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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第7章 魔王襲撃なんておっかないから帰りたい
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吸血鬼だろうと帰れるなら帰ります

 吸血鬼。

 人の生き血を啜って生きる、不死者の王様。


 確か血を吸ったらそいつを眷属化出来るとか、日に当たると灰になるとか、十字架とニンニクが苦手とか、そんな伝説がわんさかあるんだよな。

 最近じゃあラノベやマンガでもよく出てくるんだっけ、耽美系キャラとかゆーやつ。……何で必ずイケメンに書かれてる上に可愛い女の子との恋物語系が多いんだろうな、爆発すれば良いのに。


 ……まあ、そんな現代事情は良いとして、だ。


 この綺麗な女の子が生きる伝説のような吸血鬼だってのは相当びっくりだけど、俺や竜胆が思わず身構えちまうのは、もちろん理由がある。


 なにせ。


「久々に見たな。……日本には少ねえ筈なんだが」

「ふふ。私も貴方がたに会うのは本当に久しぶりですよ?」

「……そういや数十年前に鬼狩りが大規模な討伐隊を組んで、1人も帰って来なかったっつう話を聞いたことがあるな。あんたか?」

「さあ、どうでしょう?」


 吸血「鬼」は、鬼狩りの狩る対象なんだからな。


 鬼の中でもトップクラスにやべえ相手として教え込まれる代表格。しかも人間の血を吸って生きるって言う、直接的に被害多発な生き物で、かつ不死者の王とかがっつり冥府のお仕事に絡む存在なのだからして、ふかいふかーい因縁があったりするらしい。


 ……いや、俺的にはすげーどうでも良いってか、取り敢えず関わりたくない帰りたいってそれ聞いた時から思ってたんだけどな。

 取り敢えず、俺ら鬼狩りが無視して良い相手じゃねえってこった。それは勿論、吸血鬼としても敵扱いだから、放っといてくれないって意味でもある。


 竜胆がビリビリと殺気立っている。相手は相手で異様な程薄ら寒い気配と好戦的な気配をダダ漏らしていて、まさに一触即発。


 間に挟まれた俺は、といえば。


「竜胆……」

「瑠依、目を離すなよ」

 竜胆に忠告されたけど、俺は奮い立ってきっぱりと言った。


「帰るぞ!」


「…………は?」

「…………え?」


 竜胆どころか、白銀しろがねもみじと名乗った吸血鬼まで目を丸くする。空気がちょっと和らいだ。よし、このまま押し通る!


「良いか竜胆、俺らは今日仕事の無い日だ」

「いや、あのな?」

「そしてこっちの綺麗な吸血鬼さんは竜胆が正しけりゃ、鬼狩り集団を1人でボッコボコに出来るおっかねえ人なんだろ! 俺らだけで戦って何になる!」

「いや何になるってな」


 竜胆が呆れてるけど、俺間違ってないぞ。握り拳を掲げて続けた。


「こういうおっかないのは人間やめてるのの仕事だろ!? 俺らだけで挑戦しても死ぬに決まってるだろ、つーか俺が怖いからヤダ! 帰る!」

「帰れるか馬鹿!」

「あいだっ!?」


 ごっちん、と拳固を頭に落とされて目の前に星が散る。何でだ、納得いかない。


「戦略的撤退は大事だぞ竜胆!?」

「瑠依の場合帰りたいだけだろうが! 今この吸血鬼が街を襲ったらひとたまりもないぞ!?」

「街を襲うって言ってないじゃん!? 俺らがわざわざ会いに来ちゃっただけだろ!」


 知らん顔してたらスルー出来たし悪さするとも限らない。だったら知らん顔するのがベストです。帰れないしな。


「このタイミングで襲わないで何しに来るってんだよ!」

「……避難のお手伝いですよ?」

「ほら、お手伝いだって! ……え?」

「だから避難のっつって……は?」


 今、何て?


 くるんと振り返ると、微妙に拗ねたような顔をした女の子が俺らを見てた。俺らの視線を受けて、繰り返す。

「街の皆さんの避難のお手伝いです。避難先で白蟻達に襲われないよう、警戒と殲滅を兼ねてこの辺り一帯を歩いていたんですよ」


「……」

「……マジ?」

「はい」


 えー……何それ。そんな事ってあり?


