当て馬姫の受難④
「…本当にごめんなさい、ユリアーデ。」
「気にしないで、エファニエル。あなたのせいではないもの。」
エファニエルとともにルイス・バルジニアン伯爵の主催するパーティーにやってきたユリアーデは隣で顔を青くするエファニエルに気づかれないよう、小さなため息をついた。
「素晴らしい殿方を見つけてあげるわ!」と意気込んでいたエファニエルを優しくなだめていたユリアーデは会場に足を踏み入れてから絶句してしまった。なぜなら会場のあちらこちらでかつてのユリアーデの恋人が談笑していたのだ。その手を大切な伴侶の腰に回しながら。
「は、早めに帰りましょうユリアーデ。長居しなければいいだけよ!」
「侯爵家のパーティーに招待されたのに、すぐに帰ってしまうなんて失礼に当たるわ。大丈夫、私は平気よ。」
「ユリアーデ…。」
相変わらずの無表情だが、少しだけ口角を上げるユリアーデをエファニエルは心配そうに見つめている。
「ほら、せっかくバルジニアン伯爵の華やかなパーティーに来たんだから、そんな顔しないで。一緒に楽しんでくれるんでしょう?」
ユリアーデがエファニエルの手をとり、安心させるようにその甲を優しくなでると、エファニエルもやっと笑顔を取り戻した。
「そうね、昔の殿方のことなんか気にしないのが一番。もっともっと素敵な方々がいらしてるんだから、見初めていただけるようにしっかりアピールしないと!」
「そっ、それは別に。」
「さぁ、行くわよ!」
「あぁ、ちょっと!」
アピールについては遠慮したユリアーデだったが、勢いづくエファニエルに反論できず、慌ててその後ろ姿を追った。
「まずは、ベルグリード伯爵様ね。御年29歳で、生涯の伴侶を捜しにパーティーに積極的に参加されていると聞いたわ。趣味は読書と乗馬。花を愛でられるのもお好きということらしいわよ。読書が好きなあなたにぴったりじゃない!」
「どこでそんな情報を…。」
ユリアーデがエファニエルの情報収集能力の高さに驚いていると、エファニエルが「このぐらい当たり前よ。」と胸を張る。
「でもベルグリード伯爵は小柄な女性がお好きなのよね。どうもロリータコンプレックスの気があられるみたい。」
それならあなたの方がぴったりなんじゃないかしら、と言いそうになるのをユリアーデはなんとか押しとどめる。普通の貴婦人よりも小柄でお人形のようにかわいらしい友人が子どもらしい自分の体型を嫌い、心身共に「大人な女性」を目指していることを知っているからだ。
「あなたは身長も高くて、スレンダーだし、もしかしたらあまり趣味ではあられないかもしれないわ…。でもアタックしてみないことには分からない!さぁ、行くわよ!」
「ちょ、女性から殿方に直接お話するのははしたないわ!」
鼻息荒くベルグリード伯爵に突撃しようとするエファニエルを、ユリアーデが引き留める。
「ふふ、それについては問題ないわ。ルイス!」
「…犬みたいに呼びつけるのはやめて欲しいな。」
エファニエルがパチンと指を鳴らすと、その背後から苦笑を浮かべたルイス・バルジニアン伯爵が歩み出ててきた。
「これは、ルイス伯爵。ごきげんよう。」
突然現れたルイスに驚きながらも、ユリアーデはドレスを持ち上げ礼の形をとる。
「えぇ、ユリアーデ嬢ごきげんよう。今日はいつもと装いが違うようですね。いつものお姿もお美しいですが、今日は一段と輝いて見えます。」
「ご冗談を…。」
ルイスの褒め言葉にユリアーデはどぎまぎしながら返事をする。異性からの手放しの称賛に本当は心臓が爆発しそうなほどなのに、顔の筋肉は全く動こうとしないのだが。
「ちょっと、私の親友をたらし込むのはやめていただけるかしら。」
するとエファニエルが口元を扇子が隠しながら割入ってくる。
「君はもう少し淑女然とした振る舞いを身に付けるべきじゃないかい、エファニエル。」
「うるさいわね、他の殿方にはしっかりやってるわよ。泣きべそルイスの癖に!」
「…いい加減忘れろ!」
「まぁまぁ。」
今にでも喧嘩を始めようとしている二人をユリアーデが何とかなだめる。幼なじみのこの二人は幼少のころから、喧嘩が絶えない二人組で有名だ。
(エファニエルもいい加減素直になればいいのに。)
お互いを至近距離でにらみつけるエファニエルとルイスを眺めながら、ユリアーデはぼんやりと考える。エファニエルは会えばいつでもルイスに嫌みを言うが、本当はルイスのことを憎からず思っていることをユリアーデは気づいていた。
(…もしかしてまた私が当て馬になればうまくいったりするのかしら。)
そんなことを考えていると、エファニエルが「あなたのことはどうでもいいのよ!」と言ってユリアーデの手を引いてきた。
「今日の目的はベルグリード伯爵にユリアーデを紹介することなの!あなたが主催者なんだからできるでしょ?私とユリアーデを伯爵に紹介してちょうだい!」
エファニエルがルイスをにらみつけながら頼む。最初、ルイスは目を丸くしてそれを聞いていたが、どんどんその表情が怒りのそれに変わっていく。
「何を言ってるのか分かってるのか!君をベルグリード伯爵に紹介なんかできるはずないだろう!」




