当て馬姫の頑張り
「本当にこんな短期間で作ってくれるなんて。お礼を言わないと。」
「そうですね、しかしお礼を言うのは今日のパーティーを楽しんでからにしてください。」
鏡台の前の椅子に座ったユリアーデをメメリが宥める。とうとうパーティー当日を迎え、ユリアーデはメメリとともに午後から準備に取り掛かっていた。まずは香油のたっぷり入ったバスタブにゆっくりとつかり、その後は香りの良いローズティーで体を冷ました。パーティー開始まで数時間を切った今は、ドレスを身に着けて、メメリに髪を結ってもらっている。仕立て屋が帰った後、メメリとエファニエルはユリアーデを鏡の前に座らせて、髪型の相談をし始めた。結局、髪型が決まるまで数時間も費やしてしまった。
「さぁ、髪結いを始めさせていただきますよ。」
ゆっくりと丁寧にユリアーデの長い髪を櫛でとかしていたメメリがにっこりと笑う。
「…えぇ、お願いするわ。」
「おまかせください。」
メメリに笑いかけた後、ユリアーデはゆっくりと目を閉じる。結局、エファニエルとメメリの3人で決めた髪型は、シンプルにユリアーデの白銀の髪を生かすものだった。いつもシニョンの中に隠しているシルクのような髪を緩くこてで巻くことにしたのだ。サイドの髪を片方だけ三つ編みにして、かわいらしい小花をいくつか差す。
「さぁ、お嬢様、できましたよ。」
メメリに声をかけられ、ゆっくりと目を開けると、目の前の鏡にはいつもの自分とは全く違う姿が映し出されていた。
「あぁ、お嬢様。とてもお美しいです。このようなお姿であれば、どんな殿方もイチコロです!」
「そうかしら?」
目を輝かせてユリアーデを絶賛するメメリに、ユリアーデは笑顔で答える。
「本当にありがとう、メメリ。あなたのおかげよ。今日のパーティー精いっぱい頑張ってくるわね。」
ユリアーデは感謝の意味を込めて、メメリの頬にキスをした。
(よし、頑張るのよユリアーデ。しっかりとガルシアン卿にお礼を言うのよ!)
ユリアーデは頭では考え事をしながらも、無表情のまま、馬車でルイスが主催するパーティー会場に向かっていた。今日のパーティーは、最近暖かくなってきたこともあって、ルイスが所持している屋敷の自慢の庭園で行われることになっている。馬の走る音がだんだんと遅くなっていき、そしてその動きがピタリと止まった。
「よし、行くわよ!」
小さなガッツポーズをして、気合を入れたユリアーデは、馬車から出ようとする。馬車の外には、ルイスの実弟であるメルクが立っていた。
「っ…!」
「あら、メルク卿。わざわざお出迎えにきていただいたのですね。ありがとうございます。」
エファニエルの紹介で何度か顔を合わせたことのあるメルクに、ユリアーデはいつもより少し柔和な表情であいさつする。しかし、メルクは口をぽかんと開けたまま、その場から全く動こうとしなかった。
「あ、あの、メルク卿?」
何か気に障ることをしてしまったかとユリアーデがもう一度声をかけると、メルクが慌てて手を差し出してきた。その手をとって、優雅な仕草で馬車から降りたユリアーデはメルクに向かって一礼する。
「助かりました。ありがとうございます。」
「いっいえ!あ、兄からあなたをパーティー会場までお連れするように申し付かっております!!どうぞお手を!」
「まぁ、ありがとうございます。」
ユリアーデはメルクの手を取ってゆっくりと歩き出す。いつもであれば、兄よりも活発で、よく笑うメルクが話しかけてくれるのだが、なぜだが今日は全く目を合わせようとしない。
(まさか、このドレスや髪型が似合ってないのかしら?)
その可能性は十分にあり得る。派手な恰好をしてきた自分を見て、困惑しているのだろう。そんなことを考え、急に不安になってきたユリアーデは恐る恐るメルクに話しかけた。
「あ、あのメルク卿。私の今日の姿は滑稽でしょうか?」
「はえ!?なっなにを!」
ユリアーデの言葉を聞いて飛び上がったメルクが、すぐにユリアーデの顔を見てくるが、またすぐに視線を逸らしてしまう。
「いつもはにこやかに話してくださるメルク様がそのような態度をとられるということは、今日の私は一段と醜いということですか?」
「なっ!何をおっしゃいます!」
無表情のまま、うつむくユリアーデを見て、メルクは慌てて震えているその手を優しく包み込んだ。
「そんなことは絶対にありません!ただ、あなたがあまりにも!」
「あまりにも?」
顔を上げたユリアーデがコテンと首を傾げると、またもメルクは黙り込んで視線を逸らしてしまった。
「あ、あの…。」
「あなたが!とても!!」
「ちょっと、ユリアーデ何を騒いでるの?もうパーティーが始まっちゃうわよ!」
覚悟を決めたような顔をしたメルクが何かを言いかけた時、廊下の角からエファニエルが現れた。
「あら、メルク。こんなところで何をしてるの?たくさんのお嬢様方があなたのことを探してるわよ?」
「っ~~~~~!」
メルクは何か言いたげにエファニエルの顔を見ていたが、がっくりと肩を落として大きなため息をついた。
「ほら、行くわよユリアーデ!」
「あっ!」
ユリアーデは自分の手を引くエファニエルとともにその場を後にした。
「はぁ…驚いた。まさか、あそこまでとは。」
その場に残ったメルクは壁によりかかって、先ほどのユリアーデの姿を思い返していた。




