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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第6章 異能事情とかどーでもいいから帰りたい
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横暴にも程があると思うんです

「言霊」


 微妙な顔で保健室のベッドに神妙に腰掛ける竜胆。その正面に丸椅子を据えて腰を下ろし、足を組んで座る俺。

 違和感しかないこの空気にも一切お構いなしに、口が勝手に説明する。


「この世界、特にこの日本は言霊幸う国として有名だ。声に乗る魔力の影響値がでかいってだけでなく、声が世界を縛る特性を持つ異能者が多いんだよな、何故か。名は最も短い呪、ってのも、歴史をひっくり返すとこの国が始まりとされているらしい」

「……つまり?」


 何とも言えない顔で続きを促す竜胆に、軽く口元に笑みを浮かべて見せて、俺の知らない知識の説明が続く。


「さっきのはおそらく、調教師の類が持つ異能だろ。視た限りじゃ竜胆1人をピンポイントに狙ったものじゃねえ。この辺一体を無差別爆撃するような言霊を、どこぞの誰かが響かせたんだろうよ」

「……傍迷惑だな。で、あれはどういう作用なんだ? いきなり腰が抜けたっつうか、その後は体の自由も奪われちまったんだけど」

「詳細は実際の発動をもっとじっくり観察しなきゃ分からねえけどな。ただ、言霊そのものは聞こえたから、作用は明確だ」


 そこで一拍間を置いて、俺の口はにいと笑う。ゆっくりはっきりと、続きを口にした。



「『お座り』、だとよ」



「犬扱いかよ!」

 憤って叫んだ竜胆さん、気持ちは分かる。それは怒る。


 そう思いながらも、俺の口は失笑を吐き出した。


「イヌ科イヌ属オオカミが何か抜かしたか?」

「うっ……そらそうだけど……!」

「ま、オオカミの妖の血が流れてるだけの竜胆に作用したって事は、イヌ科の動物妖問わずってとこか。言霊の強さは一級品だな。制御力が低いのか、単に制御する気がねえのかは五分だが」

「迷惑な……」

「迷惑だな。この街で無差別爆撃をしでかそうなんざ、盛大な宣戦布告もあったもんだ。さてさて、術者どもはどうする気なのか。無様な右往左往はさぞかし見物だろうな」

「見世物かよ、趣味悪いな」


 竜胆が呆れ顔でツッコミを入れた。大分この状況には慣れてきたらしい……いや、慣れないで欲しいんだけども。


「ま、さっき視た限り後遺症の類も無さそうだし、力の流れにも影響はねえ。ひとまずは気にしなくていいんじゃねえの。クラスの連中が気になって仕方ねえって面してっから、そのまま帰った方が無難だろうな」

「え、サボるのか……」


 よし、帰れるのならぜってー帰るぞ。明らかに付きまとってきそうな常葉とか断固お断りだ。まっすぐ帰ってオフトゥン出来る口実に使えるなら絶対使う!



 だから。


「えーと……ちなみに瑠依は、いつまでこのまんまなんだ?」


 だから疾、いい加減人の体を使うのやめろよ!?



「こんなアホの体いつまでも乗っ取ってたら馬鹿が移る」


 ひっで!? 勝手に乗っ取っておいて暴言って横暴にも程があるだろ!? 


「つーか、ここまで神力の制御出来てねえとは流石に引くわ。呪術ダダ漏らす歩く電波妨害なだけある」

「げ、そんなにか」

「迂闊に手出ししたらこっちの回路が混線を起こしかねない」

「えぇえ……」


 そこでどん引きするところ!? そこまで言うなら何で俺の体をホイホイ使ってるわけ!?


「つか、じゃあなんでわざわざここまで?」

「一旦頭を整理しておかねえと、この馬鹿が余計なことを漏らしそうでな」

「あー……」


 え、そこ信じちゃう? 俺だって言っちゃいけない事くらい分かってるよ?


「信頼すると思ったか、つーか煩いから黙ってろ」


 理不尽!?

 こっちの声はまる聞こえの模様。こっちだって好きで内心騒いでるわけじゃないし!?


 文句言いたいけど、体の自由は一切きかない。口だけじゃなくて、動くのも無理。全部まるっと操られてる状態とか、俺ここまでされるような真似した?


「取り敢えず、この馬鹿がどこまでも馬鹿なのは再確認出来たわけだが」

「うわぁ……瑠依の声で瑠依に悪口言ってるのってシュールだな……」

「俺も体の乗っ取りはそこまで得意じゃねえからな。本体に意識残した状態で、乗っ取った体の神力使って術を操れるほどの精度はねえ。しかもこんなダダ漏れの下手くそなら尚更だ」

「そんなにひでえのか……そういや、え、授業受けてるのか」


 俺の体乗っ取って会話しながら授業とか、何だそのトンデモ技。会話まざんねーの?


「この程度は普通。授業なんざ元々軽く聞き流す程度にしか耳傾けてねえしな」

「よく満点取れるなあ……あ、授業のノートとかどうしよ」

「鞄は今日は放置で良いだろ。ノートも明日クラスメイトに借りれば」


 …………何で、学校関連に関しちゃ疾ってまともなんだろ。俺は既に逃避気味にそんな事を考えてた。


「あー、頼みづれぇな……疾の借りれねえの?」

「俺のは暇潰しを兼ねて、言語を変えたり思い付きで数式書き込んだりと黒板の名残もないが、それでも良いのか」

「……いやいい、辻山に借りる」


 訂正。疾はやっぱり疾だった。


「取り敢えず、とっとと帰れ。一応、迂闊にも言霊一つに乗っ取られた件は局に報告上げておけよ。術者どもの動きによっちゃ、こっちからコンタクトを取らなきゃならねえ可能性もあるからな」

「げぇ……失態の報告とか何十年ぶりだ……」

「油断したなあ、半妖」


 くつくつと笑って、ひらりと手を振って。


 次の瞬間、俺の体は一気に重みを増した。


「うぎゃ!」

「……あ、戻ったのか」


 バランスを失って椅子からひっくり返った俺を見て、竜胆はそれだけ。最近ホント、冷たすぎねえ?


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