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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第6章 異能事情とかどーでもいいから帰りたい
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口実があるんだから帰らせてください

 俺がどれだけ帰りたいと願ったところで、授業ばかりは止められない。いつものよーにいつもの如く、退屈で何言ってるのかよーわからん先生の説明を、欠伸を噛み殺して右から左へと聞き流す。世界史とか知らなくたって人生困んねーもんな、こんなのをいちいち聞かされてテスト勉強しなきゃなんねーのってマジでお布団の損失だし。


 とはいえ、居眠りは後ろから椅子を蹴っ飛ばしてくる竜胆がいるから出来ない。おかんてば、超真面目にノート取りつつ、俺の監視してくるんだぜ? 帰りたくならないのかと。


(……真面目と言えば)


 ちらっと、気付かれないように一瞬だけ隣に目を向ける。朝の騒ぎもガン無視で読書を続けていた──そのくせ俺の机ぶち倒しはしれっと避けやがった──お隣さんは、黙々とノートに何やら書き込んでいる。


 どうにも信じられないというかありえねーというか、疾はこれで学校では超真面目だ。授業はきっちりノート取るし、課題は絶対提出するし。おまけにテストで満点で、どうも服装検査の類も引っかかったことはないっぽい。模範生か。


 ……いや、訂正。テロ活動のために学校サボるのが模範生とか言われたら、俺は全力で現実逃避する。

 いつもいっつも、鬼狩りの仕事は極力俺に押しつけてるくせに。何故この真面目さが少しでもあっちに──


 …………いやないわ。疾が生真面目に仕事するとことか、想像しただけで鳥肌立った。



 あり得ない光景をうっかり想像してしまってぶるりと身震いする、なんて馬鹿馬鹿しいけど暢気な気分で授業を消化してたのは、昼休み明け一番の授業途中までだった。



 昼飯後の眠気に任せて、今日は帰りにマンガ新刊買いに行くかー、なんて外を眺めながらぼけらっとしていた俺は、ふと瞬いた。


(……ん?)


 何か今みょーな風が流れたよーな。ただの風と言うよりは、なんとゆーの、不自然な波っぽい?


 ああそうそう、ちょーど鬼狩り局で訓練してると吹き荒れるような、そういう特殊な力の──



 ガタンッ!


「っうおっ!?」



 けたたましい音と、竜胆の悲鳴が重なった。



「へ?」

 なんぞやと驚いて振り返る。椅子をひっくり返して尻餅をついた竜胆が、目をまん丸くしていた。


 ……え? マジで? 竜胆ひっくり返ったの?


 生真面目な竜胆が昼食後の居眠りからのひっくり返り? 何それどんな天変地異?


「な、何してんだ竜胆?」

「竜胆、大丈夫かー?」

「伊巻はともかく、竜胆って意外だな……」

「ちょ、誰だ今の!?」


 朝の一幕を引っ張り出してきただけでなく、俺はともかくって何だ!


「伊巻、煩い。竜胆、大丈夫なのか? 何があった?」

「え……いや、すんません……ってか、な……?」


 当の竜胆さんは、相も変わらず目を丸くしたまま腰を抜かしてる。ここに来て、俺はようやく違和感を覚えて竜胆を見返した。


 なんつうかさ、竜胆がうっかりバランス崩すとかあり得なくね? 百歩譲ってうとうとしちまったとしてさ──ようこそこちら側へ、大歓迎だ──、普段なら慌てて跳ね起きるんじゃね? 


 空を駆けるように走れる竜胆が、なんでいつまでも尻餅ついたままなんだ?


「竜胆?」

「……っ、なん、だこれ……っ」


 驚き顔は、じわじわと焦り顔に。小さく身動ぎするばっかで起き上がる気配の無い竜胆……え、まさか動けないとか?


 なんかこれ、ヤバイ。ここ1年で培った直感が俺の腰を浮かせ、ついでに起き上がらない竜胆をいい加減怪訝に思ったクラスメイトや教師がざわつきだしたその時、小さな溜息が聞こえて。



 パチン。


 小さな小さな、フィンガースナップ。



「っ、あ?」


 竜胆がびくっと肩を跳ねさせた。目をぱちぱちさせつつ、ゆっくりと立ち上がる。


「お、大丈夫なのか?」

「え、あはい。すんません」


 教師の拍子抜けたような声に応じて、竜胆が慌てた様子で椅子を引き起こす。


 なーんだ、と安心したような空気が流れるより先に、俺の騒がしい声が響いた。

「竜胆! 大丈夫か具合でも悪いのか!?」

「は? いや、もう大丈夫だけど」

「もうって、何かあったんだろ!? どっか痛いのか!?」

「いやだから……ってか瑠依、どうした?」


 ホント、どうしたんだろうね。いや、竜胆のことも確かに心配なんだけども。


「一応保健室行こうぜ。ひっくり返ったから手のひら擦ってるし……先生、連れて行きますけど良いですよね?」

「あ……ああ、そうだな。一応診てもらってくると良い」

「え、いやいや、俺別に、」

「いーから、ホラ行くぞ竜胆!」


 ぐいぐいと背中を押すようにして竜胆を連れ出す俺。面食らいながらも取り敢えずされるがままな竜胆。そんな俺らを、「え、何事?」と飲み込めない顔で見送るクラスメイト。そして──


 うん、俺も茶番だと思うよ? こんな仰々しく騒いで帰る口実作るとか、確かに俺ららしいかもしんねーけども、そもそも保健室にいかにゃならんのなら帰れないし、付いた途端に体調が良くなって教室に戻されるのが世の真理だからして、伊巻家は保健室には縁がないわけで。


 何より、どう見たって異能が絡んでそーなこの一件、こんな騒がしく竜胆を心配してもしょーがないのも分かってるわけで。


 だから疾、こっそり笑いを堪えて知らんぷりしてんじゃねーよ帰らせろ!!


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