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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第8章 やりたくない仕事やらされて帰りたい
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未だに納得いきません

 さて。

 鬼狩りの職務を、ここで再確認してみようと思う。


 まず、鬼狩りは適性のある者が修行をして神力を目覚めさせるか、冥王サマから神力を与えられるかして、鬼を狩る能力を手に入れる。

 ここで一旦、最低限の知識と神力を操る訓練を叩き込まれて、鬼狩り初心者は経験者と一緒に鬼を狩りに行くわけだ。


 瘴気溜まりに侵された妖が、変質して黒い靄を纏う、原型を止めぬ異形となりはてる。それを神力を練って作り上げた術を使って靄を払い、止めを刺すってのが鬼狩りの職務だ。後は、瘴気溜まりの濃度が高く鬼が発生しそうなトコを浄化して、鬼が出るのを未然に防ぐこともたまにある。


 ……蛇足だけど、常葉ヘンタイの活躍で俺らの街の未然防止率は高いらしい。普通は駆けつけても鬼が丁度生まれました、みたいなタイミングが多いんだと。……お陰で見回りの回数が減ってるはずなんだけど、全然常葉に感謝する気になんねえが不思議、いやまあ変態ときはだからか。


 と、ここまでが鬼狩りの職務になる。あ、一応腕が鈍らないよう定期的に訓練に来いとは言われるな。俺はわりと好きだし結構行く。


 で、だ。


 改めて振り返ってみて、思う。俺らの仕事は、あくまでも人を襲う鬼を狩ることだよな、と。うん、当たり前だ。実に当たり前だと思う。



 なのに──



「なんで魔王襲撃のときに動かないからってフルボッコされたりちゃっかり術者達の手伝い無償で押しつけられたりすんの!? 絶対、納得、出来んっ!!」

「……まぁなぁ……」


 精神安定剤オフトゥンを補給しつつ喚く俺に、竜胆は疲れた声で、言葉短に同意した。



 この間はマジで散々だった。疾にフルボッコされてフレア様にフルボッコされて、挙げ句にこの一言で俺らの全責任をぶん投げられた。


『そもそもどうして連絡が付かないのかしらね。疾も何度か電話したみたいよ? ずっと電波が通じないって言われて諦めたそうだけど』



「……まさか、瑠依の端末破壊癖が災いするとはなぁ……」

「竜胆!? 俺のせいで引き下がるの!?」


 それはあんまりだと、俺はオフトゥンの中から反論した。


「どう考えたって今回のは疾の力業理論とフレア様の都合が一致しただけじゃん! 俺ら身の安全を優先しちゃダメとか言われてないじゃん!? 酷くね!?」

「……瑠依がテスト真っ当な点数とって、菫さんにスマホ直して貰えてればマシだったんじゃねえの」

「あーあーキコエナイ!」

「……だから、そういうとこだっつの」


 疲れた声でそれだけ言って、竜胆は机に向き直った。……いつもよりツッコミが雑で、俺寂しい。



 俺が神力振り絞って2人分の治癒を行ったから、取り敢えず無傷だ。……というか、目立つ外傷というか治癒で何とか出来ないレベルの怪我は一切無かった。手加減のつもりか、全く感謝する気が起きない。

 けど、すり減りきった体力や精神力ってのは術じゃ治せるもんじゃなくて、俺らは次の日まるっと、2人揃って療養していた。


 竜胆もなー、俺よりずっと体力あるんだけど。なんか自己治癒能力が高い分、治癒魔法が要らないくらい治りは早いけど、一度それが発動するとしばらく動くのが辛いんだと。今回は、治癒を行う前の時点で発動しちゃってたらしい。色々大変だよなあ、半妖って。


 とはいえ既にあれから1週間は経っている。とっくに回復して、竜胆なんかなんと休みの日だってのに勉強しちゃうくらいだ。オカンが真面目すぎてやばい。



「あ、忘れてた。瑠依、血」

「あーわり」


 俺はのそのそと起き上がり、ベッドサイドからカッターを取って指を突いた。側に置いといた水入りコップに適当にぽたぽた落として、歩み寄ってきた竜胆に手渡す。


「……さんきゅ」


 竜胆が水を一息で煽る。その一瞬だけ目の竜胆色が深くなるのが、みょーに綺麗なんだよな。


「つか、瑠依も勉強しろよいい加減」

「だが断る」

「……全く反省の余地が見られねえな」


 竜胆が溜息をついた、その時。


「ひっ!?」

「……うげぇ」


 悲鳴を上げる俺、呻く竜胆。……気持ちはすげー分かるけどマジでレアだな、竜胆のこんな態度。


 とはいえ壁に浮かんだ魔法陣が遠慮するわけもなく、相変わらずお元気そうな声が。


『よお』

「ハウス!? 今週くらいゆっくりさせて!?」


 思わず吠えた俺悪くない。誰のせいで先週が悲惨な事になったとお思いか!


『体力ねえな、相変わらず。竜胆もいるよな?』

「……まあ、いるけどよ。あの後久々に会話して、それかよ」

『必要事項の連絡で前振りするほど暇じゃねえよ』


 笑い混じりに言い切る疾さん、流石です。竜胆、溜息付かないで怒っていいと思うぞ?


「で? なんだ、連絡って」

『鬼狩りの仕事だ、今直ぐ局に来い』

「え」

「だが断る!?」


 唐突な通達に吠えるも、疾はせせら笑ってくださった。


『拒否権がてめえにある訳ねえだろうが、阿呆。良いか、なるべく早く来い』

 言うだけ言って通信を切ったらしく、魔法陣が消える。俺は布団に潜り込んだ。


「……瑠依」

「絶対やだからな! あいつ1人で働けば良いじゃん!? 絶対に今日はオフトゥンするからな!」


 あんな目にあった後だぞ、しばらく働きたくない俺悪くない。断固籠城の構えを取った俺に溜息をついて、けど竜胆は無情な答えを返してきた。


「却下。諦めて出てこい」

「理不尽!?」


 このあと、ちょっとの間しかオフトゥンを死守出来なかった。おのれ、おかんの布団引っぺがしスキルが上がってきてる……。


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