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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第5章 イベントよりも帰りたい
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やっぱり理不尽だと思うのです

「またか!!」

 絶叫したけど、そんな場合じゃないよな。

 首を巡らせると、真っ暗な夜空ばかりが目に入る。下を見れば、なんか見覚えのある建物がちらほらと。わあすげえ、こんな高い所から見るの初めて……じゃねえ!


「あほかぁああああ!?」


 確かに帰りたいって言ったけども! 街の上空に放り出せとは言ってない!


「瑠依!」

 声が聞こえて、竜胆がぐいっと俺を引き寄せた。いや竜胆、これどうにかなる高さじゃねえって。


「疾! どういうこと!?」

「座標ずれ。地中に埋まらなくて良かったな」

「さらっと言うなし!?」

「うっせえ、諸悪の根源」

「俺!?」


 面倒臭そうな顔で俺のせいにされたけど、俺今回何もしてないよ!? 見てただけだろ!?


「んな場合じゃねえだろ瑠依! 疾! どうにかする方法考えるぞ!」

 竜胆の言う通りで、やり取りの間にも落下スピードが速まるばっか。このままだと折角帰ってきたのに地面の染みコース待ったなし。


「あー……浮遊の魔術で間に合うか? これ」

「のんびり言ってる場合か!」


 だというのに怠そうに呟く疾さん、命の危機っていう自覚はないんですかそうですか。ああそうだな、チートだもんなこれくらいじゃ死なないってか爆発しろ!


 平凡な俺の場合、竜胆が庇ってくれたとしてもぜってー死ぬ。

 さて問題。棺桶はお布団に入りますか?

 入って堪るか。俺はもう1度愛しのオフトゥンちゃんといちゃいちゃするんだ!


「そぉい!」

 残ってた呪術具全部取りだして投げる。神力を込めて投げたから、落下に付いてきてくれた。それらに呪術的な意味を込めて、組み立てて、よし完成。


「は? 空飛べんのか? 瑠依」

「飛べるかそっちのチートスペックと並べんな!?」


 驚いた様な竜胆に反論しつつ、俺は呪術を発動した。対象は俺と竜胆と、あといらなさそーだけど一応疾。

 赤黒い血文字が呪術具から溢れ出し、俺らをぐるぐると取り囲む。円形に取り囲んだまま回転するのを必死で維持しながら、俺は珍しくガチで神様に祈った。


「どうか障害物のない柔らかい地面に落ちますように!」

「って結界だけで軟着陸する気かよ!!」

「なんだその力業……」

「やかましい! 俺にこれ以上どうにか出来るか!?」


 奇跡のような魔法を使えるわけないだろ、一般人Aだもん。


 高度は順調に落ちて、そろそろ高層ビルと同じ高さ。二度とバンジージャンプ嫌だったのにとかそんな事考えてる余裕もない、呪術の維持でいっぱいいっぱいだよ帰りたい。


「後は運を天に任せるのみ!」

「テメーの場合それは自殺行為だと何故分からねえんだ、ド阿呆」

「いやあ……瑠依って何だかんだ生き延びそう」

「あぁ、危険なのは俺らだけだから平然としてるのか、その馬鹿」

「だから何で!?」


 謂われのない非難を浴びまくりながら、必死で呪術維持してた俺偉い。


 だって結界が良い感じに風の抵抗受けてるもん、お陰で微妙に落ちる速度が遅くなってる気がする。めっちゃ頑張ってるんだから2人とも褒めろ!


「……こりゃ、骨折は免れねえな」

「げぇ、マジか」

「え゛」

 疾の呟きに、竜胆も俺も呻き声を出した。こういう時に嘘つく奴じゃねえから笑えない。嘘ついててくれてる方がありがたいんだけどな。骨折とか超帰りたくなるじゃん。


 ……ん? 骨折?


