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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第8章 やりたくない仕事やらされて帰りたい
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怖いもの知らずすぎます

 次に辿り着いた場所では、鬼が出現した。……10匹以上ってどういう事ですかねえ。


「瑠依、結界」

「へーい」


 鉛筆を使って結界の呪術を組み上げると、竜胆が地面を蹴って鬼と対峙する。そのまま時間稼ぎを始めた竜胆を横目に、ごそごそと呪術具をリュックから取り出して並べた。


「……しかし、結界を組める呪術って稀少だよな」

「もはやあれは別物だろ」


 俺の後ろで見物体勢の冥官がしみじみ呟く傍ら、切って捨てるような声で応じる疾は携えた銃で鬼を牽制している。……冥官はともかく、おい前衛。


 竜胆が余裕ある動きで鬼を蹴り飛ばしてるのを確認してから、並べた呪術具に神力を込めて、呪術を組み立てた。

「うっし、出来た!」

 呪術具から溢れ出した血文字を操って、鬼に巻き付けるようにすると、靄がずるりと落ちた。


「竜胆!」

「おう。っらあ!」


 吠えるようにして竜胆が豪腕を振り落とすと、鬼は悲鳴を上げて霧散した。


「はー……疲れた。帰りたい」

「おい」


 竜胆が半眼になって睨んでくるけど、いやだって普段のお仕事一回分じゃん。当然、帰りたいだろ。


「うーん……そっちはどうだ、疾?」

「ない」


 おかんとのじりじりした睨み合いをしていた俺の耳に、そんなやり取りが聞こえてきた。そういやさっきも似たようなやり取りがあったよな。


「何が「どう」なんですか?」

 竜胆も同じだったみたいで、問いを投げ掛ける。疾は当然のようにガン無視だったけど、冥官が答えてくれた。

「人鬼の痕跡を探っていたんだ。鬼を複数作り出すほどの瘴気を纏っていたら、地脈に瘴気が染み込みやすい。それを見つけられれば、地脈から人鬼を追えるからな」

「へー」


 半分くらいは理解出来たので、適当な相槌を打っておく。地脈から瘴気を探るって意味不明なんだけどな。


「けれど、やっぱりこの街、最近地脈の乱れが酷いな。瘴気を追うどころじゃなくなっているようだ」

「……乱れ」


 竜胆が眉を寄せた。俺はなんか聞き覚えあるなぁ……って目を泳がせる。


「そう。魔王襲撃の影響もあるだろうが、それだけじゃないな。疾、何か知っているだろう?」

「さあ」

「いや、さあじゃなくて」


 またもすたすた歩き出そうとする疾の肩を掴み、冥官が無理矢理振り向かせた。……行動の1つ1つが怖すぎて、俺帰りたい。


「四神から聞いているだろう?」

「別に」

「契約の形を変えたのなら聞いているはずだ。報告はどうした?」

「人鬼狩りには関係ねえ話だろうが、手離せ」


 嫌そうにそう言って、疾は荒々しい動作で冥官の手を引き剥がした。あっさり手を引いた冥官は、苦笑い混じり。


「疾。その方針は、俺はあんまり良くないと思うんだがな」

「冥官が関わるとややこしくなる。口出すな」


 突き放すようにそう言って、疾は今度こそ歩き出した。


「……疾、どうしたんだろうな」

「さー?」


 普段より更に非協力的なのは確かだけどな。冥官が嫌いとか? 


 ……うん、まあな。嫌うには十分過ぎる事されてるけどな、疾。

 会話だけだと人が良さそうに見えるけど、この人はマジのド外道だ。うん、忘れないようにしないと、気付いたら死地にぶっ込まれるぞ俺。気を付けよう。


「さて、置いて行かれないうちに行こうか」

「あ、はい」


 俺らの会話が聞こえてたのか聞こえてないのか、促してきた冥官と一緒に、足の速い疾を追いかけた。



***



 結局その後、3箇所程のポイントを回らされた。けど、手掛かりもなく、俺らが鬼を狩るだけで終わった。


 ……いや真面目に疲れたんだけど。もう帰ろうぜ、俺眠たい。


「うーん、手掛かりが少ないな。地脈の瘴気が全く見つからないのは予想外だ」

「探査の術でも組めよ」

「いや、手掛かりも無しに探査は厳しい。今回は獄卒達の前調査でも、外見情報1つ集まっていないんだ」

「何?」


 疾が眉を顰める。琥珀の瞳に剣呑な色を浮かべ、冥官に詰め寄る。


「影だろうが自由に動き回れるあいつらが、何も情報を得てねえだと? 俺達だけでどう追うつもりだ」

「いや、俺も怠慢を疑ったけど、本当に見つからないようだ。となれば、上司の俺が動くしかないだろう。足使うぞ、足」

「あのな……、この街、あんたが思うより遥かにでかいんだが」


 うん、疾の言う通りだ。この街は『街』と便宜上呼ばれてるけど、実際は紅晴『市』だ。チャリでも横断縦断は怠いレベル、ましてや歩きとかどんな拷問かってレベルだったりする。


