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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第6章 異能事情とかどーでもいいから帰りたい
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人外同士の戦いは意味分かんないです

「四神ってのは、古来中国から伝わる、四方を司る霊獣だ。えぇと、東の青竜、西の白虎、南の朱雀、北の玄武だったっけな。四方の番人として土地を守護するって何かで聞いた気がすっけど……俺もあんま詳しい事は知らねえ」


「朱雀門って京都になかったっけ?」

 中学の修学旅行で見た気がする。記憶をひっくり返して聞いてみると、竜胆も頷いてくれた。


「おう、その朱雀だ。……取り敢えず、何で日本の片隅(こんな街)にいるんだっつう疑問が湧くけどよ」

「それな」

 疾が四体の霊獣相手に激戦を繰り広げる中、竜胆の講釈に俺は深々と頷いた。


 何がどうなってそんな大物がこの街を守ってるっぽいのか。疾が住んでる以外、普通の平和な街だぞ?


「なー、これってなんか昼の件と関係あるの?」

「いやあ……流石に四神が『お座り』とか言いださねえだろうしなあ。まさか言霊にやられたわけもなし、関係ねえと思うけど」

「だよな?」


 俺もそう思う。


 けど、じゃあ何でタイミングが重なったんだろうなー。あと、疾あんまり驚いてないっぽいのも気になる。


「あ……けど」

「お?」

「俺にかけられた言霊を解いたの、疾だよな?」

「少なくとも俺じゃないぞ。何が起こったのかさっぱりだったし」

「…………堂々と言い切る事かよ」


 はあ、と溜息をついて、竜胆が推測を口にした。


「言霊を解除したの、神力ってだけじゃ説明つかねえ気がすんだよ」

「へ?」

「元々疾は、自前で神力持ってたわけだし……他にもいろいろよ、別物っぽいだろ?」

「……確かに?」


 銃弾一発で鬼がぐずぐずに溶けるとか、あってもらっちゃ困るチートその一だよな。主に、俺の心の平穏とお布団の為に。


「だとすると、それを察知して問題視したとか……にしてもなぁ、何で今になって」

「あいつこっち来てから1年以上経ってるよなー」


 うーん、と唸る俺らだけど、目の前ではめちゃめちゃ激しい攻防の真っ最中です。


 ……いや、現実逃避もしたくなるよ? 神話級を相手に1対4で戦ってるのが相棒()だとか、ホント帰ってお布団にくるまって全て忘れたい。


「にしても、開けた所で良かった……普通の住宅街だったらどーすんのこれ」

「……だな」

 うん、と竜胆が頷く。その視線は、焼け焦げ窪み泥だらけ亀裂だらけの地面に向けられていた。



 流石四神、攻撃の威力はマジで信じらんないレベル。離れて傍観してる俺らが、余波だけで怪我しそうだって結界張ってる時点で察して欲しい。つーか結界で余波を防いでる俺を誰か褒めて。


 空を飛ぶ火の鳥が燃え盛る羽根を雨あられと降り注げば、地面は焼け焦げの穴ぼこだらけ。


 同じく空を飛ぶ青い龍が尖った木や蔦を操れば、地面が切り裂かれ抉られていく。


 地上を駆ける白い虎は、動くだけで身に纏う風が周囲のものを切り裂いていくし、鎌鼬みたいなのをぐるぐる振り回すもんだから周囲に生えてた木はもう跡形もない。


 とどめに亀さんが地面をどろっどろにして、そこからにゅっと伸びてきた蛇が噛み付いたり水吐きだして直線上のものを丸ごと貫くときた。


 いやマジでこれ住宅街だと人的物的被害続出だぞ? 俺帰れなくなってたぞ?



「まさかと思いたいけど、これで被害マシな方とか?」

「だと思うぞ。魔術師がコンクリ溶かしてた事思えば、こんなもんじゃねえだろ。役割上、遠慮してるか……土地には影響が出にくいのかもな」

「わーお、さっすが霊獣ー」


 もう棒読みだよな、何それチート通り越してバグってね? いや、神様クラスになるとそれくらい普通って事? 俺ただの人間だし帰ってよくね?


 ……でさ。


 これで死なない疾もバグってね? 何であいつ生きてるの、立つ場所もないんだけど。


 どう見たって空間を埋め尽くしたオーバーキル攻撃だと思うのに、なんか知らないけど疾は未だに戦ってる。



 燃える羽根をひらりひらりと避け、木や蔦と相殺させて。鎌鼬はどうやってか銃弾で打ち消し、飛びかかってくる虎をいなして、そいつを盾に水鉄砲を凌ぐ。


 苛立たしげに吠えた白い虎が前足を大きく振り上げた。鋭く抉るように繰り出された爪と風の刃は、ひらりと疾が避けた先で疾を捉えようとうねっていた蔦をずたずたに切り裂く。


