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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第8章 やりたくない仕事やらされて帰りたい
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罠って力業で壊せるんだそうです


 その後、半泣きの朱雀さんがテンパりながらもやっとこさ説明してくれた「莫大な瘴気の源」の在処に向けて、俺らは歩き出す。朱雀は帰って良いって冥官に言われてた、すげー羨ましい。


 なお、疾はさっきまでの覇王な空気は治まって、なんかいつもよりぴりぴりしてるなー、程度になってる。うん、そのままでいて欲しい切実に。


 俺らを全力でびびらせた空気の名残で気まずかろうが眉1つ動かさない冥官サマはと言えば、ふいと視線を上に上げた。


「冥官?」

 疾の問いかけに、冥官が軽く手を上げる。ちょっと待てって意味だと解釈したらしく、疾が眉を寄せつつも黙って立ち止まった。


 冥官は視線を上に上げたまま、すっと左手を掲げる。すうと光が伸びて、冥官がそれを掴むと弓になった。……あ、これ疾の銃と同じっぽい。


 神力を余すことなく伝える武器。疾が何で持ってるのか聞いても教えてくれないけど、その威力はお墨付きだ。一撃必殺だもんな、鬼。


 冥官が矢を番えるような仕草をすると、白羽の矢がどこからともなく出現する。そのままきりきりと弦を引き絞り、すっと息を吸い込んだ。


 ヒョン!


 甲高い音が鳴り響く。射られた矢の飛ぶ先を目で追ったけど、見える先には何もなかった。


「……逃げられたか」

 冥官がすっと目を細めて笑う。黒い瞳に紅く獰猛な光がちらついた気がして、俺はそっと竜胆の後ろに隠れた。やっぱこの人怖え。


「何だ?」

 俺とは対照的に恐れる様子を見せず、疾が冥官に尋ねる。抽象的な問いかけに、冥官は笑ったまま答えた。


「何だろうな? 最近、この街で人鬼を狩る時に、必ず視線を感じる。追うと逃げられるし、見ているだけだから害が無いと言えばないんだけど……少々、不愉快だ」


 ひんやりした空気が超おっかない。もうヤダ、帰る。


「瑠依」

「だってもうやだぁ……」

 泣き言を言う俺に溜息をついて、竜胆が疾に声をかける。


「疾は視線を感じるのか?」

「……意識すれば、僅かにって所だな。敵意がないから明確には分からん」


 遠くを見透かすような視線を向けて、疾が答えた。それを聞いて、冥官がにこりと笑う。


「疾は目も耳も良いからな。流石だ」

「煩え。気が済んだならとっとと行くぞ」

「はいはい」


 苦笑を漏らしながら、冥官が疾の後を追うように歩き出した。俺らも後を追うと、ふと思いだしたように冥官が俺を振り返る。


「そういや瑠依、人鬼を狩るのは1年以上ぶりだな? 基本知識はちゃんと覚えているか?」

「え゛」


 いきなりの無理難題をふっかけられて、俺はカエルが潰されたような声を上げた。竜胆、なんでそんな冷たい目で見るの? 帰りたくなるだろ?


「えー、あー」

「その馬鹿が覚えてる訳ねえだろ、だから足手纏いなんじゃねえかよ」


 疾の冷え切った声が的確に俺の答えを抉ってきた。足手纏い……刺さる。帰りたい。


「そうか、それは困ったな……倒し方は覚えてるか?」

「え、えと、神力で瘴気を浄化しつつ心臓の破壊?」

「ん、そこさえ覚えていれば大丈夫だろう」


 にこっと笑われて、ほーっと息を吐き出す。けど、竜胆から続いて死刑宣告。


「帰ったら全部復習な」

「殺生な!?」


 がーん、と蹌踉めいた俺を見て、冥官が吹き出した。


「ははっ。瑠依と竜胆は仲が良いな」

「……何か、微妙な気分になるんですけど」

「ははは」


 竜胆が何とも言えない顔をしてる。何だよ、仲良いって言われたんだからそれで良いじゃん。


「……ちっ」

 小さな舌打ちが聞こえましたが、疾さん、なんでしょうか。


 恐る恐る様子を伺うと、剣呑に目を細めるとこだった。うわ、おっかねえ。


「冥官」

「ん?」



「──罠だ」



 え? 何が? と、聞くより先。



 視界が、真っ暗に塗りつぶされた。



「ひっ!?」

「瑠依、動くなよ!」


 鋭い声で竜胆が警告してきた。言われるまでもなく動けねえって、何これ!?


