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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第5章 イベントよりも帰りたい
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相棒の休暇の過ごし方は、物騒すぎます

「おお豪華じゃん! いただきまっす!」

「はい、召し上がれ」


 一頻りオフトゥンとイチャイチャしてから夕飯に呼ばれた俺は、テーブルの上に燦然と輝くうなぎ丼に思わずガッツポーズ。よっしゃ、やっぱ常葉追い返して正解だった。


「……いただきます」

「雛、寝ながら食べるならご飯抜きよ」

「……ごめんなさい」


 年に数回の贅沢品だからか、珍しく姉ちゃんまで起きだしてる。うつらうつらしたせいで、お袋様にびしっと叱られたけど。


「うなぎ、だっけ……初めて食うな……」

「え、マジ? 勿体ねー」

 竜胆の言葉に驚いて横を見る。竜胆はうな丼をしげしげと眺めながら頷いた。


「昔の契約者が食ってたのは覚えてっけど、俺は別のもん食ってたし。やけに喜んで食ってたけど、んな美味いのか?」

「百聞は一見にしかず。フードバトル要素を事前に阻止した俺に感謝しながら食うと良い」

「フードバトルって……まあいいや、いただきます」

「はいどうぞ。口に合うと良いけれど」


 なんだか俺達と比べて3割増しで優しさを感じるお袋様の言葉を余所に、竜胆はいい加減慣れてきたらしい箸を使ってうなぎを解し、ぱくんと口に放り込んだ。

 名前と同じ色の目が丸く開かれる。


「……甘ぇ」

「タレの味だぞ?」


 がっつく合間に答えてやると、竜胆はぱちぱちと瞬いて、また一口。そのまままじまじとうなぎを眺めながらご飯と一緒に食べ始める竜胆に、ほくほくと告げてやる。


「どーだ美味いだろ! 日本人が愛しまくってるうなぎ丼は最高です」

「……うん、美味いな」

 割と夢中らしく、返事まで上の空だった。それを見るお袋様、目がちっさい子供を眺めるかの如く暖かい。


 そのまま殆ど口を聞かずにうな丼をがっついた俺達は、あっという間に丼の器を空にした。


「あー美味かった、ごちそーさま母さん。やっぱ土曜丑の日はうなぎだよな」

「毎回は無理よ? 最近高いもの。でも竜胆君もこんなに喜んでくれるなら、また買っちゃおうかしら」

「え、いや別に、」

 慌てて竜胆が手を振ったけど、お袋様はとうに俺らの皿を洗いに台所に去っている。聞く気なしの様子に困惑する竜胆はほっといて——お袋様は世話焼きが好きなんだから良いんだって何度も言ってるしな——、テレビのリモコンをぽちっとした。


 つまらなさそーなバラエティやらドラマやらを飛ばして、行き当たったのはニュースだった。消そうかと思ったけど、あと10分もすれば漫才の番組が始まるのでつけっぱにしておく。

 梅雨明けがどーの、国会がどーのとものっっそい興味の無いニュースをぼへーっと聞き流していた俺は、新しい紙を受けとったキャスターさんの言葉に吹き出した。


『——続いて緊急ニュースです。イタリアで世界文化遺産に指定されている建物が何者かに爆破され、倒壊しました。ここ最近、立て続けに活動を行っているテロ一派の仕業と考えられており、政府は声明を待っていますが——』


「ぶふっ」

「……きたない」

 珍しくまだ部屋に上がらない姉ちゃんが眉を顰めてるけど、それどころじゃない。改めてテレビ画面を確認する。


 画面の中では、最近被害の出ている建物が順番に取り上げられ、その距離の遠さと関連のなさ、時期の集中度合いから、犯行が組織だったものであり、テロである事はほぼ間違いないだろう……なんて言っているけども。


 こう、なんつーか。


『幸いにも被害人数が少なく、爆破の瞬間に通りかかったものが軽傷を負った程度なのが奇妙と言えば奇妙ですね』

『今までのテロらしくありませんね。建物に絡めた何らかのメッセージが——』


 とかなんとか、言われてるコメントと合わせるとさ。こう、くっきりはっきりどこかのお顔が浮かぶなあとか思うわけだ。丁度、俺に仕事を押っつけた辺りからスタートしてやがるし。



 ホント、何してんだアイツ。単騎でテロリストとかおっかねえにも程がある。



「……計画的な個人犯。頭が良い」


「へ?」

「ね、姉ちゃん?」

 唐突に口を開いた姉ちゃんの言葉に、竜胆と俺は驚いて顔を上げた。眠たげな顔のまま、姉ちゃんは続ける。


「通りかかった人全員が偶然無事なんてあり得ない。爆破の場所や方向を考えてやってる。それに、襲撃の順番が、警戒する側の裏をかく事を徹底したらってだけをシンプルに方程式にして組み合わせたら、こうなる。でも実行は難しい。立案者は相当腹が据わってる」

「……へ、へえ」

「でも雛、移動が厳しいって言っていたわよ? 警備の目をくぐって逃走しながらではとても間に合わないって」

「個人的な移動手段、例えばヘリがあれば問題無い。それにそうじゃなくても移動する手段はある。でしょ、瑠依」

「へっ!?」


 とろんとした眼を向けられて、びくっと肩を上げる。軽く首を傾げて、姉ちゃんは相変わらずぼーっとした口調で言った。


「瑠依が鬼狩りしてるみたいに、魔術師がいるなら、所謂テレポートも可能。違う?」

「……相当、レベル高ぇけど、ハイ」


 俺はとても無理だけど、出来る方々は存じ上げております、身近にもな。……てか、どうした姉ちゃん。


「だったら問題無い。怪我人0も、魔術師が隠れてて病院に行かなかったなら頷ける。一般人の被害がゼロというのもテロとはそぐわない。愉快犯にしては意図を感じる。だから頭脳と行動力のある個人犯。あと、瑠依の知り合い?」

「ハイッ!?」

「あら、そうなの?」


 お袋様は暢気に聞いてくるけど、ちょっと待って欲しい。姉ちゃん怖い、何急におっかねえこと聞いてくるの。


「瑠依がテロ如きで吹き出さない。台風が来たってどうせ迂回するとか言って動揺しない。なら知り合いの仕業。と思ったから鎌掛けてみたけど、正解」

「ごふっ」


 完全にしてやられて、俺はテーブルに沈没した。ちくせう、勝てる気がしない。


「会ってみたい。久々に面白そう」

「……やめとけ、姉ちゃん。俺はこれ以上命の危険に晒される身内を庇える自信がありません」

「瑠依に守ってもらえるなんて欠片も思ってない」


 そう言って、姉ちゃんはすーっと立ち上がって階段の方へ向かった。どうやら寝るらしい。爆弾だけ落として去るとかやってくれる。


 後に残された俺を見て、竜胆がぽつりと呟いた。


「瑠依の周りの人って……何か、すげえな」

「全然嬉しくないです竜胆さん……」



 あぁ、オフトゥンに帰りたい。



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