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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第5章 イベントよりも帰りたい
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悔しいからってやらかしてはいけないようです

「さて、馬鹿がいらんトラップを片付けてくれたお陰で事は早いな」

「その感想何!? さっきの流れをそれで片付けるとか最低か!」


 ぎゃあと叫ぶと、疾が動きを止めた。その視線の冷ややかさに、ひくっと喉を鳴らす。


「てめえで何にも出来ない奴が、吠えるな」

「なんっ」

「この建物から俺らもあいつ等も無事脱出させる方法があるならやってみろ。お前が思うほど簡単じゃねえがな」


 ——無抵抗の人間を守りながら、外に出られるだけの戦闘力がお前にあんのか?


 そう問われて、ぐっと言葉に詰まる。


 ……ここに来るまでに妨害してきた魔術師、強かったんだよ。1対1ならギリなんとかなるけど、わらわら湧くし。竜胆と疾がいるから余裕あったけど、1人で出来るなんて思ってない。

 けど、2人がいるんならどうにかなるんじゃないのか。そう言いかけた言葉は、未然に封じられた。


「竜胆は近距離一択。動きを封じる魔術でもかけられて集中砲火喰らったらひとたまりもねえぞ。身体能力が高いだけの個体を倒す方法くらい、この世界の魔術師は熟達してる」

「……お前は」

「出来る事はやったろ。枷を外して好きに暴れさせた。上手く逃げ切るも途中で魔術師に殺されるも、諦めてそのままくたばるも選ばせてな」

「だから!」


「それを非道と呼べるほど偉い立場かっつってんだ、雑魚が」


 吐き捨てられた言葉に、全身を殴られたような気がした。身体が震える。


「……もういいだろ」

「お優しいな、竜胆は」

 鼻で笑って、疾は背を向けた。これ以上の議論を拒絶する背中に何か言おうとして、竜胆に口を塞がれる。


「(瑠依……もうよせ)」

 もがもがともがく俺を担いで、竜胆は疾の後を追う。足を進めながら、俺に小さく語った。

「(疾がただ見捨てたわけじゃねえって、分かってるだろ。精一杯やってる奴を、あんま追い詰めんな)」

「……っ」


 ばっと顔を上げた。竜胆が困った顔で笑ってるから、むぐと口を噤んで頷く。


「……自分で歩く」

「おう」


 ここで逃げるのも何か嫌っつーか、疾がいねえと帰れないのも事実だし。せめてこれ以上格好悪い姿見せたくなくて、俺は呪術具を起動した。


「瑠依?」

「おい、一体何を——」

「そぉいっ!」


 掛け声一発、俺は赤黒い文字を部屋一杯に広げる。そのまま力任せに呪術具を振り抜き、多分あるだろうなと思ったトラップを一斉にぶっ壊した。

 炎と転がってくる大石と、天井から降ってくる無数のナイフ。何度か見たけどあいかわらずおっかねーなっとばかりに予め巡らせといた血文字で全部防ぐ。


 馬鹿だ馬鹿だって言われるけど、俺だって学習するんだぞ! 死にものぐるいで防いだトラップだもん、死にものぐるいで身を守る手段考えた俺偉い!


 なんて自画自賛してた俺だけど、相棒達からの評判はすこぶる悪かった。


「何しでかすんだよ!?」

「ぐえっ」


 焦ったような声を上げた竜胆に、乱暴に脇を掴み上げられる。そのまま天井へと飛んで、床を埋め尽くすヤバイ液体を避けた。


 力尽くで天井を壊し上がった竜胆に、きりっと宣言する。

「またトラップに引っかかるくらいなら、全部壊してこの建物ごとぶっ潰してくれる!」

「瑠依なんか壊れてねえ!?」

「——建物はともかく俺達ごと巻き込んでんじゃねえぞ、ボケ」

「ごふうっ!?」


 遠慮のないヘビーブローが鳩尾にクリーンヒット。また吐きかけるのをギリッギリ食い止める。うう、胃酸で焼けた喉が痛い。


「馬鹿だ馬鹿だと思ってたが、無理心中を図るとかついに脳みそが腐ったかド阿呆」

「うっ……だって邪魔じゃんトラップ! 壊して何が悪い!」

「ワンフロア使い物にならねえ状態にして出るのがその台詞か……お前、下の連中巻き添えにしてえの?」

「なんでそうなる!?」

「……床に穴が開いた状態であの液体がぶちまけられたんだが」

「はっ!?」


 バッ! と下を覗き込む。やっべ、穴の存在忘れてた!


「……このまま下に蹴り落としても罪はねえ気がする」

「いや……流石にやめような? 気持ちは分かるけど……瑠依? 疾が結界張ったから下は無事だぞ」

「……すんませんでしっ!?」


 深々と頭を下げる途中で、固いものが後頭部に当たって強制的に床とこんにちは。……ああうん、いつもの疾だよな。

 さっきまでちょっと怖かったから、普段通り鬼畜全開の疾にほっとしてる自分がいて嫌だ。……俺にMの趣味はない。断じて。


「考え無しが勝手に動くな馬鹿。馬鹿が頭使わない行動に出て自滅する分には構わねえがな、俺を巻き込むんじゃねえボケ」

「ごめんなさいぃ……」

 ぐりぐりと靴裏をめりこませながら悪態をつく疾と、謝る俺に、竜胆が深い深い溜息をついた。

「遊ぶのは程々にな。あと1時間なんだろ? 早く用事を済ませて逃げるぞ」


「させませんけどねェ」


「!?」

「え、誰!?」

 驚愕して飛び上がる俺と竜胆を眺め、疾がぼそりと呟く。

「馬鹿コンビ」

「はい!?」

「おい! 俺を瑠依と同類でまとめんな!」

「竜胆さん!?」


 物凄い勢いで抗議する竜胆にショックを受ける俺をガン無視で、疾はにいと嗤った。


「やっと首謀のご登場か。引っ張りすぎて観客が飽きてるぜ?」

「それはそれはァ。僕にとってはァ、転がり込んできた獲物が嬉しいですけどねェ」

「奇遇だな、俺もだ」


 両手の銃を構えた疾が、視線を声の主……ボロッボロの白衣を羽織った枯れ木のようなじーさんにロックオン。……うん、この人終わったな。


「こいつの存在に気付きもしなかった馬鹿ども。俺がこれと遊んでる間に、ここにある書類1つ残らず破り捨てとけ」

「畏まりましたっ!」

「迷いねぇなあ……」


 今の疾に逆らったら死ぬ。そう悟った俺は、敬礼付きで返事をした。呆れ気味に呟く竜胆をスルーして、その辺のペンを拝借して呪術を組み立てる。


「させるとォ、思ってんのかァ、モルモットがァああ!」

「——ふはっ」

「ひっ!?」


 思わずと言った調子で零れた笑い声に、俺は悲鳴を漏らす。やっべ、危うく呪術途中でミスるとこだった。


「モルモット如きに踊らされるてめえの雑魚っぷりを思い知れよ、老害が」


 楽しげに毒を吐いた疾が老人の心をボッキボキに砕き壊すまで、俺と竜胆は何も見ぬフリ聞かぬフリで、ひたすら書類破棄に努めた。障らぬ疾に災厄なし。


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