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当て馬姫のチャンス

「ちょっと何があったの?何か騒ぎになっていたけど。」

ユリアーデがエファニエルの所に戻ると、心配げな顔をしたエファニエルが小走りで寄ってきた。

「何もないわ。少しお話をしていただけよ。」

ユリアーデがエファニエルに向かって微笑む。

「…あなたがそういう顔をする時は何か隠している時よ!さっさと白状しなさい!」

「ひゃあ!」

可愛らしく頬を膨らませたエファニエルがユリアーデの頬を軽く摘まむ。

「本当に何もないのよ。ただガルシアン様にお会いしたいと言っていた方の顔色が悪かったから、少しお水を差し上げただけなの。」

「だからさっき、鬼気迫る表情でウェイターに水をもらってたのね。」

大体のことを察したエファニエルが大きなため息をつく。

「あの男のまわりをやっかいな方々が取り囲んでいるというのは社交界では周知の事実なのよ。媚びをうって口利きをしてもらうだとか、順番待ちをするだとか本当に馬鹿らしいと思うわ。」

「あら、知っていたの?」

エファニエルから手渡された赤ワインを口にしながら、ユリアーデが聞くとエファニエルは頷く。

「もちろん知っていたわ。あなたに教えることもできたけど、どうせやめなさいって言ってもやめないんだから、自分で現状を知ってもらおうと思ったのよ。…それで?実際に体験してみてどうだったの?」

エファニエルが尋ねてくる。

「そうね。今回は残念ながらガルシアン様とお話しすることができなかったから、今度こそお話しできるように頑張るわ!」

ユリアーデが顔を赤らめて言うと、エファニエルががっくりと肩を落とした。

「どうしてこんな時だけそんなにポジティブなのよ。変な女性を回りに侍らせてる男なんかやめときなさいよ!」

エファニエルが怒り顔でユリアーデに詰め寄るが、ユリアーデはどこ吹く風と聞き流す。

「エファニエルやメメリが一生懸命になってくれたドレスを見ていただけなかったのは少し残念だけど、また機会はあるわよね。」

「…はぁ。私としては一生あの男に会ってほしくないわ。まぁ、今日は会わなかったからそれでよしとしておくわ。」

「エファニエルの意地悪。」

「なんとでもいうのね。」

言い合った後、顔を見合わせてクスクスと笑った二人は、ルイスの所に挨拶に行くためその場を去ろうとした。

「…お待ちください。」

低い声が二人を呼び止める。

「…ユリアーデ行くわよ。」

「え、あの。」

「行くの!」

声を聞いただけで、誰かを判断したエファニエルがユリアーデの手を取って先を急ごうとする。一方、声をかけてきた人物が誰か分からず、返答をしないと失礼ではないかと考えるユリアーデは躊躇して立ち止まってしまった。

「また会いましたね、お姫様。」

「へ?」

声をかけてきた人物はそんなユリアーデのもう片方の手を取って、その手に口づけた。目を丸くするユリアーデの眼前で、ガルシアンがにっこりと笑っていた。


「あ、あの!」

ガルシアンの突然の登場に、ユリアーデは頭が真っ白になってしまった。前回のように、何も言うことができず、口からは意味のない言葉の羅列しか出てこない。

「ガルシアン卿、私たちは今からバルジニアン伯爵の所へご挨拶に参るところですの。では、ごきげんよう。」

作り笑いを浮かべたエファニエルがユリアーデの手を取って引っ張る。

「そうでしたか。どうか少しだけユリアーデ嬢とお話しする時間をいただけませんか?」

「そんな時間はありません!私たちは急いでおりますの!」

自分をものすごい目つきで睨み付けるエファニエルを見て、ガルシアンが苦笑する。

「そのような顔をしては美しい顔が台無しですよ。…私があなたの笑顔を奪っているとしたら胸が張り裂けそうだ。どうか私に挽回の機会を…。」

「っ!あなたのそういう誰にでも甘い言葉をかけるところが気に入らないんですの!いったいどれほどの女性があなたのせいで涙したか分かっているのですか!」

「私のことを思っての涙はきっと美しいことでしょう…。」

「あなたねぇ!!」

「落ち着くんだ、エファニエル。」

今にもガルシアンに飛びかかりそうなエファニエルを止めたのは溜息をつきながらやってきたルイスだった。

「…ガルシアン卿。我が幼馴染が失礼した。エファニエル嬢は私が預かるので、ユリアーデ嬢のことは頼みます。」

「えぇ、もちろんです。」

「あっ…。」

文句を言い続けるエファニエルをルイスが宥めながら、ガルシアンに目で合図をする。ガルシアンは小さく会釈をした後、ユリアーデの腰に手を回して、バルコニーへと連れ出したのだった。


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