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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第6章 異能事情とかどーでもいいから帰りたい
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とりあえず、ペット扱いが決まりました

「……で?」


 局から帰る道の途中で、竜胆が疾に声をかけた。疾が肩越しに振り返る。


「何だ?」

「結局、どういう結論になったんだ?」

「さっき言ったろ」

「そりゃ言伝であって結論じゃねえだろ」


 疾が肩をすくめて小さく笑った。


「竜胆、なかなか頭が回るようになったじゃねえか」

「茶化して誤魔化そうとすんなっての。俺らも無関係じゃねえだろ」


 竜胆が軽く睨むと、疾はまた肩をすくめる。ふと笑みを消すと、深々と溜息をついた。口元がへの字に曲がる。


「……強制解除の方法はあるが、この土地に必要なんだろうからしねえ。他にもぐだぐだ言ってたが、つまるところは丁度良いからそのままここに留まっとけと。ぶん殴りてえ」

「……おう」


 何だろう。疾がこんな素直に命令に従ってるって、背中がぞわぞわする。


「とはいえ、連中の扱いは俺に任されてるからな。面倒なことは全部無視で行く」

「そう上手く行くと良いけどな」


 竜胆が心配そうに疾を見てるけど、当の疾さんはしれっとした顔で出口を潜るなり言った。


「取り敢えず、そのでかい図体が目障り。俺はてめえらを付き従える気はねえんだよ、それぞれ勝手に四方を守護してろ」


『そんな!? あるじ!』

「主言うな」


 思い切り詰め寄ってくる朱雀をげしっと足でどける疾。……神様の扱いがひでえ。


『主……我々は確かに四方の守護獣ですが、契約を交わした以上、主の僕でもございます。それぞれの地を守るだけというわけにはいきますまい』

「知るか蛇。そもそも俺は同意してねえんだから、主呼ばわりすんな。あと、こんなでっかいのを連れて回れる訳ねえだろうが。この街には異形が視える人間だっている」


 青龍の反論もバッサリ切り捨て、すたすたと歩き出す。慌てたように追いかけてくる四神……なんかもう、変な光景なのに何も感じないんですけど。


「ま、かといって名前呼ぶの許可する気もねえけどな」

 さらっと付け足してさくさく歩いて行く疾に、白虎は慌てたように回り込んだ。


『主! 我々とて意味も無く強引に契約を行ったわけではないのです』

「主じゃねえ。理由について語んなよ、どのみち俺は無関係を通す気でいるしな」

『そういうわけには──』

「どけ虎、邪魔」

「……せめて名前何とかすれば?」


 虎とか蛇とか、挙げ句に焼き鳥って。なんかこう、もうちょい俺らの良心に優しい呼び方をさ?


 と、帰りたいのにうっかり口出しした俺に、視線がざっくざっくと突き刺さった。


「……馬鹿にも分かるように言っておくが、この状況で俺がこいつらの正式な「名」を呼べば、契約が相互のものとして確立するんだよ。呼べるかボケ」

「う……じゃあ、取り敢えずなんかこう……?」


 ぐるっと見回すも、視界を塞ぐ勢いの四神に言葉が萎んだ。うん、まあ、難しいよな。ペットに付けるように名前付けるとか、抵抗あるけども。


 なんかこのままだと俺らまで帰れない予感がひしひしするから、さくっと話しすませてもらいたいっていう。


「……」


 微妙に疾が面倒臭そうな顔をして、溜息をついた。まさか疾も帰りたいの、と思うより先、疾らしい答えが飛び出てきた。


「赤青黒白」


「待って、それただの色!」

「おま、疾それはねえだろ!」


 2人がかりで駄目出しする。いやだってそうじゃん、それはいくら何でも捻りが無い以前の問題! ただの色!


