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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第1章 鬼を狩るより帰りたい
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鬼狩りの正装は、怪しいです

 夜道をてくてくと歩く。疾はぺらぺら雑談をする性格では断じてないので、基本会話は俺と竜胆で進む。


「しっかし、お前らほんっとうに普段着だよな」

 呆れたように竜胆がぼやく。

「鬼狩りだぜ? こう、ちったあ闇に紛れて密やかにとか思わねーの?」

「真夜中に街灯が灯ってる街角で全身黒尽くめが彷徨いてたら、不審者以外の何者でもないぞ」

「そういうもんか?」


 納得いかない様子で首を傾げる竜胆も、俺の要求に応じてごく普通の衣服を纏ってる。傍目からなら、ただの20代男子が夜中に遊んでるようにしか見えない。


「職質されたら終わりだぞ? 俺ら高校生だもん、補導されます」

「補導ってなんだ?」

「あー……、警察に保護されて夜中に遊ぶなって叱られること」

 ざっくりな説明に、竜胆が不思議そうに首を傾げた。

「何だそれ、遊ぶのくらい勝手じゃねえの?」

「勝手じゃねえの。不便だろ」

「すげー不便。意味分かんねえ」

 きっぱり頷く竜胆に、前を歩いていた疾が振り返る。

「もし警察に補導される場合、竜胆が全責任を負う羽目になるから覚悟しとけよ」

「は? 何で?」

「未成年を夜中に遊ばせるのは無責任だのどうのと。ま、保護者同伴ならOKと見逃される可能性もあるが」

「……やっぱ意味分かんねえ」


 ほんの少し前まで日本の常識なんてものとは無縁だった竜胆には、ちょっとばかし難しいらしい。曖昧な顔でぼやいていた。


「にしてもなー……昔は鬼を追いかけてたら、不審に思った地元の術者が追いかけてきて捲くのに苦労するってのもあったんだけどな。だから闇に紛れやすい服を着ようってのがそもそもの意図なんだぜ?」

「へー」


 竜胆は半妖……ともちょっと違うな、遠い祖先に狼の妖がいたっぽい。神話で出てくるフェンリルだって噂もあるけど、遠すぎて本人もよく分からないらしい。

 しかも、先祖返りらしくその血を強く引いていて、うっかり半妖と呼んでしまうくらい妖の力が強い。そのせいか既に俺達の数倍は生きているとかで、たまにこうやって昔話をする。どうってこともない雑談だけど、なんか面白いんだよな。


「一番笑えたのは、俺ら追いかけてる術者を鬼が狙った時だな。鬼追いかける俺らを追いかける術者が鬼に追われてんの」

「なにその無限ループ」

 その有様をうっかり思い浮かべて吹き出した。やべえ、ぐるぐる回ってら。


「てか瑠依達、その辺気にしねえの? ここもいたろ、術師」

「逆に聞くけど竜胆、気にするだけ無駄だと思わないか?」

 首を傾げた竜胆に、びしっと疾を指差してみせる。

「そこにいるのは、術師の天敵とか言われて、それはもう盛大に嫌われてる疾ですが?」

「指さしてんじゃねえよ」

「いてっ」

 差した指を捻るようにはたき落とされた。それを見ていた竜胆が、苦笑を漏らす。

「何、術師とも喧嘩してんのかよ」

「あっちが勝手に喧嘩売ってくるから高値で買ってやっただけだ。雑魚共が喚いて自滅するのなんか、俺の知った事じゃねえよ」

「うーわ、歪みねー」

 揶揄すると、疾が振り返る。にこやかに笑って、言い切った。


「勝手に見下してくる奴を足蹴にして、何が悪い」


「……うん、清々しいほど性格の悪い発言をありがとう」

「褒め言葉だな」

 涼しげな顔でさらっと流した疾に、竜胆が軽く笑う。

「ははっ、お前余所でもこのまんまなのな。良い子ぶってても怖ぇけど」


 賑やかにのんびりと歩き回る俺達は、ま、確かに鬼狩りなんかには見えないよな。



 ……それはそうとして、まだ出ないんですかね、鬼は。



「えー……また空振りぃ……?」

「かもな」

 疾の相槌が入って、俺のテンションがダダ下がり始めた。


「めんどくせーなー」

「そうだな」

「ねみーなー」

「眠いな」

「帰りたいなー」

「全くだ」


「……なあ……お前ら……もうちっとこう、引き締まった感じになんねえの……?」

 竜胆が呆れきった声で割って入ってきた。額に手をやって何とも言えない顔で見下ろしてくる竜胆に、俺はくわっと口を開く。


「だってもう5日だぞ5日! 毎晩毎晩夜中に叩き起こされて、延々出もしない鬼を探して街中彷徨きまわって! せめてスマホゲーでもしたいのに、何故か直ぐ壊れるし! この1年で5台壊れたんだぞどうしてくれる! 帰りたいって思う俺は悪くない!」


「いや悪いから、仕事しろ仕事」

 竜胆の冷たすぎる返事に、俺はぐっと拳を握った。

「高校生の時分から仕事、これほどやるせないものはないっ!」

「力説すんな」

「いでっ!?」


 思いっきりデコピンされた。くわんって、目の前に星散ったし。


「オカンが冷たい……」

「だからオカン言うなって」


 憮然とした顔で言い返した竜胆が、ぴくっと鼻を動かす。さっと身を翻した。


「来たぞ」

「げ、マジか」

「……何で嫌そうなんだよ、空振りじゃなかったんだぜ」

 疲れたように聞かれたので、きっぱりと答える。

「仕事を目の前にして嫌がるのは人間の性だ」

「瑠依の業だ阿呆。——来る」


 竜胆が低く唸るような声を発したと同時、ゆらりとそれは現れた。


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