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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第6章 異能事情とかどーでもいいから帰りたい
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かみさまの無茶ぶりは災厄以上らしいです

「で、どーすんだ」


 再度問いかけた疾に、火の鳥がゆっくりと頭を持ち上げた。


『……やはり』

「あ?」

 胡乱げに眉を顰めた疾は、続く言葉に今度は思い切り顔を顰めた。



『やはり、貴方こそが我々の主に、相応しい御方です』



「はぁあ?」

 素っ頓狂な声を上げ、疾が火の鳥を見返す。片目を眇め、顰めっ面のまま吐き捨てた。


「阿呆か、おとといきやがれ」


『ええ!?』

「わぁ、歪みねえ……」


 ばっさりと音まで聞こえる切り捨てっぷりたるや、相手が蹌踉めくほどだった。……てか、怪我大丈夫なんだろうか。


「てめえらは四方の守護獣……どーせ十中八九、あの「四家」どもの守護神扱いなんだろ。部外者相手に何ほざいてる」

「…………いや、そんな神様を問答無用でぶっ飛ばした方がやべえだろ」

「今更だろ、竜胆? 相手は(災厄)だぞ?」


 眉一つ動かさずに自分のやらかしたこと棚上げしてるんだぞ、今更過ぎてもう俺どうでもいいから知らん顔で帰りたい。


「あの無駄にプライドが高い連中が聞いたら泣いて喜ぶぜ。主だかなんだか知らんが、とっととあいつ等のとこ行ってこい」

『それは我々が選ぶものです!』

「あ?」

『代々四家の当主を主と定め、契約するか否かは、我々がそれぞれの目で見極めております』


 別の声が割って入ってきた。誰ぞや、と首を巡らせると、どうやら青い龍が喋ったらしい。


 ……超今更だけど、こいつらどうやって俺らの頭の中に直接話しかけてきてんだろ。器用すぎね?


『その為、全員が契約している代もあれば、誰かは契約していても誰かは契約していないという代もあります』

「で、今代は誰も契約してねえ……誰も契約に値しないと見極めた、ってか?」

『その通りで御座います』


「はははっ!」

 いきなり疾が笑い出した。

「ははっ、ははははっ! そーかよ、くくく……っ。こいつは傑作だ」


 肩を揺らして心底楽しげに笑ってるのを、黙って見てるけどさ、守護獣さん達。……とんでもなくやべー予感するの、俺だけ?


「選ばれた血筋でございってお高くとまった面構えしておいて、てめえらは肝心要の守護獣から見捨てられたって訳か。ははっ、滑稽な話じゃねえか、なぁ?」

『……見捨ててはおりませぬ。あくまで我々が守護するは各々の家と土地。ただ、契約という形で我々が自ら力を貸す相手は、我々の意志で決める。これは、古来より定められた我々の役割に御座います』

「同じだろ。それも、よりにもよって余所者に力を貸そうって訳だからな」


 にい、と邪悪な笑みを浮かべる疾さん、今度は何をするおつもりですか……?


『……契約を、結んでいただけませんか? 少なからずお役に立てるかと』

「要らん。何度も言わせるな」

『そんなっ!』


 がばっと火の鳥が詰め寄った。何か思ってたより声高いんだなーなんて眺めている間にも、必死の売り込み。


『我々をお一人で下すお力はもとより、この街の特異性を理解なさっている貴方様は、誰よりも我々の主に相応しいのに……!』

「──そもそも、だ」


 ふ、っと空気が変わった。目を細めた疾は、それはそれは冷ややかに笑う。


「何故、俺と契約を結びたがる? その特異性を理解している人間を、何の為に「守護獣との契約」という形で縛り、利用しようとしている」

『利用などと!』

「契約を結ばない代もあって、それでもこの街は存続してきた。にも関わらず、何故今、この代では、部外者に頭を下げてまでてめえらが契約したがる。それも、俺が来て直ぐではなく、1年以上経った今、俺に接触したのはどういう意図だ」

『……』

「契約がてめえらの役割だってなら、街を守護するという役割に沿って、俺に何らかの利用価値があるって事だろうが」


 鼻で笑い、疾は銃を消し去った。くるりと踵を返し、俺らの方へと歩いてくる。


「この街に愛着も執着もねえ俺が、こんな見え見えの罠に引っかかるかよ。てめえら従えて街の守護でございなんて物好きも、探せば1人や2人見つかるだろうよ。他当たれ他、俺は興味ねえ」


 そう言い捨てると、俺らの元へ戻ってきた疾は、何事もなかったように言い切った。

「行くぞ。さっさと情報集めしないと夜が明ける」

「誰のせいだったんですかねぇ……」


 いや、俺も早く帰りたいから全面的に賛成だけどな。なんか面倒そうな空気ぷんぷんだし、ここは帰って寝てまるっと忘れるに限る。


「……まぁ、無難に纏まって良かったな」


 苦笑混じりに頷く竜胆さんも、珍しく俺らのテンションに付き合ってくれるらしい。意外だ、意外すぎる。おかんがこんなあっさりと疾の鬼畜言動をスルーするとかどんな異常事態?


