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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第6章 異能事情とかどーでもいいから帰りたい
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お仕事仲間が物騒すぎて困ります

 その日の夜。

 報告に行った俺らは、にっこり笑った局長サマに、「見回り行ってきなさい。疾も連れて行くのよ」と当然のように命じられ、泣く泣く夜の見回りを開始する羽目になった。


「はぁ……今月まではそこの馬鹿に押しつけたってのに」


 面倒臭そうにしながらも、疾は割と真剣な感じで歩き回ってる。え、普段はこちら側じゃん? 何でガチなの?


「でも結構アッサリ来たよな、疾」

「てめえら2人に術者との折衝なんざ天地がひっくり返っても無理だろうが」

「……言うなあ」

 苦笑を滲ませながらも、竜胆は反論しない。けど、軽く首を傾げて疑問符を浮かべた。

「けどよ、んなことで疾がマジになるか?」

「竜胆……怖い者知らず……」


 そこまでドストレートに言い切って、報復が怖くないんですかね。俺はおっかない。


「ま、ただ竜胆がボケかましてその辺の雑魚魔術師にやられてハイお終い、なら俺も大して興味ねえ」

「う……」

「ほらぁ……」


 微かに笑みを浮かべてさくっと刺しにくる疾さん、やっぱ超怖い。


「ただそれだけなら、な。……この件、どうも臭う。これまでまだ見ぬ新たな神秘の一端だってなら、知っておいても損はないさ」

「……はい?」


 なんかよく分からんこと言いだした。首を思い切り捻った俺をちらっと見て、疾は肩をすくめる。


「馬鹿には難しかったな。興味を引かれる一件だって事だけ分かってりゃ良いんだぞ?」

「なんで子ども扱いするかな!? 分かっててやってるだろマジで!」


 ホント、こいつにムカツク物言いをさせたら、右に出るやつはいない。……というか、出たくもないから手前で足を止めるよな、普通。


「……で、今これどこに向かってるの?」

 今更ながら聞いてみると、疾はまた肩をすくめた。


「知ってる術者の居場所に突撃かますかどうか、取り敢えずそっちの方角に向かいながら考えてる。ちゃちではあるが防衛体勢敷いてる所に突っ込んでいくのも怠ぃんだよな」

「……ねえ、何でそんな強盗紛いな力尽く前提?」

「正義は時に悪行すらも正当化するってな」

「この場合正義もへったくれもなくね!?」


 しれっと何言ってるのかなこの悪魔!


「というのは冗談として」

「ダウト!」


 今絶対ガチだった!


「昼間なら対価さえ払えば情報を喋りそうなんだが、あの女、この時間帯は持つ肩書きが少々重い。確実に情報は握ってるだろうが、鬼狩り如きが相手じゃあ、ちょっとからかった程度じゃ口を開かねえから面倒だな」

「鬼狩り如きってのも引っかかるけどよ、からかって口を開くって……おい疾、何する気だ」


 竜胆が咎めるように口を挟む。疾が小さく口の端を持ち上げた。


「さあ?」

「さあ、じゃねえよ。敵でもねえのに手を出すな」

「失礼だな、竜胆。それじゃ俺が無法者じゃねえか」

「え?」


 いや、え? 他に何と表現しろと?


 俺と竜胆の2人分の視線を受けて、疾はやれやれと首を横に振る。


「目的の為に難癖付けて喧嘩売るなんざ、ヤクザの仕事だ。あくまで目的と仕事には誠実に、平和に。相手に対して真っ当に向き合わねえと、な」

「ダウト」

「うん、今のはないな」


 俺と竜胆、揃えて異議あり。いくら何でも無理があるぞ?

 そんな俺らの猜疑の眼差しを横目で受けとり、疾はふっと笑った。


「失礼な奴らだな、俺は平和主義だぜ? ただ、正当防衛を選ばないほどお人好しじゃなく、極めて真っ当な意見を述べたってのに、何故か揃いも揃って向こうから攻撃してくるだけでな」

「喧嘩ふっかけて手出しさせてるだけじゃん!?」

「手を出した方が悪い、小学生でも知ってる常識だろ」

「字面だけ正しけりゃ済むと思うなよ!?」


 俺と竜胆に交互に詰られても、どこ吹く風。ホント、どこかにこいつを抑えてくれる聖人様、どっかにいない?


「さて、言葉遊びも程々にして、だ」

「えぇえ……」


 これを言葉遊びとか言っちゃう? 普通に本音喋ってただろ?



「──お客様、だな」



「へ」

「っ、何だこれ!?」


 唐突な言葉にぽかんとする俺、驚愕の声を上げる竜胆。弾かれたように顔を上げる竜胆に、思わず目を丸くする。


「え、何? どした、竜胆」

「……瑠依、意識を研ぎ澄ませろ。下手すりゃ死ぬぞ」

「え゛」


 おっかない事言い出した竜胆に、変な声が出た。慌てて言われた通り意識を集中した……しちまった俺は、ひっと情けない悲鳴を漏らす。


 何この半端無く物騒かつ剣呑な気配! しかも囲まれてるし!?


「どういう事!? 疾、今度は何やらかした!?」

「瑠依にだけは言われたくない台詞だな」

「何でだよ!?」


 こういうおっかないお客様は大概疾関連だろ! 俺のせいは理不尽過ぎる!


「誰のせいとか今はどうでも良いだろうが馬鹿ども! 早く備えろ!」


 けど、竜胆の叱責が俺の反論を塞ぐ。俺的には大事な主張なんだけど、竜胆の語調がそうと言い張るのを妨げた。


「……もうやだ! 馬鹿じゃねえの!? ヤダもう帰りたい! オフトゥン!!」

「……この状況でもぶれねえな、この馬鹿」

「ホント、なんでこんなのが主なんだろ……」


 疾の呆れ声と竜胆の哀しげな声。何でだよ、普通そう思うじゃん!?


 言いながらも、泣く泣く組み立てた呪術具を構える。竜胆は両手を軽く開いて身をかがめ、疾は両手に銃を握って不遜にも仁王立ち。


 楽しげに歪められた唇が開き、歌うように言葉が発せられる。


「さてはて。東西南北、四方からのとんでもない気配。昼の騒動と果たして関係があるのやら……何にせよ、随分と大物を引き当てたようだな」


 その言葉が暗闇に吸い込まれ。



 ──俺らの周りに、「そいつら」は降り立った。



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