 相手の攻撃を、相手の体で防御し、体術魔術で受け流し、流れるように構えて銃の引き金を引く。時折展開される魔法陣は、絶妙に四神の連携を崩す。

 相手の動きを利用して、阻害して、混乱に落とし込む。合間を縫うように駆け抜けて、引っ掻き回して、確実に攻撃を当てていく。心底楽しそうに笑いながら、着実に己の有利な展開に持ち込んでいく。


 初めてここまでガチに戦う疾見たけど……認めるのも、悔しいけど。


 すげえ、って、見とれてしまう自分がいた。



 疾が銃の引き金を連続で引いた。炎の羽根をすり抜けるようにして飛んでいく銃弾を、火の鳥がひらりと旋回して避ける。


 疾が地面を蹴った。高々と飛んだ先には、体勢を立て直し中の火の鳥。


『貴様──』

「上から見下ろしてんじゃねえよ、墜ちろ焼き鳥」


 強烈な蹴りが、鳥を真っ逆さまに落とした。落下地点にいるのは、亀。


『朱雀!』

『っ、避けて玄武──』


 轟音。地面がぐらっぐらに揺れて、尻餅をつきかけた俺を竜胆が支えた。


「……水克火、か」

 ぐったりと地面に伏せる火の鳥を見て、竜胆がなんか呟く。

「なんて?」

「…………五行思想くらい自分で勉強しろ」

「やだ、勉強嫌い」

「……何でこんなのが俺の主なんだ、マジで恨むぞ疾……」


 こめかみを押さえてぼやく竜胆、良いから意味くらい教えて?


「……水は火を消す。相性を利用して敵を同士討ちさせたんだよ」

「おぉう鬼畜」


 流石にえげつない攻撃をなさる。何で燃えてる鳥を蹴って無傷なのかはもう気にしねえ。


「まず一匹」

『よくも!』


 未だ落下中の疾に、青い龍が飛びかかる。くわりと顎門を開き、鋭い牙が横腹に喰らいつかんとする。


「見え見えな攻撃だな」

 鼻で笑うように言って、疾が空中で身を捻る。とん、と素手で牙に触れた。


 体が跳ね上がり、龍の頭上へと逆さへ昇り上がる。


『何!?』

「お、いー眺めだな」


 頭上に着地した疾は、にっと笑って魔法陣を展開。


『無駄だ──』

「俺如きの魔術は通用しない、か? 知ってるさ、火力不足くらい。けどな?」


 小さな火花が、龍の目の前でいくつもいくつも爆ぜる。視界を潰された龍が鬱陶しげに首を振った。


「──隙を作るのには十二分に作用する。そして」


 轟音。


「隙があれば、仕留められんだよ」


 いつ折ったのか、龍の牙を深々と持ち主の体に埋め、そのまま地面に縫い付けた疾は極悪な笑みと共にそう宣った。


『朱雀! 青龍!』

 声と共に、青い光が火の鳥と青い龍を包む。みるみるうちに傷が癒えていくが、構わず疾は踵を返して声の主へと肉薄した。


「やっぱてめえが回復役か」

『なっ──』

「回復中は動けないから、足場をなくして安全地帯を確保した……つもりだったってわけだ」


 甘い、と。悪魔が笑う。


「知恵の獣が泣かせるな?」

『ぐぁっ!?』


 防御の為だろう、蛇が飛びかかってきたのをするりと避け、疾の拳が甲羅をひっくり返す。腹を無防備に見せた亀に、疾は銃弾を連続で撃ち抜いた。


『がぁあああ!?』

『玄武!?』

「痺れちゃ回復の力も使えねーよな」


 歌うようにそう言って、振り向き様に銃を発砲する。銃声が一つに聞こえるほどの早さで撃ち抜かれた銃弾は、過たず虎の四肢の付け根を貫いた。堪らず虎が地面に叩き付けられると、すかさず銃弾が撃ち込まれ幾つもの火傷を負う。


『この──』

「で、回復したお二人さんがくるってか。セオリー通りで泣かせるな?」


 宙に浮き上がった2体を見もせずに、疾が舞うように体を回転させた。銃弾が嵐のように吹き荒れる。


 咄嗟に避けようとした2体は、いつの間にか展開されていた魔法陣に動きを妨げられ、あっという間に傷だらけになっていく。必死で防御の態勢を取っていた2体が、次第に体を傾げて──


『ぐ、う……』

『か、は……』



 どしゃりと、墜ちた。



「チェックメイト」


 チャキ、と。

 銃口が、火の鳥の脳天に突き付けられる。


「見たトコ、てめーがリーダーだろ。仲間ごと道連れにくたばるか、大人しく引き下がってせせこましくこれまで通り四方を守るか。選べ」


 極上の笑みを浮かべ、疾は首を傾げた。


「俺としてはどっちでも良いが、流石に守護神殺しは色々目を付けられそうだしな。何も無かった事にして失せるってなら、大人しく見送るぜ? なかなか楽しめたしな」



 …………この戦いを「楽しめた」?


 もうホントこいつ、人間やめすぎじゃね?



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