 問、その街をひたすら足使って鬼を探せと言われた俺の心情を書きなさい。

 答、よし帰ろう。


「瑠依」

「いや、普通じゃん。帰りたい、俺十分仕事した、寧ろもう疲れた寝たい」

「帰れるか、馬鹿」


 竜胆にぐいっと引き寄せられたところで、冥官がさらっと凄い事を言った。



「じゃあ、四神を呼ぶか。彼らに協力してもらおう」



「……」

「……」

「……」


 思わず黙り込んだ俺ら3人。え、今なんて?


「おい、冥官。ついに1000年の時を経て呆けたか」

「いや? そういう身体的な軛から離れて1000年だからな、認知症はまずないぞ」


 疾の暴言をさらっと躱す冥官に、疾が眉間に皺を寄せた。


「……冥府の人間がカミを利用しようとするんじゃねえボケ。あいつらは鬼狩りの業務で利用出来る存在じゃねえだろうが」

「えー。街の危機だぞ?」

「彼我の住み分けをあんたが守らなくて、誰が守る」

「誰か」


 ジャキッ。


「ちょ!?」

 疾が銃口を冥官の眉間に向けた。それ冗談にならない奴!?


「……ふざけた口きくな。脳天ぶち抜くぞ」

「出来るものならな。というか、俺は大真面目なんだけど?」

「なお悪い」

「おや、これは通じていないのか」


 参ったなあとぼやきながら、冥官が無造作に銃口を掴んで押し下げる。機嫌が急下降していく疾に楽しそうに笑いかけるとか、この人本当にどうなってるんだろうな。


「疾、あいつらと仮契約はしたのだろう? だったらこの土地の情報をどんな理由で得ようと、契約主としての権限内だ。鬼狩りの業務に使おうが支障は無いよ」

「それを俺がハイそうですかと聞くと思ったか、扉の番人。直接的にだろうが間接的にだろうが、あんたが四神から情報を得る時点で大問題だろうが。どうしても利用したいなら、最低でも道反大神ちがえしのおおかみへの奏上が必須だぞ」

「おお、よく勉強しているなあ」

「…………」


 ……あの、冥官サマ。そろそろ、疾をからかうのやめてもらえませんかね。苛立ち通り越して周囲の空気までひんやりしてきたんですが。


「(……竜胆、マジで帰りたい。これ無理、八つ当たりでもされたら死ぬって)」

「(今迂闊に動く方が危なくねえか……)」


 ひそひそと言い合う俺と竜胆。ほら、竜胆おかんまで危険だっつってんじゃん、ヤバイってマジで。


 一触即発な空気が流れる中、ひとりにこやかな冥官がさらっと宣った。

「じゃ、やろうか。奏上」

「…………は?」


 疾が頬を引き攣らせる。そのまますうと息を吸い込んで、ってやばい雷が落ちる!!


 が。



『──道反大神に申し奉る。我、冥府の官吏にして冥王の臣。名を、小野篁おののたかむら


 凄まじい言霊の圧に気圧されるように、疾が息を止めた。


『職務が為、大神の力を借り申し上げる旨、かしこみかしこみ申す──』



 冥官が柏手を二度、打ち鳴らすと、空気が震える。とんでもない力の奔流が渦巻いたと思うと──


『主? 呼ばれましたか?』

 きょとんとしたような女の子の声。朱雀が本来の姿で、力の渦があった場所に羽根をおさめて佇んでいた。


「…………」

「それじゃ、疾。情報収集よろしくな」


 無言無表情の彫像と化した肩にぽむと手を置いて、冥官が超気楽に仰る。無表情のまま、わなわなと震えだした。


「…………」

『あ……主……?』


 めっちゃびくつきながらも恐る恐る呼びかけ、勇敢にもセキが1歩(?)踏み出すと。


「──セキ」

『は、はいっ!?』


 悲鳴に近い返事。うん、だよな。そのヤバ過ぎる声にびびんないわけないよな。


 ゆらりと顔を上げた疾が、それはそれは綺麗に笑顔を浮かべた。わあお、見事な作り笑顔……っ!



「この、街の。瘴気が淀んでる場所を、1つ残らず、吐け」



『ははははいぃいいい!!』

 泣きそうな声でめっちゃどもりながら返事をした気の毒な四神が一に、俺と竜胆の気の毒な視線が向けられたのだった。


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