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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第5章 イベントよりも帰りたい
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ファンタジーも災厄にかかるとこーなるそうです

 次の日。朝食を食べて学校に向かう。半端無い眠気がお布団とのランデブーをしきりに促してきたけど、竜胆に引っぱり出された。帰りたい。


「ねむ……」

 くあぁと欠伸を漏らした俺に、竜胆は溜息混じりに詰ってきた。

「自業自得。つか、あれだけ言われてよくもまあ」

「えー……そりゃ悪かったけどさぁ……」

 眠気の余り、返事が雑になる。とはいえ、俺だって言いたい事くらいある。

「直ぐに帰れば良かったじゃん、トラップ拾いまくったのある意味疾のせいだろー……」

「あー……まあ、そうとも言えるかもなあ」


 そう。疾が爛々と目を輝かせて破壊活動に突撃せず、竜胆が枷を壊してくれた時点で逃げてれば、結構いろんな厄介事を避けて通れたはず。


「けど、そしたらあの人達はどーにもなってねえぞ?」

「……そこだよなあ」


 あれを助けたと言って良いのかはすげー微妙だけど、疾が病院送りにした——あ、なんか意味合い違って聞こえるな——人達に関しては、なあ。


「……つか、言われてみると変だな」

「ふぁ?」

 丁度欠伸を漏らしたとこだった俺に呆れた溜息をつきつつ、竜胆は言う。


「疾が自分から人助けの為に残るか?」

「そんな事あったら世界の終わりを覚悟する」

「そこまで言わなくても……。けどよ、だったら何で残ったんだ?」

「……資料破り捨てたりビル破壊したりが目的じゃね? テロリストだぜ?」


 既に疾の突拍子のない行動には驚く余地なんかない俺が居たりする。いやだって、この1年色々やらかしてくださったもん。マジおっかない。


「んー……まあ、それでも説明付くんだけどな……」

 けど、竜胆は尚も腑に落ちない様子。おかんよ、今度は何を心配してるんだ。

「あのなー竜胆……疾だぞ? 人の姿した悪魔で、人間やめたチートだぞ? 俺らに思考回路が理解出来るわけねーじゃん。気にしたら負けだって」

「瑠依はもうちっと、頭使った方が良いと思うけどな」

「だが断る! テストだけで十分だし!」

「そのテスト、今回の赤点はいくつ——」

「あーあー聞こえない!」


 耳を塞いで嫌すぎる単語をブロックする。どうせ体育祭が終わるまでは補習もお預けなんだ、そこまで忘れていたい俺悪くない。



 ……ん? 体育祭?



「しまった!!」

「うわ、何だよ瑠依」

「何だよ、じゃねーし! 竜胆! 忘れてたけど今日も今日とて体育祭の準備だぞ!?」

「……あ。体育着忘れたなー」


 そうだったと言わんばかりの竜胆に食ってかかる。それもあるけどそうじゃない!


「あれだけのメンタル削られる夜を過ごした明け早々に常葉の変態発言なんか聞いてられるか! あいつめちゃめちゃやる気だったじゃん!? 俺もうあんな暴走に付き合う元気とか欠片もないし帰りたい帰ろう!」


「……うん。まあ﨑原さんのテンションがきついっつー言い分も分かるけどな?」

 常葉を表現するにはあんまりにもマイルドな言葉を選びつつ、けど竜胆はがっしと俺の襟ぐりを掴んできた。


「んな理由で学校サボって良いわけあるか! おら走るぞ!」

「いーやぁあああ! 帰りたいぃいい!」


 ぎゃーぎゃー叫びながらも、俺らは朝の登校路を駆け抜けていった。



***



 珍しくホームルーム5分前に到着。竜胆ってば、俺引き摺ったままおもっきし走ってくれたんだもん。俺のダッシュより早いのが虚しい、もう本当にチートはこれだから。


「……あれ」

 そういや、今日は常葉待ち伏せてなかったな?

 あんなテンション高かった以上、ぜってーいると思ったんだけどな、いつもの場所に。先に学校行ったのか? 何それ怖い。


 今日は一体どんだけテンションクッソ高い常葉あほが待ち伏せているのかとびくびくしながらドアをガラッと開けた俺は、途端クラスメイト中から視線の集中砲火を浴びた。


「へ?」

 何だこれ。何で俺、クラス中(主に男子)に、こんな物凄い目で睨まれてんの?


