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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第1章 鬼を狩るより帰りたい
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男には引き下がれない時があるのです

 倒した後は、報告へ。

 お仕事完了を局に報告すべく、俺達は冥府と繋がっているポイント目指して歩いていた。……あるんだよ、あちこちに。


「ねーむーいー」

「本当にな。おい竜胆、いつも思うんだが、直後に報告行く必要あるのか?」

 気怠げな疾の問いかけに、竜胆が溜息をついた。

「あのなあ……鬼狩りの安否確認、街の安全把握。その他手続き諸々、局の義務なんだよ。そりゃなるべく早く報告しなきゃなんねえだろ」

「今時口頭報告ってのが怠い」

「冥府まで直に繋がる連絡手段なんか、あって嬉しいか?」

「文字通りあの世からの連絡か、滑稽だな」

 疾が皮肉げに口元を歪める。軽く笑う竜胆とは対称的に、俺は思わずツッコミに回った。

「滑稽どころか怖いって。何そのリアル着信○リ、夜寝れなくなるからやめろよな」

「何か言ったか、夜眠れなくなる恐怖を提供する側である呪術師の端くれ」

「俺は応用として扱われる方の呪術が得意だから良いんだよ! 王道の呪術使えない呪術師だぞ、どーだ恐れ入ったか!」

「お前の脳みそ終了ぶりには恐れ入るがな。もうすぐまた赤点追試補講の日々か? 自ら睡眠時間を削って追い込む被虐趣味は、俺には理解出来ねえな」


 鼻で笑われた俺は、その超ド級の爆弾にあんぐりと口を開ける。


「……え、何? もう定期? 俺終了のお知らせ?」

「あと1週間で死ぬのか、短い人生だな」

「やめろよフラグ立てるの!?」

 ぎゃあと悲鳴を上げた俺に、首を傾げた竜胆が会話に入ってきた。

「なあ、ていきって何だ?」


 途端、疾が半眼を向けてくる。俺はさっと目を逸らした。


「おい馬鹿。お前が幾ら墓穴を掘ろうがアホやらかそうが構わんが、せめて竜胆がつつがなく学生生活を送れるよう最低限の配慮くらいしろ、ボケ」

「……その辺は疾にお任せしたいなーとか思ったり——」

「竜胆、明日からこのアホ起こさなくて構わねえぞ。遅刻回数だけで留年という高校史上最大級に恥ずかしい記録を残すまで放置してやれ」

「了解」

「ごめんなさいすみませんどうか俺が悪かったのでお許しを」


 その場で90度に腰を折り曲げて懇願すると、竜胆がまた深い溜息を漏らした。


「もうさ、情けねえんだけど。これでも俺、局随一の強化体とか言われてんだぜ? 何が悲しくて疾の喧嘩の獲得品扱いで、瑠依のお守りなんかしてんだよ……」

 情けない声を出して頭を抱える竜胆に、俺は頭を上げてびしっと言う。

「はい竜胆、禁止ワード!」

「……そんなトコだけ拘るなッつの。契約者を指す使用者ユーザも強化体も、局じゃ当たり前に使われてるんだぞ?」

「拘るし。どっちもアウトだってば、なあ疾も思うだろ?」


 疾を振り返って同意を求めたら、綺麗に無視されて竜胆に向き直られました。


「定期ってのは、定期試験の事。数ヶ月に1度、授業に出て来た範囲の習熟度を測る為に行う筆記試験だ。来週から始まるし、範囲も掲示板に貼ってあるから、確認しておけ」

「待て! それ、俺どうすりゃ良いんだよ!?」

 途端青醒めて詰め寄る竜胆を押しのけ、疾はしれっと宣う。

「勉強しろ。ちなみに40点以下を赤点と呼び、追試や補講が義務だからな。勿論説教のオプション付きだぜ、せいぜい頑張れよ」

「無理に決まってるだろ! 高校編入、疾の魔術がなきゃ出来なかったからな!?」


 竜胆が俺以上に顔色悪く喚くのも無理はない。竜胆が今高校に通ってるのは、かなりの特別措置だ。

 ……特別扱いの理由が、「サボり魔の監視要員にしろ」という驚きの要求だけどな。疾が言い出した時、俺と竜胆は唖然とした。局長と俺の家族は真顔で頷いた。ひでえ。


 え、そんな無茶が押し通った理由? 疾がやらかしましたが、何か?


