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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第7章 魔王襲撃なんておっかないから帰りたい
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逃げられたと思ったら出会ってしまいました

 避難は思いの外順調で、なんとなーく着いていくだけでオッケーという素晴らしい状況。いやマジで、普段からこんな感じで楽出来れば良いのに。


「瑠依がいるのに順調に進む……」

「なあ竜胆、それどゆこと?」


 不可解そうな竜胆の呟きにツッコミ。俺の認識おかしくね?


「にしても……随分誘導の手際が良いな。通る道が綺麗に舗装されてるしよ」

「あっという間に綺麗になったもんなあ」


 道路を見回しながら頷き合う。穴ぼこだらけだったのが数分やそこらで綺麗さっぱり、工事したてのようになるってんだから、すげえ。


「母さんも気にしてない感じだけど……どこ行くんだろうなー、これ」

「街外れじゃねえのか? 街規模の襲撃なら、人がいない方が何をするにもやりやすいだろ」

「……確かに」


 大がかりな術をするなら、一般人がいるとものっそいやりにくいだろう。24時間コンビニ店員とか、夜中でも外を出歩く人間は、現代じゃ珍しくない。そんななか呪文という名の怪しげな独り言やら符や魔法陣という名の落書きやらを好き勝手出来るかっていえば、そりゃ通報されるもんな。


 首を伸ばして、何となく方角を確認してみると、多分この感じは東の山へ向かってるっぽい。そう告げると、竜胆も同意するように頷いた。


「あっちの方は一番臭いが薄い。多分、気の逃げ道なんだろうな」

「ぅえ?」

「……瘴気が淀まず、外へと流れでやすい土地ってこった」

「へー」

「瑠依……もうちっと勉強してくれ」

「だが断る」


 学校の勉強だけでもめんどいのに、何が悲しくて鬼狩りの勉強しなきゃならんのかと。(物好き)竜胆(生き字引)がいるんだし。


「ったく……」

 ぶつくさ言う竜胆とテキトーに言い合ってた俺は、ふとなんとなく気になって背後を振り返った。

「どうした、瑠依?」

「んー……?」


 なんだろ、なんか引っかかる。足が止まりそうになった俺を、竜胆が背中を押して促した。


「足は止めるな、瑠依。……何が気になった?」

「なんだろ、わっかんね」


 もやもやした感じが気持ち悪いけど、流石にその為に寄り道するのもマズイな。お袋様はわき目も振らずに歩き続けてるし、はぐれるのはよろしくない。……俺のスマホ、まだ壊れたままだし。


「ま、いっか。はっきり分からないし、大した事じゃないと思うぞ、多分」

「多分って……あのなあ瑠依、異能者の勘ってのは結構当たるんだから」

「俺の勘が当たった時って大体疾にどつき倒される時だけど、それでも気になるか?」

「……成る程、瑠依の勘が当たるっつうのは、碌でもないもんを引き当てるって事か」

「言われよう!?」


 おおよそ間違ってない気もするけど納得いかない! 確かに予感がする場所は回避した方が良いような経験則があるけども!!


