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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第5章 イベントよりも帰りたい
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体育祭は変態の為にあるそうです

 もし、突然仕事を長期的に休める機会が転がり込んできたら、どうする?


 人によってそれぞれだろうな。わざわざ外に出かけて人に会う奴とか部活行く奴とか、ただ単に遊びに行く奴とか。物好きにも程があるだろ? って思うけど。

 当然俺はオフトゥン一択。折角自分の時間を確保出来たなら、一目散にオフトゥンダイブしてごろごろいちゃいちゃするのが人生の至高だ。目が覚めたあともオフトゥンを堪能出来る幸せと言ったらない。寧ろその為に平日学校に行くと言っても過言じゃない。睡眠欲は人間三大欲求の1つだからな、当たり前だけど。


 まあそんな感じで、休みが手に入ったら自分にとって嬉しい事、有意義な事をしようとするよな。逆に言えば、休みの過ごし方こそ個性が出るとも言える。


 つまりだ、俺が何を言いたいかといえば——


「くっそ、そうかこの時期だったか……!」

「……いきなり何言ってんだ、瑠依?」


 ——口八丁手八丁で俺に仕事を押しつけて休みをもぎ取った疾が「この時期に学校を休む」ってのは、ものすげえ説得力だったって事だ。



 休み明け。絶望の呻き声が響くテスト結果返還を繰り返すこと5回、ようやっと迎えた最終時間。LHRとだけ書かれててなんだっけなー、とテスト結果から逃避するように思っていたのは、チャイムの後で入ってきた担任の一言を聞いて机に突っ伏すまでだった。



「あー、覚えてると思うが、そろそろ体育祭が近い。よって、今日はクラスで話し合って出場種目を決めるように」



「たいいくさい……?」

 不思議そうに首を傾げる竜胆——わりい、忘れたかったんだ——を余所に、俺と辻山は絶望顔を見合わせた。

「来たかこの季節が……」

「くっそ、今年は同じクラスかよ……」

「は?」


 怪訝そうな声を上げたが竜胆、直ぐに分かるとも。ほら今担任が話し合い丸投げで職員室に帰っていったろ、後数秒以内に——



「キタキタキタキタぁあああああ! 私の聖☆典!!」



 ——常葉あほがテンションうなぎ登りで叫ぶからな。



「!?」

 びくうっと竜胆が肩を跳ね上げる。同じような反応をしているクラスメイトがちらほらいるけど、あいつ等はクラスも組も遠かったんだろうな。羨ましい、そしてようこそこちら側へ。

 尚、去年の暴走を知っている連中は、虚ろな顔で常葉のガッツポーズを見上げていた。今年もすまん、頑張ろう。いや帰ろう。


「帰すか!」

「ふざけんな伊巻、奴はお前の担当だろうが!」

「違うし!? ってか服を掴むな引っ張るな俺は帰る!」


 すーっと腰を浮かせてドアに向けて避難しかけた俺を、非道にもクラスメイト達ががっちり掴んで引き留める。やめろ、制服を引っ張るんじゃねえ。


常葉アホが迷惑を掛けるのは悪いけどっ、俺に責任の所在を求めるなし!」

 そうやって意味の分からない責任転嫁や、謎の使命感を与えて仕事やらざるを得ない空気を作るから、世の中訳の分からん残業が多いんだって親父様が言ってたぞ。


 というか、常葉の担当とか冗談じゃない。普段ならともかく、マッハ状態の馬鹿へんたいとか、荷が重すぎるってかぜってー無理。


「さぁ男子共! 騒ぐのはお・わ・り♪ いざ、夏の聖典に向けて鍛えて貰うからね☆」

「鍛える!?」

 案の定な事を言い出した阿呆に、竜胆がびっくりした顔をした。うん、気持ちは分かるけど落ち着け? 流石に鬼狩りみてーな訓練じゃないからな? ……ある意味、そんなのより遥かにえぐいけどさ。


 ひとまず、俺を逃がすまいと団子状態になった男子の群に竜胆を引っ張り込む。困惑した顔の竜胆に、俺達は口々に説明した。


「すまん竜胆、記憶の1番底に厳重に鍵してたけどな。体育祭ってのは、かけっこやら綱引きやら玉入れやら、そういう運動競技でチーム戦するよーなイベントだ」

「はあ……いまいち想像つかねえけど」

「よーするにチーム戦で体育でやってるゲームすると思えばよし。ポイント制で最高得点取ったチームが勝ちだ」

「あー、ちっと分かった。で、﨑原さんは一体……?」


 途端、現実を知る男子がふっと顔を俯かせた。


「え、何だ、怖ぇぞ?」

「竜胆、全部とは言わん、幾つかの競技だけだからな。恨むなら伝統を重んじるうちの教師陣を恨め」

「は?」

「それな」

「アレを爆笑するだけしてスルーした体育教師ゴリラとかマジ殴りてえ」

「他人事だと思って無責任すぎる」

「俺達の青春を真っ黒に染められるとか辛すぎる」

「は……え?」


 混乱している竜胆と、ついでに去年の惨状を知らないクラスメイト達に、俺達はポン、と肩を叩き。


「騎馬戦と組み体操、棒倒し。これら人数をやたら食う競技に限って……上半身裸なんだ」


「…………何で?」

『知らん』

 いつの世も、理由の分からない理不尽なルールというのは存在するんだよ、竜胆。こうして日々帰りたくなるんだ、俺悪くない。


「取り敢えず、あとはお察しだな? 常葉だぞ、馬鹿だぞ? そんな奴の前で服を脱ぐとか……いや今年は竜胆がいるけど」

「え、おい瑠依、それって」

 やっと察した竜胆が慌てた顔で掴み掛かろうとしたけど、クラスメイトが囲む方が早かった。


「ホント竜胆いて良かったぜ」

「いなかったら今年こそ波瀬誘拐計画が発動してたな」

「マジでそれ。少しでも俺らの負担を減らす犠牲者いけにえは超大事」

「つーかぴったりのタイミングでサボった時点で確信犯だし、良心の呵責ゼロ」

「……いや、それは……やめたほうが……いいと思うぞ……?」


 そうだな、それは俺も思う。何も知らないクラスメイト達の発言だけで、俺とか背筋が凍り付く。知らないって凄えけど、聞いてるだけで超怖いからやめて欲しい。


 幸い彼らが地獄への片道切符を購入する事はなかった……けど、なんつーか。


「だよな、だが安心してくれ。今年はそんな事しなくても……」

 今やがっちりと肩を組まれた竜胆は、ちっとも目が笑ってない男子勢に、頬を引き攣らせた。


「竜胆は、俺達を見捨てないよな?」

「え、い、いや……」

「見捨てない、よな?」

「……見捨てねえってか、めちゃくちゃ拘束してるだろ……」


 がっちりと肩やら腰やら掴んで逃がすまいとしている周囲を見回す竜胆は、その気になれば楽勝で振り解けるんだけどな。こう、おかん的な血が騒ぐのか、そんな事も出来ずにおもっきし引き攣った顔で聞いた。


「なあ……俺に拒否権は……」

『ない!』

「みてえだな……」


 がっくりと肩を落とす竜胆には気の毒だけど、ま、全員のメンタルが削られるのはここからだしな。


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