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当て馬姫の受難⑦

(この状況、どうすればいいのかしら。)

ユリアーデはぼんやりと立ち尽くしたまま考える。エスコート役をかってでてくれたベルグリードはいなくなってしまった。一人で会場内を動き回るのは少しはしたないかもしれない。

「…ユリアーデ様、大丈夫かしら。」

それに回りの目も気になる。先ほどの少女が誰なのかは分からないが、あそこまで騒がれてしまうと、こちらとしてもごまかしようがない。

(もう帰ってもいいかしら。)

一応、パーティーの主催者であるルイスには挨拶をしたし、エファニエルには先に帰ってしまったことを後日謝ればいい。それに、置いて行かれてしまったこの場にとどまるのは、いくら

「当て馬役」を何度もこなしているユリアーデでも苦しかった。

(今日は帰ってお気に入りのハーブティーをメメリに入れてもらおう。夜に働かせるのは申し訳ないけど、今日だけは許して欲しい。)

ユリアーデは、姿勢を正して、優雅に歩き出す。周囲にいた野次馬たちは、毅然きぜんとしたユリアーデの姿に気後れするように、こそこそと散らばっていく。

(気にするようなことじゃないわ。いつものこと、そういつものことよ。)

泣くようなことじゃない。淑女として、こんな公衆の面前で泣くわけにはいかない。

目尻に涙が浮かんできそうになるのを必死で抑え、気持ち小走りになる。それがいけなかった。

「っあ!」

高めのハイヒールを履いていたためか、テラスから会場に戻ったとたんに足を滑らせてしまった。

(こんな醜態をさらしてしまうなんて!)

パーティーをもめ事で騒がせてしまったのに加えて、怪我までしてしまってはルイスの顔に泥を塗ってしまう。こんな最悪の一日になるとは思わなかった。ぽろっとユリアーデの瞳から涙がこぼれ落ちた。


「おや、美しい貴婦人が私の腕の中に落ちてきてくださったようですね。」


「え?」

(痛くない…。)

衝撃に備えてぎゅっと目をつぶっていたユリアーデは、耳元で聞こえる艶のある低い声に驚き、急いで目を開ける。

「あっ…。」

「お目覚めですか、姫君?」

(なんて…お美しい…。)

ユリアーデ眼前でほほ笑む男の顔に見とれてしまった。癖のあるブルネットの髪を少しだけ伸ばして、パープルのリボンで結んでいる。切れ長の瞳はリボンと同じ色だ。信じられないほど端正な顔立ちなのに、少しタレ目なところといたずらっ子のような微笑みが親近感を感じさせる。少し日に焼けた肌もセクシーで、密着しているため、服の上からでも盛り上がった筋肉が分かる。

「さぁ、ゆっくりと立ち上がって。」

「あ、あの。」

男はユリアーデの腰に手を回して、立ち上がらせてくれる。立ち上がって分かったが、身長が170センチある自分よりも、頭一つ分大きい。

(なんて素敵な人…。)

ユリアーデは胸元で両手をぎゅっと握りながら、男を見つめ続ける。

「お怪我はありませんでしたか?」

「あ、あの、はい。」

ユリアーデは顔をほんのり赤く染めながら頷く。いつも無表情のユリアーデからしたら珍しく、表情が変わっており、周囲の男性の中にはそんな彼女に見とれている人も何人かいた。

「ふふ、私の顔に何か付いていますか?」

「あ!も、申しわけありません!」

顔を不躾に見続けるなんて失礼なことをしてしまったとユリアーデは慌てる。

(まずはお礼を!)

頭ではそう考えられるのに、口はわなわなと震えるだけで、全く言葉を紡いでくれない。

「あ、あの、あの!」

いつも以上にまともにコミュニケーションがとれない自分がイヤになる。助けてもらった相手にまともにお礼も言えないなんて。

(なんて情けない。)

こんなにうまく人付き合いができない自分など、男性から選ばれなくて当然だ。ベルグリード伯爵があの少女を選ぶのは当たり前なのだ。

ユリアーデは顔を真っ赤にして、涙目になりながらその場でうつむいてしまう。

「あぁ、美しいお嬢さん。そんな顔をして私を誘ってくるなんて。月光姫にそのような顔をされては、どんな男も骨抜きにされてしまいますよ。」

「ひゃ!」

男は自己嫌悪に浸っていたユリアーデの顔を上げさせて、そのにっこりとほほ笑むと、跪いて手の甲にキスをしてきた。

「どうか、あなたの虜となった哀れな男と一曲踊って下さいませんか?」

「え、えっと、あの。」

「どうかお願いします…。」

「ひゃ!あ、あのもちろんですわ。」

ユリアーデは顔を近づけてくる男に悲鳴じみた声を上げながら何とか返事をする。

「それでは参りましょう。」

ほほ笑んだ男がユリアーデの手を引いて、ダンスホールまで促してくる。ユリアーデはコクリと頷いて、黙って彼のエスコートに身を任せた。


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