「はっ、もしかして足折ったら学校行かずに済む奴じゃね! 少なくとも体育祭回避出来るじゃん!!」


 名案が閃いて思わず2人の顔を見たら、2人揃って思い切りうんざりした顔をした。

「……疾、瑠依もうダメかもしれない」

「脳の事ならとっくの昔に溶けてるぞ、そいつ」

「ひっで!?」

 抗議しようとする俺を無視して、疾は深々と溜息をついた。

「はあ……ホント、馬鹿と関わってから碌な事がねえ……」

「俺のせい!?」


 今現在高所から墜落してるのは断じて俺のせいじゃない……はず。ここまで俺のせいって言われ続けると不安になるから不思議だよな。


 いや、やっぱ俺のせいじゃないはず! 理不尽すぎてホント帰りたい!


 納得いかんと疾に文句を言おうとして、その疾がすっと目を閉じて言葉を飲んだ。え、今度は何?

 そろそろ民家が近付いてきた俺らの足元に、魔法陣が浮かび上がった。淡く輝くそれが俺の作った結界の底を外張りするようにひっついた途端、ふうっと落下速度が落ちる。覚えのある感じがするから、多分これ浮遊魔術だ。


 って、最初から使えよ! 俺頑張る必要ないんじゃね!?


「今呪術切ったらてめえだけ地面に墜落させるぞ」

「はいっ!」


 だよな。疾ってそういう奴だったよな。


「2人とも、大丈夫か?」

「そっちの馬鹿次第だな」

「命が惜しいから頑張る!」

「……あっそ」

 竜胆が苦笑する気配。向けられる視線が妙に生温いのは何でだ。


 なんて言っている間に、3階建ての屋根と同じ位の高さに。うん、やっぱあんまりゆっくりになってなくね?


「やっぱ骨——」

 折るんじゃね? と言いかけた俺を、竜胆がひょいと脇に抱えた。


「ん、これなら問題ねえ」

「へ」

「疾、動くなよー」

「あ? ……っておま」


 首ががくんってなって、真っ直ぐ落ちてたのに横の力が加わる。斜めに傾いだ視界に何事かと思うより先、竜胆の掛け声。


「よっと」


 さらにがくんと衝撃が走ったと思ったら、ばいーんと弾むようにして跳ねる。え、何このばいーんって……俺の結界か!


「おお、瑠依の結界便利だな」

「便利って何してんの竜胆さん!?」

「いや、ちっと楽しくなってきた」

「何が!?」

「おい、人担いで遊ぶな」


 竜胆の声が弾んでるんだけど、ホント何してるの。後なんか近くに声が聞こえた気がするんだけど、ホント何が起こってるんだ?


「これこのまま移動すんの楽しそうだな」

「移動!? 俺にこのまま呪術使ってろって!? ヤダもう帰りたい!」

「ちえっ」


 舌打ちしながらも、あっちへぼよーん、こっちへばいーんと跳ね回るのが止まらない。なんか段々気持ち悪くなってきたんだけど、そろそろ結界解いて良いかな?


「ほい、最後」


 ぽすん。


 そんな軽い衝撃と共に跳ね回るのが止まり、視界も並行になった。ぱちくりしてると、竜胆が声をかけてくる。


「瑠依? もう結界いらねえぞ?」

「へ? あ、はい」

「つうか、さっさと下ろせ」

「へいへい」

「ん?」


 今のもしかして疾か? っと思って顔を向けると、直ぐ目の前にご本人。


「のわっ!?」

 丁度下ろされたトコだった俺は、思わず仰け反ってバランスを崩す……より先に。


「ごふうっ」

 容赦のないボディーブローを叩き込まれて、その場で地面とこんにちはする羽目になった。


「な……なんで……」

「ここまでの厄介事を持ち込んでおいて、何故と言えるたあイイ度胸だなあ? トラップに巻き込んだ張本人?」

「…………すみませんでした」


 吐き気を堪えて見上げた疾の笑みのヤバさは、謝る一択だったな。なんかこう……顔に紗がかかって見えるくらい魔王な雰囲気? 超おっかねえの。


 まぁ、無事帰れたんだし、良いけどな。


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