「……伊巻。竜胆」

 地を這うような声が横から聞こえた。見れば、辻山が据わりきった目を俺と、あろうことか竜胆にまで向けていた。

「辻山、はよ。どーしたんだ、おかんまで睨んで」

「瑠依、おかんじゃねえっての」


 律儀に否定する竜胆にも、俺の言葉にも反応せず。辻山はわなわなと震えながら、くわっと口を開いた。


「こんの裏切り者!」

「はい!?」

「よくものこのこ来やがったな! しかも今日!」

「何の話!?」


 何でいきなり全力で糾弾されてんの帰りたい!


「えーと。辻山、どうした?」

 竜胆が困惑気味……いや、その割には何となく響きが変だ。見上げてみると、なんだか複雑な表情を浮かべてた。どうした、おかん。


「どうした、じゃねえだろ!? 今日が何月何日か言ってみろ!!」

「へ? そりゃ——」

 悪夢のような一晩を味わった翌日だろと言いかけて、竜胆が遮るように言う。


「わり、瑠依のスマホが壊れちまってんだ」

「カレンダーは?」

「瑠依の部屋にねえぞ? ついでに時計も」

「……何でだ、伊巻」

「日にち時間を気にしてたらオフトゥンが堪能出来ねえじゃん、何言ってんの?」

「「…………」」


 何故黙るんだ、2人とも。帰ったら全力でぐだぐだする為の努力は惜しまないよ?


「……で。今日は何月何日だ?」

「9月12日」

「へ?」

「あー……」


 ぱかっと顎を落とした俺とは裏腹に、竜胆がなんだか察した声を上げちゃってる。待って、俺だけついてけないの?


「だから、9月12日。運動会は10日。……この意味分かるよなぁ?」

「…………なんだと」


 整理してみよう。


 俺らが異世界に飛んでったのは運動会練習初日の夜、8月28日だ。そこから2週間地獄の筋トレ(メンタル破壊)コースが待ってた筈。

 で、現在9月12日。綺麗に2週間すっ飛んでる、と。


 うん、分からん。


「(なぁ竜胆、どゆこと?)」

「(あー、俺も推測でしかねえけど)」

 クラスの連中からそそっと距離をとって竜胆に尋ねると、竜胆も微妙に自信なさげな声で答えてくれる。

「(座標ずれっつってたから、それが時間軸にも影響したんじゃねえか? 本人いねえから確認しようもねえけど、そういやそれっぽいこと臭わせたよな)」

「(……あれか)」


 そういや言ってたね。「半人前呪術のツケは明日てめえで払え」とかなんとか。意味ワカンネって言ったら鼻で笑ってシカトされたけど。その冷たさに帰りたくなって帰った。

 それがまさかの、時間軸2週間ぶっ飛びだった、と。わあすげえ、確かに濃い経験だったけど、2週間分だって。


 ……おい、うっそだろ?


「なあ、伊巻?」

 がっしと肩を組まれる。確実にホールドにかかってるのは辻山……だけじゃない、クラスの男子全員!?


「あれだけ諦めろどうしようもないって崎原のヤバさを諦めさせといて、自分達だけトンズラ?」

「えーその、これには海より深いわけがありまして」

「へえ、じゃあ言ってみろ」

「……ちょっと世界救ってきた!」

「おけ、有罪ギルティ

「なんでだよ!?」


 そりゃ確かに真っ当な言い訳とか思い付かないけども、断じて俺のせいじゃない! 帰りたい! 


 あと竜胆、何でそんな諦めたよーに溜息付いてんの。ふつーに振り解けるじゃん、俺ごと助けて?


「俺ら見捨ててサボりとかふっざけんなよ! この恨み、どう晴らしてくれようか! 最低でも日直と掃除当番、しばらくはお前らだけでやりやがれ!!」

「理不尽! 何それ朝も早ければ帰りも遅いやつじゃん帰りたい!!」

「なお今回に限っては女子の同意も得てるから味方はいねえぞ!」

「なんで!?」

「瑠依はともかく竜胆君の活躍の場面を奪っておいて許されると思ってるの!? 瑠依だけでサボってよう!」

「そんな変態理論のせいで!? 竜胆何か言ってやれ!!」

「……あー、諦めた」

「うっそだろ!?」


 四面楚歌な上に、元凶の疾さんは当たり前のようにいない。そして竜胆は諦めてて、俺はがっつり男子陣にホールドかまされてる。……詰んだ。


 こんな訳分かんねえ罰則制度があるから、いつまでも世の中にブラック企業がなくならないんだぞ? なんておも……わない。ただただ俺が想うのは唯一つ。


「帰りたい!!!」



 体育祭も変態もテロリストもごめんだから、もう帰らせてください。

 


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