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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第7章 魔王襲撃なんておっかないから帰りたい
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なんかすげーことになりました

 たらふく食べてうんざりするくらい勉強させられて、テンション高めの常葉を迎えに来た父さんに納品。やれやれやっとオフトゥンだと潜り込んでしばらく堪能してた俺は、いつの間にかそのまま寝オチしてたらしい。


 乱暴に揺さぶられる感触に、低く呻いた。


「う〜……後5分……」

「寝惚けてる場合じゃねえ! 瑠依、起きろ!」

 緊迫した声に、ぱちりと目を開ける。そろりと視線を向けると、既に着替えた竜胆さんが目に入った。


 直ぐに布団を頭から被り、籠城。


「だが断る! ヤダ! お仕事お断り!!」

「いちいち確認して潜り直すな……じゃなくて! んな場合じゃねえんだよ、良いから起きろ!」


 ガチで怒鳴ってくる声に、なんか変だぞと気付いて顔だけ覗かせる。竜胆が緊張した顔で俺を見下ろしてて、すげーやな予感。


「……なにごと?」

「窓の外、見てみろ」


 顎でしゃくって促され、しぶしぶとお布団から這い出る。これで鬼が家の前にいますーとかだったら、マメ投げて寝るよ俺。


「何だよ、いった……い……」

 けど、のろのろと窓の外を覗いた俺は、たらたらと漏れた文句も忘れて絶句した。


 ──道路が、真っ白だ。


「……は?」


 白くうぞうぞと動くもので埋め尽くされたアスファルトの道路は、あちこち欠けて穴ぼこだらけだった。道路だけじゃなく、街路樹や電柱、標識などにも白いものがみっしりとひっついてる。


 ぱちぱちと瞬いて、目を擦る。おかしいな、俺の目なんか変じゃね?


「竜胆、俺ちょっと眼科行くべきかもしんね」

「そう言いてえのも分かるけど、んな場合じゃねえぞ」

 頭をべしっと叩かれる。かっくんと揺れながら、俺は改めて窓の外を確認した。


 ……うん、間違いない。明らかに街路に、白い蟻が蔓延ってた。しかも特大サイズがうじゃうじゃと、街を食ってるときた。


「きしょいわ!」

 何あれどういう事!? 意味分かんないよどこの世紀末!?


「竜胆、これ何なの!?」

「俺も分かんねえっつの。異様な臭いが一気に充満したと思ったらこの様だ。こいつら、どこから湧いて出てきたんだ……?」


 警戒しながら窓の外を窺う竜胆。成る程、竜胆が分かんないなら俺に分かるわけないな。よし寝よう。


「…………瑠依。流石に今寝たらそのままお陀仏だぞ?」

「え、でも今無事じゃん」

「いや、俺が外に放り出すから」

「殺さないで!?」


 竜胆の容赦なさがどんどん疾に似てきている! ゆゆしき事態!


「でも、なんで無事なんだ?」

「今それかよ……。どうも、家屋に結界が張り巡らされてるみたいだな。街中こうなってんなら、かなりの実力者だぞ」

「すげー」


 街中の建物に結界張るとか、しんどいから絶対やだよ? 普通帰るだろ?


「あ、でもてことは、街の術者が動いてるんだよな?」

「だな。疾からも連絡ねえし」

「よっしゃ寝よう!」

「寝るなよ!」


 オフトゥンしようとする俺を竜胆が引き戻す。何だよ、俺悪くない!


「考えても見ろ竜胆! 折角鬼狩りじゃねえ案件かつ、既に術者の皆様が頑張ってくれてるんだぞ! ここ最近まともに帰れてない俺らがすることは唯一つ! 帰ることだ!」

「場合によってはこのまま隠れてるだけじゃ危ねえだろが! 危機感ねえにも程があるぞ!?」

「伊巻家は悪運だけは強いから大丈夫!」

「どんな自信だ馬鹿!」


 ごっちん、と拳固をおとされた。いって、久々に星が散った。


「とにかく! しばらくは様子を見るぞ。……この家で戦えるのは瑠依だけだろ」

「う……」


 くそう、反論出来ない。

 仕方なく俺は竜胆と一緒に、窓の外をいやいや眺めて様子見を続けた。……何が悲しくて白蟻が街を食ってるのをじーっと見なきゃなんないんだろうな、帰りたい。



***



 様子を見る事しばし。お菓子の貯蔵を一袋ほど開けて──竜胆おかんの目がめっちゃ冷たかった、何でだ──、状況が動いた。


「あれ?」

「何だ……白蟻が、消えてく?」


 波が引くように白蟻がすーっとどこかへ移動していく。一直線にわき目振らず移動していく様が、なんつーか超不自然。


「んー……なんか、変な臭いがするような……」

「臭い?」

「何だろうなこれ……龍族のような鬼族のような……でも人間っぽい感じもする」

「なんじゃそら」


 そんな訳の分かんない生き物がいるの? 何それどんな人外魔境?


「うちの街にそんな変な生き物いないと思うぞー」

「いや、それ言ったらこの白蟻どうなんだよ。……ま、いいか。それより問題は、ここからどうするか、だな」

「ん?」

「見ろ」


 竜胆が視線で示した先、道路が次々と補整されていく。……何故か、めっちゃ柄の悪そうなヤクザ面のおっちゃん達によって。


「うっわ、関わりたくねえ」

「街の術者ってあんなんだったか?」

「んにゃ、どっちかっつーとお上品な感じ」


 ヤクザとかリアルにいるのな、そっちの方がびっくりだし。いまいちこないだ見たおっかない術者勢とは雰囲気が違う気がする。


「まーでも道路直してくれるのはありがたいよな、ついでに白蟻もなんとかしてくれそうな感じだし」

「まあな……なんだ?」

 俺の言葉に同意した竜胆が、何かに気付いたような声を上げた。続いて俺も、目の前の光景にぎょっとする。


 真夜中だってのに、次から次へと家から人々が出てくる。こんな夜中に家を出る事への不安感なんて欠片も感じさせない足取りで、だ。


「……なにこれ」

「まるでいつも通りに家を出るって感じだな……幻術か?」

「マジでおっかない……」


 操られるでもなく、ごくごく自然に誘導していくとかどんな高等技術だよ。何? 実はこの街、疾クラスの人外がわんさかいるとか?


「……流石に街の術者がこれで、疾が毒舌吐かねえよな?」

「……多分? てか、いたらこないだも、もうちょっと色々話進みそうだよな」

 竜胆と言い合いながら、顔を見合わせる。うん、俺らの考えるとこはそこじゃないよな。


「で、逃げる?」

「……だな。菫さんも心配だし」

「!?」


 おかんが逃げて良いって言った! おかんが逃げて良いって言った!!


「マジで!」

「……鬼の仕業ならともかく、この規模の妖の襲撃だってなら俺らの手に余る。それに、疾が術者と不干渉って決めたばっかだしな。下手に首突っ込んでややこしいことになるより、誘導に従った方がいいだろ、ここは」

「よっしゃ!」


 ガッツポーズしちゃうぞ、オフトゥン置いてくのは抵抗あるけど。


「……はあ。取り敢えず下りるぞ。一応呪術具は護身代わりに持ってけよ」

「おう!」

 うきうきと荷物を纏めて着替えて、俺はお袋様と合流して避難一直線に歩き出した。


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