 まあ、それはそれとして。今まで冥府で訓練してるか、契約した鬼狩りとの仕事に専念してるかだった竜胆に、いきなり高校編入は無理だ。最初は読み書きと足し算引き算で精一杯だったんだからな。

 そこから勉強するのは流石に無謀ってんで、疾が力業を使った。まさかの魔術で知識を焼き付けるという恐怖。……羨ましい、俺にもやってほしい。

 お陰で竜胆は編入試験をパスしたんだけど、元々勉強なんて無理って思い込みがあるようで、試験という言葉そのものに苦手意識があるらしい。お仲間。


「大体、勉強ってどうやるんだよ?」

「それな!」


 思わず大きく頷いた俺に、2人の視線が突き刺さった。


「……おい、幾らアホ高とは言え、お前どうやって入った。コネか、金か」

「俺、瑠依と同じレベルかぁ……凹む」

「ひっで! 普通に受験して受かったよ!」

「なるほど、お前運だけは強いからな」

 俺の抗議をその一言で片付けて、疾は竜胆にまた視線を戻す。


「つうか竜胆、局で妖の知識とか叩き込まれたっつってたろ。同じように教科書やノート読んで覚えるだけだぜ。そもそも基礎知識は入れてあるんだから、何とかなるだろ」

「うぇえ……授業も何言ってるか今ひとつわかんねーのに……」

「後、そこのアホに同意するのも何だが、強化体だの使用者だのって扱いは俺も嫌いだ。その単語を聞くと局で竜胆を担当してる奴をぶちのめしたくなるからやめておけ」


 さらっと話を戻した疾に、思わず親指を立ててみせる。グッジョブは無視された。


「……ヘンな奴ら」

 そんな俺達を見た竜胆が、淡く苦笑する。疾が涼しい顔で返す。

「ま、だからといって主と呼ばせて悦に入ってるそいつは、変態だがな」

 疾の聞き捨てならない言葉に、バッ! と割って入った。

「今変態って言ったか!」

「何だ難聴か? 変態を変態と言って何が悪い」

 せせら笑う疾に、びしっと指を突き付けた。


「撤回しろ! 俺は、断じて、変態ではないっ! その不名誉極まりない評価は、今直ぐ完膚無きまでに撤回を要求する!」


「おお、瑠依が熱い」

「暑苦しいの間違いだな。考えても見ろ、現代において「主」なんてガチで呼ばせてる人間なんざいねえぞ? しかもそれを高校生がとか、痛いにも程がある」

 俺と温度差のありすぎるやり取りをしていた竜胆が、疾の言葉に目を見張る。

「え、そうなのか?」

「だって他に言い様がねえじゃん!? 契約を他にどう言い表すんだよ!?」

「ただの契約者でいいだろ。後は相棒とか」

「あ、それは俺が拒否った」

「なんだ、拒絶されたのか」

「言い方!」


 喚いたらまた鼻で笑われた。ええい、腹の立つ顔……ッ!


「お前のアホ振りと変態度合いに関して、疑う余地はない。俺の認識を変える程の根拠を提示出来るもんなら、やってみやがれ」

 大上段から売られた喧嘩に、俺は腕をまくって高値で買い取った。

「やってやろーじゃん! 見てろよ、今日こそ目にもの見せてやらあ! 行くぞ竜胆!」

「まーた殴り合いかよ。しかも何、俺も巻き込まれんのか」

「ハンデでもねえと勝負にならないだろうが」 

 不遜な言葉に、気乗りしない表情だった竜胆が目を眇める。

「……なんつーか、後輩にそこまで言われて引き下がるのは趣味じゃねーわ」

「おう、かかってきやがれ」


 顎を持ち上げて言い切った疾に、俺は呪術具を取りだし、竜胆は拳を握って地面を蹴った。


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