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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第6章 異能事情とかどーでもいいから帰りたい
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どうやら大問題だったようです

「──で?」


 冷ややかなオッドアイを、いつもより更に冷ややかにしたフレア様。怒りモードを通り越したナニカへと到達した彼女は、既にライフル銃の銃口を突き付けていた。……俺に。


「説明してもらおうかしら。貴方の相棒が、一体、何を、しでかしたのか」

「理不尽!?」


 何で当事者じゃない俺が全力で責められてるんだ帰りたい!!



 あの後。

 どうにもこうにもならない事に、既に契約は完成してたらしい。といっても、疾が知らない主じゃない断固拒否の姿勢を貫き通したから、一方通行の契約、らしいけども。


「そもそも一方通行の契約って何かしら。何なの、貴方の相棒。契約舐めてるの?」

「それに関しては一切の弁護の言葉を持たないけども! 俺にどうしろと帰らせて!?」


 俺のせいじゃないって言ってるじゃん!? というかなんでこんなブチ切れてるのかわけわかんないし俺関係無いから帰らせてってば!!


「というか別にいいじゃん契約したって俺ら関係無いじゃん! 鬼狩りとして問題あるわけじゃないだろもうオフトゥンさせて!!」



 魂の叫びが局長室に響き渡った。木霊すら聞こえてきそうな勢い……あれ、何この沈黙?



「……ツェーン」

「なんすか」


 ようやっとフレア様が口を開いたと思ったら、竜胆に話しかける。今まで黙っていた竜胆が、素っ気なく相槌を打った。


「この子、理解してないの? 貴方、後輩の指導も満足に出来ないのかしら」

「理解してねえっつかそもそも勉強する気ねえすからね。つか、俺は瑠依との契約事項に「鬼狩りとしての指導」なんて入ってた覚えもない」


 ……漂う空気が冷ややかすぎる。普段の面倒見の良いおかん、どこ行った。マジで、ここ俺の居て良い場所じゃないな、よし帰ろう。


「何を帰ろうとしてるの、瑠依? 貴方の不勉強が問題なのよ?」

「……瑠依、局長と合わせる気はねえけど、他人事じゃねえからな」

「何でさ!?」


 俺に何の関係があるって言うの!?


「疾が何やらかそうが今更だろ!? あのリアル悪魔が一つや二つわけわかんねえ事したとこで驚く意味とか無いじゃん!?」

「言いてえ事は分かるけど、そうはいかねえの」

「というか、悪魔扱いなの? 疾って」


 フレア様のツッコミをかんっぺきにスルーして、竜胆の解説が始まった。


「いーか、瑠依。四神ってのは、土地の守護獣な訳だ」

「おう」

「でな? 言ってたろ、自分達が仕える神に対して不敬云々って」

「……言ってたっけ?」


 首を捻ると、竜胆が深々と溜息をついた。なんだよ、竜胆も帰りたいんじゃないか。


「まあ、取り敢えず言ってたんだよ。つまりな、あいつらは多分、土地神の眷属なんだよ」

「土地神? 眷属?」

「そこからか……」

「瑠依……貴方本当に勉強していないのね」


 額を押さえて竜胆がぼやく。フレア様まで怒りが薄れて、その分呆れが滲み始めた。


 何だよ! そんな知識、現代っ子の常識じゃねえじゃん!


「土地神は、まんま土地を統べる神様。つっても顕現することは滅多にないとも、一部の人間にだけ姿を見せて指示を与えるとも言われてる。少なくとも、自ら土地のいざこざに首を突っ込むような事は基本しねえ」

「ふーん」


 神様の話とかぴんとこないけど、なんか面倒臭そうだなー。


「で、眷属ってのは……神様以外でも上位の妖とか、そういう奴が従えてる妖や式神だ。まあ、四神を眷属に出来るのなんか、神様でもめちゃくちゃ位の高い神様ばかりだろ」

「へー……あ、そうだ。神様とカミって言い分けてるのは何なの?」


 微妙に発音違うし、様付けじゃないから気になってたんだよな。


「あー、感覚的なものだから難しいんだけどな。全部ひっくるめてカミ、その中でも位の高いのが神様っつー感じ」

「位が高いってなんぞや……」

「滅茶苦茶簡単に片付けると、人型取れるカミは大体神様だな」


「雑な説明ねえ」


 フレア様の冷ややかな声。振り返ると、口元にひんやりとした笑みを浮かべて、竜胆を小馬鹿にする目を向けていた。……何で挑発するんですかね。


 対して竜胆はちらとも見ずに、全スルーで俺に説明を続けた。


「で、話を戻すぞ。今回の場合、眷属が本来守護すべき家の人間を資格なしとみなして、代わりに疾を選んだわけだろ?」

「……そーですね」


 ばっさり切り捨てた疾も疾だけど、ごり押しで無関係な人と契約した四神も四神だと思います。あれ、似たもの同士の良いコンビなんじゃね?