「おら、もうすぐ山の麓だ。急ぐぞ」

「うぇーい……」

 竜胆に促されて、俺は歩く足を速めた。



 ──後から思い返して、思う。


 多分この場合、勘に従って寄り道した方が良かったんだろうなって。

 確実にこの日のオフトゥンは遠のいただろうけど、近くの幸せに拘って先のデカい不幸を拾っちまったというか、そんな感じ。


 竜胆にも言われた……「あの時の勘、無視しなきゃ良かったな」ってさ。




***




 ともあれ、何事もなく町外れまで避難しきった俺らは、そのまま隣街の入口まで誘導された。──そして。


 トサッ。


 軽い音が続いて、お袋様が唐突に倒れる。

「え、ちょ母さん……って、は?」

 驚くのはまだ早い。俺らの周りの、ぞろぞろと避難してた連中が、揃いも揃ってひっくり返ったのだ。


「な……何事?」

「……っ、瑠依、呪術具」


 竜胆が臨戦態勢で構える。わたわたと指示に従いつつお袋様の様子を伺うと、なんだか健やかに寝息をたてていた。


「……」


 何それ羨ましい。


「……おい」


 いそいそと横に倣えで寝入ろうとした俺に、低い低い声が突き刺さる。見上げると、竜胆がそれはもう冷たい目で見下ろしていた。


「良いか、竜胆。ここでの普通は、お袋様のように眠ることらしい。てことはだ、俺らも避難に誘導された以上、一緒に眠るのが一番確実だろ」

「屁理屈は良いから、起きろ」

「えー……」


 有無を言わさない口調に、ちょっとぐだりながらも起き上がる。竜胆の手がグーに握られてたからとかそんな事ない。おかんがおっかない。


「で、これはどういう術だ?」

「え、俺に聞くの?」

「呪術で調べろよ」

「えー……」


 面倒くさいなーと思いながらも、渋々血文字を操る。しばらくこの辺り一帯の探索をかけてみると、やっぱし眠らせる暗示みたいだ。


「眠って貰った方が簡単って事かな? いいなー、俺も寝たい」

「俺らが効かないのは?」

「なんか一定以上の力持ってると効かないんじゃね?」


 そこまで強い暗示じゃないし、術が操れるくらい強ければ眠らないっぽい。眠れるのが羨ましい、神力じゃま。


「邪魔って……はあ、なんでこれが俺の主……」

「うわひっで」

 いくらなんでも「これ」扱いは酷いと思います。


 そんな反論をしつつ、にしてもこの暗示を用意した人って誰なんだろうなーとか思っていた、その時。


「──!?」

 竜胆が大きく肩を跳ねさせた。


「竜胆?」

「っ……この、気配」


 竜胆が顔色を変えて辺りを見回している。え、何、竜胆がこんなに表情変えたのって、四神が襲ってきた時以来じゃね?

 ……そんなやばいのが近くにいるって事?


「え、なにそれ帰りたい」

「冗談言ってる場合かよ。……まずいな、これ」


 竜胆が緊張した表情で周囲を見回す。そして、何かを決めたように1つ頷いた。


「移動するぞ、瑠依。ここで「これ」と衝突するのはまずい……菫さん達を巻き込んじまう」

「……何事もなかったように寝るというのは」

「ボケかましてる場合じゃねえんだよ」


 ぐいっと首根っこ掴まれて、担ぎ上げられる。そのまま一気に飛び上がると、竜胆は一目散に街へと走り始めた。方角は……ちょい北寄り。


「うっそだろ折角避難したのに!?」

「白蟻とは別件だが、これは無視できねえんだっつの!」

「だから何を!?」

「それは──」



「──あら」



 可憐な声が、夜闇から響いた。



「随分珍しい方々ですね。久しぶりに見ました」



 美しくて、穏やかなのに……どこか、怪しげな響き。



「……そっちから来るとはな」

「ふふ。好戦的な気配を感じて、つい」


 竜胆が唸るような声を出すと、綺麗な声の主は笑い声を漏らした。ぴりっと、空気が痺れる。


 竜胆の腕が緩み、ずり下がるように解放された。やれやれ何事、と振り返った俺が目にしたのは──夜色の髪の毛が綺麗な、女の子。

 髪も目も夜色の、とても端整な顔立ちをした女の子。穏やかに微笑んでいるのに、どこか薄ら寒い気配を漂わせてる。


「え。どちら様……?」

 思わず声が震えた。何だろこの子、超おっかない。俺の帰りたいセンサーが全力で逃げろと言ってる。


「私は、雑貨屋WINGの店員の、白銀もみじです」

 にこりと笑って、少女は自己紹介をする。どこか悪戯げに、こう続けた。



「ですが貴方がた鬼狩りには、こう名乗るべきでしょうか──貴方達とは浅からぬ縁を持った、吸血鬼です、と」



今回出て来た女の子は、山大様に許可を得てお借りしております。

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