当て馬姫の受難⑤
「どうしてよ、紹介するぐらい構わないはずよ!」
ルイスの言葉にエファニエルが反論する。
「君はベルグリード伯爵がどんな女性を好いてるのか知ってるのか!」
「もちろん知ってるわ。少し小柄な女性がお好きなのよね?確かにユリアーデは小柄とは言えないかもしれないけれど、かわいらしい女性には変わりないわ!きっと気に入ってくださるはずよ。」
エファニエルがそう言い切ったと、えっへんと胸を張った。
「ユリアーデ嬢が美しいのはもちろん分かっている!今日の美しいユリアーデ嬢を見れば、きっとベルグリード伯爵も見とれるはずだ。僕が言いたいのは君のことだ、エファニエル!どうして君まで紹介しないといけないんだ!」
ルイスがその整った顔をゆがめながら、エファニエルに詰め寄った。
「私はもう18歳なのよ、はやく立派なお婿さんを見つけたいの。ベルグリード伯爵とお知り合いになれば、他の殿方との縁もつながるかもしれないわ。それに、ベルグリード伯爵がされている交易のお話も聞いてみたいし…。」
「ベルグリード伯爵は忙しいんだ。君と雑談なんかする時間はない!」
「そんなこと、あなたが決めることじゃないじゃない!何よ、いきなり怒り出して!そんな風だからいつまでたってもお嫁さんが来てくれないのよ!」
「余計なお世話だ!」
(これは本格的な喧嘩に発展しそうね。)
ユリアーデはどうすれば二人を止められるかと、思考を巡らす。それに、パーティーの主催者でもあるルイスが言い合いをしているのを、周囲の貴族たちに見られるのは得策ではない。
「…エファニエル。」
「え、ちょ!」
「…そんな怖い顔をしないで。せっかくの美しい顔が台無しよ。」
「あ、あの。」
ユリアーデは無表情のまま、エファニエルの華奢の手を取り、なだめるように優しくなでた。
「ほら、興奮して顔が真っ赤になってしまっているわ。そんな顔をしていたらよからぬことを考える殿方に連れ去れてしまうかもしれないわよ。」
「ひゃ!」
ユリアーデが手の甲でエファニエルの柔らかい頬をさすると、エファニエルがびくりと体を震わせた。
「落ち着いた、エファニエル?」
ユリアーデが優しく声を掛けると、エファニエルはユリアーデの顔を惚けたように見つめながらコクコクと頷いた。
(良かった、落ち着いてくれたみたいね。)
安心したユリアーデが短い息を吐く。
「…ユリアーデ嬢、申し訳ない。こんな大衆の面前で醜態をさらすところでした。それにしても…。」
ルイスが少し罰が悪そうな表情で謝ってくる。それに「お気になさらず。」と返事をしながた、ユリアーデは言葉の続きを待った。
「ユリアーデって本当にきれい…。月の女神みたいよ。」
ルイスの言葉を引き継いだのはエファニエルだった。
「そんな、言いすぎよエファニエル。」
「そんなことないわ!私の目標はあなたなんだから。」
「私のことを目標にする必要なんかないわ。あなたは十分魅力的よ。あなたの素晴らしさを分かっている殿方は大勢いるわ。」
例えばあなたの隣にねという一言は、心配そうにエファニエルを見つめるルイスのために心にしまっておいた。
「…交易の話がしたいのであれば、別の男を紹介しよう。」
ワインを飲んで落ち着きを取り戻したルイスがエファニエルに提案する。
「その方はどんな方なの?」
「イルサ・ロマール男爵夫人だよ。夫のレアンドル・ロマール男爵は東洋との交易を積極的にされている方だ。イルサ夫人もよく、男爵と一緒に東洋に出かけているから面白い話が聞けるはずだ。」
「あら、素敵!でも、殿方じゃないのね。」
「…男がいいならいつか僕が紹介する。今日のところはやめておくんだ。」
ルイスが冷静な声音で言うが、ユリアーデはルイスが焦っているのが分かった。
「ほら、エファニエル。今日はやめておきましょう。東洋と言えば、絹や珍しいスパイスがあるはず。私もお話を聞いてみたいわ。」
「あら、何を言っているの。あなたはベルグリード伯爵とお話するのよ。」
「…え?」
エファニエルの言葉に、ユリアーデはこてんと首をかしげる。
「ルイスが紹介を拒否したのは私。あなたのことは言っていないわ、そうでしょルイス?」
「…あぁ、もちろん。ユリアーデ嬢であれば、きっとベルグリード伯爵も楽しんで話ができるはずだ。」
「一言余計なのよ!まぁ、良いわ。私は少し食事を楽しんでおくから、その間にユリアーデをベルグリード伯爵に紹介してきてちょうだい。」
「分かったよ。」
ルイスとエファニエルは当の本人であるユリアーデを蚊帳の外で勝手に話を進めてしまう。ユリアーデが我に返ったのは、ルイスにエスコートされて、ベルグリード伯爵の目の前に連れてこられた時だった。