 思わずまじまじと竜胆を見上げると、呆れた顔をして「あとでな」と呟いた。後で説明してくれるって事? いや別に、それに時間かけるくらいなら俺は帰って寝ます。



 と、このまま撤退出来ていれば、俺のオフトゥンタイムはそう遠くは無かったんだと思うんだけども。



『お待ちください!』

『どうかお話しを……』



 必死な感じの声もガン無視でさくさくと歩いて行く俺ら──あ、今更だけど後始末いいのか? ……良いんだろうな、疾的に──の背に、何やら不穏な声が聞こえたからそうは問屋が卸さない。


『どうか……っ、ええいこうなったら!』



「……ん?」

「え?」

「あ?」

 思わず声を上げて振り返ってしまった俺らは、次の瞬間。



『──我等四方の守護獣は、此方の人間を今代の契約者と認む!』



「っち!」


 身を翻した疾が、音を置き去りにする勢いで銃弾をぶち込んだが──ふっ。と、銃弾が溶けて消える。


「はい!?」


 あの鬼を一撃でさよならするチート銃弾が消えるって何!? どんな世紀末!?


 と、ここで驚愕するのもまだ早く。



 ──ドン!



 腹に響く音と共に、遠くに光の柱が上った。柱は4本、等間隔の距離で街を囲むように……東西南北に、立ち上る。



「なっ……に」

 流石に目を剥いた疾が、何事か叫ぶより先に。



 ──ドン!



 地面が大きく鳴動した。


 鳴動は止まず、何度も何度も大きく揺れる……といっても、これ、地震じゃねえ。なんなのかは分かんないけど、俺達のような『力』を持つ人にしか分からない鳴動だ。


「う……わっ」

「っと、瑠依大丈夫か」


 すっ転びかけたのは俺だけで、あとの二人は自分でバランス取ってるけど……


「……おいおい」


 疾が、頬を引き攣らせる。


「なぁ竜胆……俺の気のせいか? ……この地脈、奴らの力が波打ってやがる」

「……気のせいだったら、良かったけどなあ」


 竜胆もまた、顔を引き攣らせていた。


「え、何? どゆこと?」

 俺だけ状況が掴めてないっぽい。説明を求めると、竜胆が顔を強張らせたままゆっくりと話してくれた。


「……瑠依。地脈にここまで強い影響を与えられるのは、土地神や、四神レベルだ。守護獣である四神が、四方から流した力で地脈を活性化させるというのは、自ら土地に干渉してるって見なせる。ここまでは分かるな?」

「えーと、うん。多分なんとか」


 あの四神が、自分から土地に関わったって事で良いんだよな。


「肝心なのはここからだ。……さっき四神は、力を貸す条件を、なんつった?」

「へ? えーと、守るのは守るけど力を貸すのは契約を結んだ時だけ……」



 ……ん?



「…………え?」


 ぐるりと、疾を振り返る。疾さんが未だに頬を引き攣らせて突っ立ってるとか、超絶レアだなーとか今そんな事はどうでも良い。



 いや、え?



「あの……疾?」

「……俺の知る限り、契約ってのは互いの名を呪で縛る、身体の一部を与える、特定の儀式をこなす、これらのうちどれかが必須でな。万が一の可能性も考えて四神の名も口にしてねえし、あっちが俺の名を呼んでないのは確認済。ついでに術的意義を持つ行動も一切とらず、明確に拒絶の言葉を吐くと言った対策も取った。……おい竜胆、説明」


 抑揚のない声で淡々と言い募る疾。何気にばっちり警戒してるその姿勢にも驚かされたけど、話を振られた竜胆の弱り切った顔のが気になる。


 ……疾を心配するのとか、竜胆レベルのおかん力がないと無理だろ。俺今ぶっちゃけ、まー疾だしなーとしか思ってないぞ。


「いや……疾より俺の方が術には疎いけど聞く限り間違いは無さそうだし、つか鬼狩りとして叩き込まれた知識的にも、疾の対応は満点なんだけど」

「ほう」


 ゆらりと、疾が体を揺らす。うっすらと口元に笑みを浮かべて、けど目はギラついた光を浮かべて……やべえ! マジ切れかけてる帰りたい!?


「じゃあ、なんで、こんな事が起こってる……?」

「俺も知りたい、けど……」


 言葉を濁した竜胆に、俺と疾の視線が集まる。竜胆はふいと顔を背けて、ボソボソと言った。



「……相手は神様だからな。力尽くで人の運命を縛るくらい、やらかすかもなあ、って……」



「成る程」

 うん、と疾が頷いて。


「やっぱあいつ等消すか」


「待て、それはまずい!」

「やめたげて!」

 銃を構えてマジ戦闘モードに入りかけた疾に、俺と竜胆は慌てて全力で止めに入った。


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