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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第1章 鬼を狩るより帰りたい
8/116

強くなるのが、楽しいんです

 3分後。


「じゃあきちんと報告しておけよ、負け犬共」

 この上なく憎らしい台詞と共に軽やかな足音が遠のいていくのを、俺と竜胆は地面に大の字になって聞いていた。


「あー、くっそ……魔術使うとあいつおかしい。なんできょうか……半妖を素手でボコせるんだよ、膂力差どうなった?」

「身体強化魔術とか言ってたっけ。おっかしいよな、あの動き」

 心底納得いかなさそうに愚痴る竜胆に、俺も頷く。


 俺の呪術を全弾打ち落とし、竜胆の攻撃をひょいひょいかわし、挙げ句に的確に魔術や銃弾を撃ち込んで俺を吹っ飛ばし、竜胆を素手でぶっ飛ばすとかおかしいとしか言いようがない。疾の戦いぶりって、正直人間やめてると思う。


「あーくそっ、3分の壁が厚い!」

 ああ、何回見ても、ふっとばされるあの瞬間の、ものすっごく人の悪い笑顔が腹立たしい。ああいうムカツク顔させたら、あいつピカ一なんだよな。

「くそう疾、あの野郎! いつか勝ってやるぅ!」

 悔しさを声に乗せて叫ぶ。まだ起き上がれずじたばた暴れる俺に視線をくれて、竜胆は溜息混じりに聞いてきた。


「つーかさ、なんでいっつも異能戦に持ち込むんだよ。瑠依の呪術は悪くねえけど、疾は魔術師としても名が売れてるんだろ? 勝ち目の低い戦いしてどうすんだ」

 若干認識の間違った台詞を訂正するのは後回しにするとして、竜胆の疑問に答える。

「馬鹿言え、口で疾に勝てるか。俺は頭が悪いんだ!」

「すげえ、自分で言い切った」

「あと後衛だから殴り合いも絶対勝てないってのもある。消去法的に異能戦が残るだろ」

「まあ、それは分からなくもねえけど。喧嘩しねえって選択肢は?」

「男には引けない場面がある。変態と呼ばれたら絶対に戦うと決めてるんだ!」

 ぐっと拳を握って語ると、また竜胆が溜息をついた。

「そこにつけ込まれて、いっつも疾に報告押しつけられてるって気付いてっか?」

「そうだったの!?」


 愕然と振り返ると、もう起き上がってた竜胆が半眼で見下ろしてくる。


「ほんっっと、アホだなあ……」

「やかましいわ! これでも成長しているんだぞ! 最初は文字通り瞬殺されてたのを10秒、20秒、30秒と粘れるようになり、一年近くかけて分の壁を破った時には思わずガッツポーズして負けた!」

「なあ、だから何してんだって」

 竜胆の呆れ声に、俺は星空を見上げながら答えた。


「強くなってる」


「…………」


「鬼狩りの中でも群を抜いて強え疾と曲がりなりにもやり合うと、ガンガン上手くなっていくんだ。それが戦ってるとめっちゃ分かるんだぞ、楽しいじゃねえか。疾の技1つ対処出来るようになる度に、ワクワクする」


 これほど成長を実感出来るやり取りもないんだから、わざと提供してくれてるらしい疾にはぶっちゃけ感謝すらしている。


「このままずっと戦ってれば、いつかあの無茶苦茶な強さにも届くかもって思ったら、頑張る気になるだろ? だから何度でも挑戦するし、勝ちを狙いに行くに決まってる!」


 どんなに遠くても、一歩一歩進めば、いつか目的地に到着する。いつか疾に参ったって言わせたら、って妄想するだけでも気分が良い。

 だから俺は疾と組んでるし、事ある毎にこうして喧嘩してるんだからな。


「……はあ。どこまで分かってるんだろうなあ……」

「ん? 何か言ったか?」

「いーや。後先考えない主に付き合わされて、俺も苦労するなあ、ってな」

 辛辣な竜胆に、唇を尖らせる。

「いーじゃん、楽しいんだからさ。楽しい事は共有してナンボ。折角契約したんだし、楽しくやっていくのが一番!」

「……はは、まあな」


 楽しそうに笑って、竜胆が立ち上がった。軽く砂をはたき落として、振り返る。


「じゃあさっさと報告行くぞ、瑠依」

 手を伸ばして立つようにと促してくる竜胆を眺め、ふと呟く。


「なあ。思ったけどさ、竜胆がひとっ走り報告行けば早くね?」


 いっつもぐだぐだ歩いてたけど、竜胆が全力で走ったらあっという間にポイントに着くじゃないか。なら、まるっと任せて最短で往復して貰えば、俺の睡眠時間が長くなるんじゃなかろうか。おお、良い事気付いた、俺頭良い。


 ほくほくとそう告げると、竜胆がしばし黙り込んだ。

「おーい、どうした?」

 何故か半眼になってる竜胆に呼びかけると、竜胆はにっこりと笑う。

「そーかそーか。じゃあそうしような、瑠依」

「へ」


 問答無用でガッと腰を掴まれ小脇に抱えられて、俺は思いきり青醒めた。何これデジャヴ。


「待って、なんでこうなった!? だからせめて肩に担いでって、いやああああ!?」

 夜更けの街に、俺の悲鳴が響き渡った。


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