てて、取る物も取り()えず、こうして逃げてきたのよ!」


 地上の半裸の集団が、次々に脅威を口にする。


「なんと! カリギュラの正規軍は金属が豊富に出る土地柄を活かし、重武装の前衛職が多いのが特徴でござる。それを封じられたとなると、状況は相当に深刻でござるぞ!」


 レンが大きくを目を見開いて、耳をピンっと逆立てた。


「ああその通りだよ! 俺たちが現場を離れた時は、魔法使いたちが必死に時間を稼いでくれいたが、砦は長くは持たない! 今頃はとっくに陥落しているかもしれない! だから、お前たちも早く逃げろ! 俺たちはそれを伝えに来たんだ!」


「ええ! そして、もし余裕があるなら、私たちの分の食糧や車も出してちょうだい!」


 必死な目つきで、僕たちにそう訴えてくる。


 興奮はしているが、それでも混乱状態にないだけ、彼らはやはり訓練を受けた兵士なのだろう。


「――急いで砦まで行って欲しい。細かい情報はいいから、彼らの発言の真偽を確かめてきて」


『任せてよ!』


 風の精霊が音速で空を駆けていく。


 そして、わずか数分で戻ってきた。


『砦から逃げてきた精霊の話だと、あの人たちの言ってることは本当だよ。ついでに、まだ、ギリギリ砦も持ちこたえてるみたいだね。でも、頑張っても、明日か明後日くらいまでしかもたないんじゃないかなあ』


 風の精霊が忙しそうに羽をパタパタとさせながら報告してくれる。


「ありがとう――みんな。この人たちの言ってることは、間違いなく本当みたいだ」


 もはや疑いようもない事実を、僕は皆に向かって告げた。


「決まりね。ウチも今、土の精霊の話を聞いたけど、素敵なキラキラを狂わせるおかしな力が、一帯を支配してるって。これ、多分、磁気のことね」


 リロエが、真剣な表情で言う。


「では、本当に魔将が出たんですか! 大変です!」


 ミリアが身体を震わせる。


「タクマ。早速、村に報告して、避難の計画を立てさせた方がよろしいのではなくて?」


 ナージャが考え込むように腕組みしながら呟く。


「そうだね。――皆さん! 今、村の人たちに連絡してきますから、もうしばらくそこでお待ちください!」


 僕は集団に向けてそう呼びかけると、代官さんに事情を説明するために、仲間たちと共に村へと舞い戻るのだった。

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