やっぱおかんには感謝してます
ひとしきり楽しくない勉強をさせられた後、お袋様に呼ばれて夕飯の時間。……ステーキっていくら何でも常葉を甘やかしすぎじゃないですかね、お袋様。
「ごめんね常葉ちゃん、うちの瑠依がいつも迷惑かけて」
「こんな美味しいステーキもらっておいて文句言いませーん! 幸せー♪」
見られないレベルに顔をだらしないものにした常葉が、肉にがっついてるのをしらっとした目で見ながら、俺は自分の分の肉を頬張った。
「……てか、ねーちゃんまで出てくるとか、母さん張り切りすぎ」
「ダメ息子が迷惑かけてるんだから、これくらい当たり前よ」
「……瑠依は、要領が悪すぎる」
「ねーちゃんと同じレベルを求められても困るっての」
100点以外取った事無いよーな人と比べられても困る、疾じゃあるまいし。……ん? ねーちゃんって実は疾みたいな人間やめてる勢?
「瑠依はサボりすぎるんだよー。もうちょっとコツコツやっておけばなんとかなるよう」
「そこで頑張ってオフトゥンが減るのは困る」
「拓君達みたいに、お布団の中でお勉強すればー?」
「オフトゥンの中ではゲームかマンガだろ!」
「瑠依?」
「ひっ」
お袋様、その冷ややかに笑うのやめて。超おっかない帰りたい。
「……じゃあ、机に向かって勉強する。私だって最低限は講義出てる」
「最低限で帰れるねーちゃん超羨ましい」
「るーいー、今の状態じゃあ大学進学なんて夢のまた夢だよー?」
「常葉ちゃんの言う通りね」
……なんてこった、俺の味方が一切いない。帰りたい。
「大学か……来年受験になんのな」
竜胆がぽつんと呟いた。耳敏く常葉が反応する。
「竜胆君はどこに進学するのー?」
「え、あ、いや、俺は考えてないよ」
「えー、なんで?」
「いや、なんでって……」
竜胆が困ったように頬をかいた。助けを求めるように俺に視線を向けてくるから、軽く頷き返す。
「どっか行けるとこ受験すればいんじゃね? 紅晴市って大学ふたつだよな?」
「おい!?」
竜胆が目を剥いたけど、え、何か変なこと言った?
「うん。付属中高持った私立の大学とー、公立の紅晴大学だね。紅晴大はかーなーりレベル高いから、瑠依には雲の上だけど」
「うっせ」
「あ、ちなみに、雛さんは紅晴大だね。しかも主席!」
「ん。でも入学式の挨拶は断った。参加義務無いものは行かない」
「あれは勿体なかったわねぇ……」
「はあ。……いや、じゃなくて」
「私立の方は学力はそこそこで済むけどー、入学金がっぽり稼いでるよー。中高から通ってると免除ぽいけど、そもそもあそこお金持ち高校だもんねー」
「あー」
そういやそんなとこあったな。お袋様がのっけから私立なしって言い切ったから、公立1本で受験させられたけども。
「とはいえ、大学は奨学金もあるからー、私も最悪はお父さんに泣きついて私立行くよー。このまま頑張ればギリ紅晴大行けそうだけどね」
「常葉ちゃんは成績が良くて羨ましいわ。瑠依にも見習って欲しいわね」
「あーあーキコエナイ!」
「いや聞けよ……つかそうじゃなくてな。俺は大学行けるわけねえだろ、瑠依」
「へ?」
いきなりぶった切るように低い声で変な事言いだした竜胆。どした、オフトゥン足りない? 勉強しすぎ?
「何故に?」
「そうだよー、瑠依よりはずっとずっと可能性あるよ?」
「そうねえ、瑠依は高卒就職も覚悟しているけれど、竜胆君ならどこか行けそう」
「ちょっと!?」
いつの間にか2年後社畜の危険がちらついてる!? 冗談じゃない18から働いて堪るか!
「いや……学費も生活費も、流石にそこまで世話になれませんよ」
「あら、別に良いのよそのくらい。瑠依がお世話になっているもの」
「割に合わなくないですか!?」
目を剥いてる竜胆に対し、お袋様、常葉、姉ちゃんが同時に首を横に振った。
「だって、この瑠依のお世話だもの」
「十分すぎるくらい大変だよねー。竜胆君、すっごい面倒見良いし、鬼狩りの仕事でも迷惑かけてそうだし」
「ん。どう考えても、逆に割に合わない」
「理不尽!!」
何故俺がそこまでボロカス言われなきゃならないの!? そりゃ竜胆は超面倒見の良いおかんだけども!
「いや、でも」
「それに、何度も言っているけど、お母さんで良いのよ? こんな良い子がうちの子になってくれるなら大歓迎だわ」
「……何なら瑠依と取り替えで」
「姉ちゃん!?」
しれっと勘当されそうになってる! 扱い酷すぎね!?
「あ、じゃあじゃあウチに来る!? 私のお兄ちゃんやってくれるなら大歓迎♪」
「お前身内を言い訳にセクハラしまくる気だろ!? 却下!」
手をわきわきさせて妄想すんじゃねえ変態!
「いやあの、それはちょっと……」
「えー」
流石の竜胆も身の危険を感じたのか、たじたじとお断り。残念そうな変態は無視して、竜胆にきりっと向き直る。
「とゆーわけだ竜胆。我が家的には普通に問題ねえし、進学考えてみれば?」
「…………」
竜胆が頭を抱えた。諦めろよ、うち親父様もこんな感じだぜ。
「何考えてんだか……」
「帰りたい欲求さえあれば人類みな家族!」
「ねえよんなもん!?」
そんなまさか、冗談は要らないぞ竜胆? ホラ今帰りたい気分だろ?