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当て馬姫の受難③

「あなたってすっごく素敵なのにどうしてお相手がいないのかしら?」

「エファニエル、そんなに見つめられると照れてしまうわ。」

「顔は無表情のままよ。」

「もう、分かってるくせに。」

少しだけむくれた表情を見せるユリアーデにエファニエル・アラグナードは「ごめんなさい」と言って笑いかける。アラグナード男爵の一人娘であるエファニエルは18歳。ユリアーデよりだいぶ年下だが、その明るさと飾らない性格のおかげで、二人は小さい頃からの非常に親しい付き合いを続けていた。

「ユリアーデ、あなたもう22歳なのよ。社交会ではもう行き遅れも行き遅れ。」

エファニエルが華奢な手で白磁のカップを持ち上げて、お気に入りのダージリンの紅茶を一口飲む。金色の髪と同じ色の人も、ほっそりとした体形と平均よりも低い身長を持つエファニエルのその姿はまるで天使のようだ。美しい美貌と社交性を兼ね備えたエファニエルに恋をしている男が多いをのユリアーデは知っている。

「あなたって本当に素敵なのに、どうして男たちは別の人に行ってしまうのかしら?」

「そんなの私が知りたいわ。」

ユリアーデがうつむいて、自分の手を弄りながら返事をする。

「そう、そういうところなのよ、ユリアーデ!」

「ひゃ!な、何かしら?」

エファニエルが身を乗り出して、ユリアーデの眼前に指を突きつけてくる。ユリアーデはその指に目を向けながら、コテンと首を傾げる。

「あなたってそんなに可愛らしいのに、殿方には無表情しか見せないじゃない。もっと素のあなたを見てもらえばきっとあなただけを見てくれる人が現れるはずよ!」

「そ、そうかしら?」

エファニエルの勢いにユリアーデは思わず身を引く。

「そうよ!その通りに決まってる!そうだわ、今度ルイスが主催するパーティーに行きましょう!」

「え、でも。」

ルイスとはエファニエルの幼馴染の名前だ。エファニエルと同様に社交的で見目麗しいルイス・バルジニアン侯爵のパーティーは大人気で、主催者と同様に華やかで美しい貴族が集まることで有名だ。

「私、しばらくパーティーには。」

行きたくないのと続けたかったユリアーデだが、エファニエルの鋭い視線を受けて黙り込む。

「ユリアーデ。私、あなたが15歳だったら何にも言わないわ。でもあなたは22歳なの!このまま1人で生きていくつもりなの!?」

「…はい。」

ひどい言葉だが、エファニエルが誰よりも自分のことを心配してくれていることは分かっている。レオルグが自分の前からいなくなってしまった傷が癒えてないユリアーデだったが、パーティーに入れて気合を入れているエファニエルの姿を見るととてもノーとは言えなかったのだった。


あっという間に数日がたってルイス・バルジニアン伯爵が主催するパーティー当日となった。パーティーに参加する旨をメメリに伝えると、涙を流さんばかりの勢いで喜んでくれた。

「あぁ、ユリアーデお嬢様。お嬢様が殿方を見つけるために積極的になってくれてメメリは万感の極みでございます!」

「少し大げさじゃないかしら…。」

「いえ!そんなことはございません!当日はこのメメリにお任せください。パーティーのいらっしゃる女性の誰よりも美しいお姿に整えさせていただきます!」

「えぇ、よろしくね。」

エファニエルもメメリも他人のことなのにこんなに真摯になってくれる。その性格の良さをきっと二人の伴侶も気に入っているのだろう。

「…私に優しさなんてあるのかしら。」

ユリアーデは、今日の夜に行われるパーティーの支度をするため、衣裳部屋に向かいながら考える。いつも冷静で、誰にも笑顔を見せないユリアーデ。男性は最初「気高くて、誰にも懐かないところが好きだ」と言う。でも結局は最愛の人には選んでくれない。

「甘え上手なら、私を選んでくれる?」

ユリアーデは誰ともなくつぶやいた後、大きなため息をついた。


「メ、メメリ。このドレスは。」

「いいえ、このドレスでいいのです。」

「で、でもこんな!」

「メメリの言うことを疑うのですか?」

「うっ!」

メメリの鋭い視線にユリアーデは屈してしまう。メメリがユリアーデのために用意したドレスは、これまでの人生でユリアーデが一度も着たことがないようなドレスだった。ダークブルーの光沢のある生地で作られたそれは、ユリアーデの体のラインが出るマーメイドドレスだった。同じ色であつらわれたハイヒールとともにドレスもシンプルなデザインだ。しかし、シンプルだからこそユリアーデの美しさをより際立たせている。

「いいですか、ユリアーデ様はもう22歳ですが逆にその年齢を利用いたしましょう。」

座るように指示されたユリアーデは促されるまま、鏡台の椅子に腰かける。

「利用する?」

「えぇ、そうです、大人の色気を利用するのです。」

首を傾げると、メメリがユリアーデの髪を丁寧にとかしながら力強く頷いた。

「お嬢様は素晴らしいプロポーションをお持ちなのに、いつも窮屈なドレスでそれを隠されてしまいます。今日こそはお嬢様の妖艶な魅力を開放する時なのです!」

「そんな!私みたいな女がこんな恰好をすれば笑いものに!」

「いいえ!メメリのことを信じてください!さぁ、できましたよ!」

メメリはユリアーデの美しい髪を編みこんだ後、ビロードのリボンで結い上げる。仕上げに髪のあちらこちらに真珠と花をちりばめた。

「あぁ、お嬢様。まるで女神のようです。」

「…言いすぎよ、メメリ。でもこんなにきれいにしてくれてありがとう。」

にっこりと笑うユリアーデをメメリは恍惚とした表情で見つめていた。


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