「あー、なるほど。このタイプだったか」


 焦る様子のない声が聞こえたと思うと、ぼうっと灯りが闇を押しのけた。鬼火のようなゆらゆらした光を漂わせた冥官が、俺らを見ている。


「影響はないか?」

「へ?」

「うん、ないみたいだな。何よりだ」


 何のこっちゃと首を捻る俺に、冥官は1人結論付けてにこりと笑った。えーと、なんかやばいものでもあるの、この闇?


「どうやら堕ちたのは、元術者みたいだな。生前扱えた術に瘴気を織り交ぜて、俺達を封じ込める結界を作りだしたようだ。瘴気を辿ると自然と捕らえられるようになっていたな、よく出来ている」

「……えぇと?」

「まあ、閉じ込められたというのだけ、分かれば良いよ」


 おお、成る程。それなら俺も分かる……って、ちょい。


「やばくないですか!?」

 帰れない!? 一大事じゃねそれ!?


「うーん、まあ、そうかな?」

「帰る方法がないとか超ヤバイですって! オフトゥン出来ない!?」

「あははは、眠たいのか?」

「オフトゥンは人間の構成する重要な要素だと思います!」

「要素ときたかあ」


 必死で重要性を訴えるも、冥官は楽しそうに俺と会話を続けるばかりで慌てるようすなし。くそう、この人、人間やめてるせいで三大欲求から遠のいてる……!


「……あれ?」

 そして俺は、おかしいことに気付いた。そろそろ来る筈の竜胆の拳固とか、疾からの辛辣すぎる毒舌とかが全然降ってこない。おかしい。……俺の普段の扱いについては取り敢えず、横に置いておく。


「竜胆? 疾?」


 直ぐ隣にいたはずの竜胆と、冥官から割と離れていないところにいた疾をきょろきょろと探すも、どこにもいない。え? どこいったの?


「どうやら、分断されたみたいだなあ」

「は!?」

「といっても、遠くに飛ばされたとかではないみたいだが」


 ぎょっとして冥官を振り返ると、冥官は肩をすくめてきた。


「まあ、疾も竜胆も簡単にやられるとは思えない。そう心配はしなくていいだろうが……問題は何を狙って分断してきたのか、だな」

「…………わっかんないです」


 分断しての利点って何? ゲーム脳的には、戦力分断が真っ先に思い付くけどさ。


「何はともあれ、脱出を1番に考えようか。どうもこれ、精神に影響を与えそうだからな。俺1人ならともかく、瑠依もいるし」

「あ、はい」


 ……って、どうやって?


 首を傾げた俺ににこりと笑って、冥官はすらりと剣を抜いた。

 直刃のごっつい剣を片手で軽々と掲げると、刃が神力を乗せて白々と輝き出す。


「……えーと」

 まさか、と1歩下がった直感を、俺は次の瞬間全力で褒め称えたよね。


「うん。力尽くで壊そう」

 振り下ろされた刃から真っ白な閃光が弾け、俺の視界を塗りつぶした。


「力業!?」

 何それおっかない、というかこういう壊し方出来るものなのこれ!?


 動揺混じりに悲鳴を上げた俺に、返事を返すように。



 ──バキン!


 何かが砕ける音と共に────ふっと足場が消える。



「瑠依!」

「ひっ!?」


 落ちた、という実感だけを残して。

 視界が、暗転した。


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