「吸血鬼が、人を守ってるだと……?」

「あら、心外ですね。これでも生徒会長として、人望高いんですよ」

「学校通ってるの!?」


 吸血鬼の通う高校って何!? 伏魔殿!? 

 しかも生徒会長で人気者とか、どんな学校だよそれ絶対帰れない奴!


「あら、ご存じないのですね。月波学園といって……いえ、こんな話をしている場合ではありませんね」

 言葉を途中で句切り、白銀もみじはすっと背筋を伸ばした。


「雑貨屋WINGは、あらゆる依頼を受ける何でも屋のようなことをしています。今回は店主の伝手で、この街の方々の避難を手伝って欲しい、と依頼を受けました。ですから、店員の私が動いている……という事ですね」

「あ、じゃあこのわけわかんねー状況についても知ってるんだ」

「ええ、概要のみですが。……どうにも、厄介なものに目を付けられてしまったようですね、この街は」


 そう言って白銀もみじが夜空を仰ぐ。釣られて見上げると、でっかい飛行船? が街を覆わんばかりのサイズでぷかぷか浮かんでいた。


「……あれ、本拠地?」

「おそらく、そうでしょう。あれをどうするかは、決めあぐねているようです」

「落ちちゃマズイもんなー」


 あんなのが落っこちてきたら街がなくなる。俺のオフトゥンもなくなる。超困る。


「とにもかくにも、一般人が避難しなければ何も出来ません。ですが避難中に襲われては元も子もないので、私が見回って残党を殲滅しているのです」

「へー」

 ちょいちょい物騒な言葉が混じるけど、おおよそ説明は分かりやすいし親切だった。なるほどと頷いて納得を示すと、にこりと笑い返された。


 ……笑顔は可愛いけど、見惚れられない。だって俺知ってるもん、綺麗に笑う奴に限って超おっかないって。多分この人もそのタイプだろ帰りたい。


「……その説明、信じられると思うか?」

 竜胆が慎重に尋ねる。未だに敵意が見え隠れする竜胆に、白銀もみじは冷ややかに笑んだ。

「ないとして、貴方に何が出来るのでしょう? ただ避難しているだけの、貴方がたに」

「……」


 竜胆がぐっと眉を寄せる。その服をちょいちょいと引っ張って、俺はこそこそ囁いた。


「竜胆、ここは撤退しようぜ」

「瑠依……」

「だってさ、白蟻の件に気付いた段階じゃ、竜胆この人の気配感じてなかったんだろ? だったら無関係、あるいはこの人の言う通り協力者って事じゃね? 俺ら逃げてる側だし、ここは任せとこうぜ」

「……」


 少し考える顔をして、けど竜胆は細めた目で俺を見た。

「で、本音は?」

「なんかすげー面倒なことになったし帰りたい、お袋様と一緒にぐっすやしたい」

「阿呆」

「いっだ!」


 がつんとデコピンされた、普通に痛すぎる。


「ふふ、楽しい方ですね」

「主じゃなきゃな……」

「なんでさ」


 ぶーと唇を尖らせて文句を言ってみた。最近竜胆こればっかなんだもんな、帰りたい。


「はあ……まあいいや。主もこう言ってるし、俺達は引く。ただ──」

 すっと目を細めて、竜胆は低い声で脅すように。


「この街の人間に手出しすんなら、こっちも本気で行く」

「ふふ。やってご覧なさいな、坊や」


 コロコロと笑って、では、と白銀もみじは一礼した。


「私はあちらの方へと行きますね。なんだかたのしそうな気配を感じますから。失礼します」


 言うなりふわりと浮き上がって去って行くのを、呆然と見送る俺ら。


「……飛行魔法、疾でも出来ねえっつってたのに……」

「いや竜胆、あんなのと喧嘩とかぜってー無理だろ……」

 疾以上にやばそうなのとか、関わってたら命が幾つあっても足りないって。


 俺らはそれ以上何も言わず、お袋様達の下へと帰った。


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