人外が多すぎて泣きそうです
絶叫した俺の目の前で、魔力砲は街ぎりぎりの所で受け止められた。
「うっそ!?」
「術者達の結界……大規模術式か……けど」
足んねえだろ。
そう呟いた竜胆の言葉を裏付けるように。
ぱりっと。せんべい割るような乾いた音と共に、結界が割れた。
「あ、おわった」
つい呟いた俺の目の前で、魔力砲が全部消し飛ばす──かと思いきや。
とんでもない力の奔流が地面から吹き上がった。
「なんだ!?」
竜胆が驚愕の声を上げるとかどんな世紀末。俺とかもう声が出ないし。
無色の奔流が轟々と吹き上がり、魔力砲を食い止めてる。しかも少しずつ、着実に威力が削がれていってるのが、ここからでも分かった。
「……嘘だろ」
乾いた声で、竜胆が呟く。
「さっきの結界は、大人数で組み上げてて、それでもあっという間に破られたってのに……」
「竜胆?」
紙のように白い顔で、竜胆は力の奔流を見つめていた。
「あれ……1人だけの、力だぞ」
「は?」
耳を疑ったその時、街中を無数の魔法陣が覆い尽くす。吹き上がってた力を下に、魔術が次々と砲撃を削っていった。
「……え? あれ1人って?」
いやいや、んなわけねえじゃん。魔術1つ取っても俺の呪術を余裕で消し飛ばしそうだよ? それをあんな数発動するとか、魔力幾らあっても足りなくね?
「俺も、信じらんねえけど……臭いが、混ざってない」
「……」
「なんだあれ……妖だって、あんな魔力の持ち主見た事ねえ」
「……えー」
もうなんか、インフレおかしくない? うちの街、いつの間にこんな魑魅魍魎が跋扈する街になったの?
「はっ、魑魅魍魎が跋扈なんて単語が浮かんだ俺は絶対次の国語で勝つる!」
「……もう黙ってろ瑠依」
「何でだよ!? ……って、やば!?」
冷え切った声に黙れと命じられた理不尽さに叫んだ俺は、街の光景に悲鳴を上げる。
このまま砲撃を削りきるかと思った魔術が薄れ、掻き消えた。そのまま砲撃は魔力の奔流を押し返し、街に着弾する。
「おふとぅうううううううううん!!!」
嗚呼、オフトゥン。愛しのオフトゥン。何故そなたは死ななければならなかったのだ……!
許せない、絶対に許せない。オフトゥンを俺から奪うことは万死に値する……!
「……おーい、瑠依。なんか盛り上がってるとこ、残念だけどな」
がっと頭を掴まれた。そのままじわじわと増していく握力に、悲鳴が勝手に出てくる。
「痛いイタイ痛い!? 中身でてくるやめて!?」
「その、阿呆な、発言を、考える暇があれば、目の前を、しっかり、見ろ」
「痛いって! 何だよ前って……はい!?」
目を疑ったぞ、何これ。
「なんで微妙に建物残ってるの!?」
「ついでに言うと、人死にも出てねえみたいだな」
「あの状況で!?」
あれで生き残るとかどんな人外。術者の人達そんなに凄かったの? だったらなんで最初の結界割れたの?
……あ、いや、ひとつあった。
「あのわけ分かんない魔術の使い手……?」
「……しか、ねえだろうな」
疾並みの化け物が沢山いて、生きるのが辛いです。
「……で」
「ん?」
「俺の、オフトゥンは」
切実かつ至上命題的問題に、竜胆はうんざりした声で投げやりに言い返しやがった。
「壊れたんじゃねえの」
「おふとぅうううううん!」
膝から崩れ落ちる俺。冷ややかな視線を浴びせてくる竜胆。
なんか収拾付かなくなってきた場に、なんだか聞き覚えのある声が降ってきた。
『……主の供か。丁度良い』
「ん?」
「あれ、今の声?」
頭に直接響く、硬質な女性のアルトに、頭上を仰ぐ俺ら。目に入ったのは、さっきまで飛行船のとこにいた白虎だった。
「……どうされたんです、守護獣どの」
竜胆が慎重に尋ねる。丁寧だなー、まあ神様だもんな。
『主に命じられて……この者達を』
「え……うおっ!?」
竜胆が目を剥く。白虎の背中には、傷まみれでボロッボロな人が2人、ぐったりと身を預けていた。
けど、俺にはそんな事より気になったワードが。
「……待って、超待って。え、何、疾がこの人達助けろって言ったって事?」
「え」
竜胆が驚いた様に振り返った。白虎は、……恐るべき事に頷いた。
『然り。脱出した彼らを、地上まで送り届けよと。……主以外を背に乗せるなど、屈辱以外の何ものでもないのだが』
「……なんか、ごめん」
分かっててやらせた疾がありありと浮かんで、謝らなくちゃいけない気がした。予想通りだけど、相棒殿は絶好調らしい。
「んー……取り敢えず、こいつらはどうすればいいんだ?」
「病院でいんじゃね?」
術者のとこ行くとかそんな帰れないことしたくないし。無難な提案をすると、白虎も頷いてくれた。
『そうだな。この街の病院は、異能者の治療も行っている。妥当だろう』
「おー」
「瑠依が妥当な意見を言った……」
「竜胆さん?」
ホント、最近俺の扱い酷すぎる。何、俺なんかした?
『それでは、任せた』
言うなりぺいっと怪我人を振り落とし、白虎は飛び去っていった。……え、扱いひど。
「一応守護する人間の筈なのにな……」
「よっぽど嫌だったんだな乗せるの……つか、疾どうやって下りてくるんだ?」
「……どうにかするんじゃね、前みたいに」
俺に呪術使わせといて浮遊魔術使えたあの時の恨みは忘れてないからな。ぶーと唇を尖らせて俺に溜息をついて、竜胆は怪我人を2人とも肩に担いだ。
「んじゃ、行くか。砲台が沈黙してる今がチャンスだろ」
「あー。まあ、そっか」
確かに頭上を見ると砲台の魔力は消え失せてる。あんなの連射されちゃ敵わないもんな、良かった良かった。
「じゃ、竜胆いってらー」
「……」
竜胆1人でかつげるなら俺はいらない筈。そう思ってひらひらと手を振ったのに、何故か竜胆は据わりきった目で俺をじっとり見据えてきた。
「……はあ……」
ふかーい溜息をつくと。
「のわっ!?」
いきなりげしっと腰に負担がかかったかと思うと、視界がぐるんと回った。え、何事……って、これまさか足でリフティング体勢?
「このまま空中散歩するか?」
「地面を歩かせてくださいお願いします!?」
命が幾つあっても足りない提案に、悲鳴混じりに俺は懇願した。