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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第9章 そして帰りたい日々が始まった
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人鬼の習性を知らなかったんです

「あの高校に通い始めて3ヶ月経つか経たないかくらいだな。日本のよく分からん風習に取り敢えず適応して、ついでにあの街の地脈構造やらをおおよそ把握した頃だ」

「なあ、ついでがおかしくねえか? 何してんだ」

「魔術師としては基本。地脈を利用して魔術を構築することはままあるんだよ」


 呆れ顔の竜胆にそう告げると、基本疑うことを知らない竜胆は、曖昧な表情ながらも頷いた。


「ふうん……。つか、そもそも何で日本に来たんだ?」

「なんとなく」

 そんな所まで語る気はさらさらないので流し、話を戻す。


「人目を考えて、地脈を探るのはもっぱら日暮れから後の時間帯だったんだが、あの紅晴という街は妙に妖の類が多いよな。たかだか3ヶ月やそこらの徘徊で、両指に余る回数は襲撃されたぞ」

「ん? 俺がお前らと組んでからはないだろ?」

「一通りぶっ飛ばしたから、手出ししないようになったんだろ」

 竜胆の目が半分に眇められた。

「おま……やりたい放題だな」

「攻撃してきたのはあっちだっつうの」

「で、術者に目を付けられたって?」

「片付けてやったのに連行して話を聞きたいとか言いだしたからな」


 ごく自然に人をどこかへ連れ去ろうとしてくる連中を撃退したら、街中の術者を敵に回していた。明らかに理に適わないのは向こうだろう。迷惑な。


「まあ、そりゃいきなり妖を一撃で倒せる異能者が現れたら、話聞きたいんじゃねえの」

「それに俺が付き合う義理は?」

「……疾って、本当にマイペースだよな」


 肩を落として溜息をつく竜胆を無視して、俺は話を戻した。


「まあともかく。そんなんやってたら、ある日いきなり人鬼に出くわしたんだよ」

「は?」

 驚いた顔でまじまじと見下ろした竜胆が、ぽつりと呟く。

「……よく生きてたな」

「まあ……そうかもな」


 軽く肩をすくめて認めた。幸い格の低い人鬼だったから簡単に倒せたが、今回のように戦いを知る人鬼であれば、死んでいてもおかしくなかった。


 ──あの頃の自分は、小細工で相手を翻弄するしか能のない、自分の才も活かしきれない、つまらない小物だったのだから。


「あれ?」

 竜胆が何かに気付いたような声を上げた。視線で促すと、竜胆は困惑の眼差しを俺に向けてきた。

「疾、その時から神力を扱えてたのか? じゃなきゃ、人鬼の相手なんか無理だろ」

「さあ?」

「おい」


 半眼で詰られたが、こればかりは誤魔化したつもりはない。本当に分からないのだ。あの頃、自分が一体、どんな力に縋っていたのか。何故、妖相手に戦えていたのか。


 ──己が内に飼っている歪な力の正体が、一体何なのか。


 それは、未だに、分からないままなのだから。


「ま、とにかく、ちょっと変わった妖だと思って屠ったら人鬼だったっつうわけだ」

「何だその無茶苦茶……」

「妖気纏って人間襲いかかる点では同じだろ」

「いや、そこを同じと括れるなら鬼狩りはいらねえっつの」


 局長辺りが聞いたら目を吊り上げて物言いそうな竜胆のツッコミに、少し吹き出した。


「ふはっ。ま、確かにな」

「いや笑い事じゃねえよ……」

「まあ、んな鬼狩りの根源に関わる話は今は置いておくとして、だ。そもそも、人鬼が何故いきなり俺を襲ったかっつう話だろ」

「あ……」


 竜胆が言われてみれば、と虚を突かれた顔をした。人鬼は確かに無差別に人を襲うが、そこに鬼狩りがいれば、何故か鬼狩りを付け狙う習性がある。自分を滅ぼす天敵への本能的な警戒心だろうか。だったら人間を喰いまくって力を付けてから襲った方が勝機があると思うんだが。


 疑問もまた横に置いておくとして。この不自然な現象は、実は非常に簡単に説明が付く。人鬼は俺を狙ったのではなく、ごく普通に、天敵・・を狙っていた。


「そこで、あの馬鹿が出てくるわけだ」

「は?」


 1つ溜息をついて、言葉を結ぶ。本当に、あの馬鹿には徹頭徹尾、迷惑をかけられ通しだ。



「あの馬鹿が鬼狩り研修の締めとして、人鬼狩りに狩り出された時だったんだよ。俺が遭遇したのは、無様に逃げ回る瑠依を追いかけていた、人鬼だった」



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