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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第7章 魔王襲撃なんておっかないから帰りたい
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なんと魔王だったようです

「ほ……砲撃……?」

「魔力砲……だろうな。魔力を束ねてひたすら破壊に特化させるっつうやつ」

「何それ怖い……」

 声が震えちゃっても無理ない。


 だって呪術が教えてくるんだ。「あれ」は、俺の手に追えるかどうかとかいうレベルじゃねえって。個人の領域ではどうにもならない、天災だって。


 ──この街1つ消し飛ばして余りあるほどの、威力を持ってるって。


「……瑠依、落ち着け。とにかく菫さん達と合流するぞ」

 竜胆が緊張を孕んだ声で、それでも静かに諭してきた。

「どのみち雛さんがこの状態だ、今すぐは何も出来ねえ。避難場所から更に避難が必要かどうかは、移動してから考えるぞ。……このままここにいても、消し飛ぶだけだ」

「……おう」


 力無く答えると、竜胆は一旦止めてた足を動かし、駆け出した。



***



 無事到着して、竜胆がねーちゃんをお袋様の隣に寝かせる。それを見届けた俺は、空を睨み付け、竜胆に聞いた。


「よし、竜胆。どうやったら俺のオフトゥンは守られるか考えよう」

「……は?」

「いや、は? じゃなくてさ。俺の帰る家を奪おうとする敵から、俺のオフトゥンを神回避させる為のアドバイス求む」

「…………」


 竜胆がたっぷりと黙り込んだ。何を驚いてるんだろうか、俺的には当たり前なんだけどな。


「えっと……つまり、あの砲台またはその元凶となる敵をどうにかしてえって事か?」

「はい!?」

「え?」


 なんて事言ってくれるのかこのおかんは。思わず振り返って、何故か目を丸くしてる竜胆に握り拳と共に演説した。


「あんなのをほいほいぶっぱ出来る様な相手を俺単体でどうにか出来る訳ないだろ!? 敵を倒すとか発射を防ぐとかそーゆーのは、人間やめたようなバグキャラの仕事であって! 断じて帰りたいだけの俺がやることではないっ!」

「滅茶苦茶格好悪いことを滅茶苦茶堂々と言いやがったな……」


 呆れ返ってるけど、俺の言うことそのものには賛成らしい。続けてこういった。


「ま、でも確かに俺らで無茶しても、犬死にするだけだな……かと言って、他に瑠依ん家を守る方法も思いつかねえけど」

「くっ、ねーちゃんと一緒にオフトゥンも避難させておけば……!」

「いや無理だろ」

「俺のおふとぉぉぉん……」


 すぱっと言い切られて、膝から崩れ落ちる。嗚呼、これが永遠の別れだなんて、誰が思っただろうか。


「……何かもう、今ここに疾がいたらどんな顔したんだろ」

「何でそんな恐ろしい想像すんの!?」

 間違いなく意味もなく蹴っ飛ばされる奴!


「……はあ、まあいいや。つか、あの戦艦……」

「ん?」

 急に竜胆の話が飛んだ。なんぞやと振り返ると、竜胆はまじまじと戦艦を見て、眉を寄せて俺の問いかけに応じる。


「いや、ちっと気になったんだ。俺が知る限り、これだけの魔力を収束させる戦艦を持ってるっつうと……まさかとは思うが……」

 続きを言うのを竜胆が躊躇った、その時。


 激しい閃光と轟音が鳴り響き、地面が激しく揺れた。


 今度は何事!?


「瑠依! 西だ!」

「は……ってえぇええええ!?」


 絶叫するだけの事はあるとも。西の山にでっかい穴が開いて、しゅうしゅう煙吹き上げてるんだもん。


「なに何なの馬鹿じゃねえの!? 山火事!?」

「よく見ろ馬鹿! 魔力砲だ!」

「はあっ!?」


 竜胆が指差した先に見えるはお空の飛行船。主砲とはまた別の所に、白い服を着た女の子がちらりと見えた。


「あんなの単騎でぶっぱするとかもう本当に勘弁して!? そういう人間やめたのは間に合ってるから!?」

「ボケかますな瑠依! ここまで条件が集まれば正体も明らかだろーが!」

「はい?」


 え、何が分かったの? 俺、何も条件とか気付かなかったよ?


 ぽかんとする俺に額を押さえ、竜胆はやけっぱちな声を出した。



「魔力砲に空飛ぶ戦艦、消し飛ばして余りある馬鹿力、街1つ食い荒らすっつったら……魔王しかあり得ねえだろ!」


 …………まおう?



「まおう?」

 ぽかんとする俺に、竜胆が据わりきった目を向けてくる。

「瑠依。この件が無事解決したら、一旦がっつり鬼狩りの知識見直しすんぞ」

「やめて!?」


 いきなりの死刑宣告に悲鳴が出た。勉強やだって言ってるじゃん帰りたい!


「魔王っつうのは、「世界を破滅させる」事を目的とした絶対悪。世界を滅ぼすことこそが存在意義で、人間に対しての絶対的な敵って扱いだ。場合によっちゃ、複数世界を食い荒らすような化け物もいるって話だ」

「……マジでいるの、そんなの?」


 いや、確かにあんな化け物クラス、魔王って言われると納得するけど。そういうのって剣と魔法のファンタジーにしかいないんじゃなかったの?


「はあ……ホント、再勉強だな」

「嫌ですやめてください!?」


 俺の懇願も無視して、竜胆は改めて山を振り返った。


「けど……もし、魔王なら妙だな。こんな街1つ、もっとさっさと滅ぼしてもおかしくねえ。幾ら術者達が頑張ったって限度があるはずだ。何か目的でもあるのか……?」

「うーん……」


 言われてみればその通りな竜胆の考察に、ちょっと考える振りしたけど、やめた。わっかんねえし、どうでも良い。


「……取り敢えず、俺らには何も出来ないって事でおけ?」

「…………」


 オフトゥン返してって言っても通用し無さそうだし、諦めよう。そう結論を出した俺をしらーっとした目で見下ろして、竜胆は深々と溜息。


「もう、本当に瑠依って馬鹿だなぁ」

「ひっで!?」

 何でこの流れでそうなるのさ!?


 あんまりと言えばあんまりな言い方に思わず食ってかかりかけたその時。



 ——ずどおぉおおおおおおん!!!



 本日2度目のど派手な轟音。


「今度は何!?」

「上か!?」


 思わず振り仰ぐと、飛行船が白い煙をもくもくと上げていた。……あのでっかいのに攻撃が仕掛けられたって何それおっかない。


 というか。


「何この急展開!」

 もうついていけないんだけど! 帰りたい!!


「……瑠依」

 不意に、竜胆が静かな声を上げた。我が目を疑うように目を凝らして、竜胆はゆっくりと聞いてくる。


「……いつも使ってる、動体視力あげる呪術具あったろ。あれ、望遠鏡みたいにして船艦を見れねえ?」

「へ? 出来るけど?」

「……ちっと、やってみろ」


 竜胆の様子が変なのが気になるけど、取り敢えず言われた通りに呪術具を取り出して起動。丸めたノートを望遠鏡気分で気楽に覗き込んだ俺は、ひくっと息を吸い込んだ。


「え……? 何、あれ」

「何って……知ってて言ってるだろ……」



 簡易望遠鏡に映る視界には、なんだかとっても見覚えのある、威風堂々たる白い虎が、飛行船の側に浮いていた。



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