「で、だ。瑠依、俺らの職業と所属を言ってみろ」

「へ? そりゃ鬼狩りで、冥府直轄の鬼狩り局……ん?」


 思わず首を傾げた俺に、竜胆は溜息混じりに頷き返した。


「カミが、あの世と関わりのある人間に付き従ってちゃマズイだろ。根の国に関わる神様と、土地神みたいな神様ってのは、きっちり住み分けして境界を守ってるっつのによ」

「ねのくに?」

「……あの世の事」


 なるほどなるほど、よーやく分かった。


 つまり、疾はあの世側のお仕事してて、鬼とついでに死者に関わる。土地神や四神はこの世側の守護をしてて、生きてる人間を守ってる。


 そういや昔の研修で、あの世とこの世の住み分けは大事だぞって習った気がする。死者がこの世に溢れ出たらいろいろこの世が終わるよ、みたいな。



 つまりだ、そんなルールガン無視で、四神があの世側の人間に従っちゃった、と。



「やばくね!?」

「だから最初からそう言ってんだろ……」


 何そのガチでヤバイ状況!?


「そもそも疾が本気で回避しようとする時点でヤバイだろ」

「そうだな! 確かに滅茶苦茶やばいな! 帰りたい!!」

「へえ?」


 ジャコッ。


「仮にもペア組んでる瑠依が、責任逃れして長である私に押しつけようって言うの? いい度胸ねえ」


 フレア様のライフル、再び俺にロックオン。待って、俺悪くないってば!


「今回の場合俺も竜胆もあろうことか疾だって悪くないだろ!? ってかそもそもそれ言っちゃったら見回り命じた局長に責任出ちゃうじゃん!」


 俺は一晩中オフトゥンといちゃいちゃするっていう重要な予定があったのに!



 ……と、またもや部屋に沈黙が下りた。え、今度は何?



「…………」

 しばらく黙り込んだ後、竜胆がぼそっと呟いた。

「瑠依が正論言うの珍しいな……」

「ちょっと竜胆どういう意味!?」


「まんまだろ」


 割って入った声に、思わずばっと振り返る。ドアに寄りかかっていたのは、微妙に口元を歪ませた疾。


「竜胆レベルの術者が抵抗一つ出来なかった時点で警戒すべきだってのに、ほいほい見回りに活かせた管理不行き届き……って見方も出来るよな。実際マニュアル通りかそれ以上の対処をしたにも関わらず強行された契約だ、マニュアル作成者に責任の所在は求められかねない」


 皮肉に満ちた疾の言葉に、フレア様がライフルの引き金をぴくっとさせたのを、俺は見逃さなかった。俺そこまで言ってないのに。


「……。疾、今まであの方とお話ししていたのでしょう? 結論が出たの?」


 フレア様が奇妙な表情で尋ねる。あの方? あぁ、疾の直属の上司か。そういや、局に着いてから俺らと当たり前のように別行動だったな。


 フレア様の顔を見て、嫌みっぽい笑みを浮かべた疾が頷く。

「出なきゃ顔出すかよ。言伝だ」

「……」


 フレア様の顔が歪んだ。それを見た疾は鼻で笑い、その言葉を口にする。



「──『現状契約は強制解除しない。相互契約にするかは、本人の判断に任せる』」



「ありえない!」

 ばんっと机を叩いてフレア様が腰を浮かせた。その勢いのまま、凄い剣幕でまくし立てる。


「今回の件は本当の本当に大問題よ!? 下手すれば私達が守り続けた者が全て崩れ落ちる! それなのに、何故してやられた貴方に判断を任せると言うの!」

「そりゃ俺の判断を信頼したんだろ」


「わぁ、分かってて言っちゃうんだそれ……」

「逆撫でるなぁ……」


 乾いた声で俺と竜胆がぼそぼそ言い合ううちに、フレア様がデスクから出て来て疾につかつかと詰め寄った。……待って、それダメな奴。


「貴方一体どういうつもりなの!」

「てめえ如きに教えるかボケ。つーか決めたのは俺じゃなくて冥官だぜ? 文句なら直接言いにいったらどうだ? ま、言伝って形で伝えられてる時点で意見を言う資格なしとみなされているんだろうが」

「くっ……なら、今直ぐ契約を破棄しなさい! 命令よ!」

「はっ」


 鼻で笑って、疾が背中を向けた。


「付き合ってられるか。行くぞ」

「あ、おう」

「よっしゃ帰れるんだよな!?」

「待ちなさい!」


 帰るとなったら疾のいう事だって超聞く俺は、フレア様の制止も振り切っていそいそと逃げた。竜胆も着いてきたのはちょっと意外……いや、そういやフレア様と竜胆の仲を考えると、喧嘩にならなかっただけ御の字か。

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