「つか、それだと色関連の話しするだけで呼ばれた形になるだろ!」

「……じゃあセキ、セイ、ハク、コクで。これならそうそう発音しねえし」


 この上なく適当なペットの名付け的なものを見ちまった感が凄い。


「つーわけで、セキ」

『は、はい!』


 それでも名前をもらったってだけで嬉しいのか、朱雀改めセキの声が弾む。が、当然上げて叩き落とすのが疾というお人なわけであって。


「お前らにどういった事情があろうがこの街がそのせいで沈もうが、俺は心底どーでもいいし、良心の呵責一つ感じねえ。よって耳を傾ける気も無い上に、そのでっかい図体が鬱陶しいばかりだ。とっとと全員失せろ」


『主!』

「主じゃねえって話をたった今しただろうが」

『ち、小さくなりますから!』

「は?」


 言葉と同時に、四神の体が淡く光った。何、変身でもするの? 



 ぽてっ。



 そんな音と共に、地面に何か落ちた。……いやなにか、というか。


「……は?」

 いや本当、は? だわ。何これ。


 今俺らの目の前でもぞもぞと動いてるのは、とてもじゃねえけどさっきまでの威厳ある姿が想像も出来ないちっこい動物です。



 燃え上がる美しい鳥は、赤い羽根のセキセイインコに。


 力強い四肢を持つ白い虎は、ふっかふかの白いネコに。


 四肢に蛇を絡ませた亀は、ふつーのリクガメに。


 トドメに、青い鱗の龍……なにこれ? なんかぬめっとしたトカゲ?



「……セキセイインコにヤマネコに、リクガメに……ウーパールーパーって……すげー……」

 唖然として竜胆が呟く。へー、あれがウーパールーパーかぁ初めて見た……って。


「何故そうなる……?」

 流石の疾にも理解出来なかったらしい。半ば呆然と呟くと、四神(小)は胸を張った。


『大きさが問題なのでしたら、小さな獣に化ければ良い話です!』

『時折、守護地の見回りの際、ひと目についても問題のないようにと変化を覚えたのですよ』

『これなら主の側にいてもおかしくないでしょう?』

「変だろ阿呆」


 だよな。俺もそう思う。


「つーか、てめえらそのサイズになれるなら、変化いらねえだろ。元の姿のまま小さくなって、見鬼にも見えないレベルまで隠形すりゃいいだけじゃねえか」

『……あ』

『……言われてみれば』


 …………うん、なんだろ。俺、こいつらに一気に親近感が湧いた。


「……馬鹿が更に4匹も増えた……」

「疾、何で俺見て言うの?」

「鏡見ろ」

「どゆこと!?」


 俺の扱い!


『と、とにかく! 我々はこの姿で、主の家に付いていきますから!』

「却下。邪魔。うちペット禁止。つーか俺がペットとか嫌い」

『主ぃ』


 そろそろセキセイインコさんが泣きそうです。ヤマネコさんも尻尾が丸まってるし。


 てか、疾も段々扱い雑になってきてるなー……。帰りたいのか、そりゃ帰りたいよな。


「あー、疾?」

「この件に於いて竜胆の意見を聞こうとはおもわねえぞ」

「……いや、うん。実際意見言うつもりだけどな」


 出鼻を挫かれて竜胆が鼻白むも、めげずに食い下がった。すげえ。


「流石に契約しちまった以上、一定の関わりは欠かせねえぞ。契約ってのはそういうもんだ」

「……」


 疾が眉を寄せた。眇められた琥珀の目に睨まれながらも、竜胆は怯まず続ける。


「監督責任もある。いくら何でも四神が引き起こした災害を無関係では通せねえぞ。連れ回すかどうかは任せるけどな、家でペット代わりに匿うくらいは必要だと思うぞ」


「……エサ代寄越せ」

「え、俺に集られても」

『主! 我々は本当に動物なわけではありませんから! 地脈から魔力は供給されておりますから! 食事は不要ですからぁ!』


 本格的なペット扱いについに涙目になったインコが叫んで、ぱたぱたと空を飛んだ。そのまま疾の肩に止まった……なんつー度胸、俺尊敬する。


 ものすっげえ嫌そうな顔になった疾が、いかにも渋々と言った口調で答えた。


「はあ……普段の俺の動きに口出しすんな、仕事の邪魔するな、ついて回るな。後細かい指示は追々出すが、従えよ」


『! はい!』


 嬉しそうな声。…………というか、うっそだろ。


 疾が折れた!!??


竜胆おかんが神がかってる……」

「どういう意味だコラ」


 どつかれたけど、俺間違ってない。疾説得した竜胆は、ぜったいおかんだ。


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