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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第1章 鬼を狩るより帰りたい
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鬼狩りは割と何でも屋です

 鬼狩り。


 絶望や憎悪に心を染めて人をやめた異形おには、理性を失い、憎しみの対象を失い、やがて憎悪に引き摺られるままに無差別に人を襲う。

 そうして本人にも止められなくなってしまった暴走を止めて、冥府に送る。それが俺や竜胆、そして俺に蹴りをかましてくれた疾が受け持つ仕事だ。


 といっても、今時恨み辛みで暴力に訴えようなんて鬼は絶滅危惧種だ。そりゃ現代社会、金や権力の力に頼る方が早いよな。

 ところがどっこい、人の感情が淀む吹きだまりってのはどこにでもある。大体が心霊スポットになってる、アレな。そこを根城にした、夜の住人たる妖が変貌を遂げちまった。

 なんだったかな……色々と小難しい理屈は前に聞いたけど、さっぱり理解出来なかったので省略。取り敢えず、妖怪が鬼になったと思えば良し、うん。


 ……人間が鬼になったって厄介だっつーのに、元々パワーのある妖が鬼になったんだ。そのヤバさ、想像してくれ。


 それまで妖を対峙してた手段が全く通用しないってんで、どんどん被害が出た。それで、鬼狩りに声がかかったって訳だ。

 ま、長々説明しちまったけど、よーするにあれだな。「鬼」にカテゴライズされそうなヤバイ化け物は、全部俺達の担当ってこった。めんどい。

 鬼が出るって連絡が入ると——どうやって分かるのかって? 知らん——、その場所辺りを見回るのがお仕事。後は定期的な見回りとして、新月の夜は義務だ。


 ここ5日、鬼が出るって連絡があったにも関わらず空振りの連続。おかげで毎晩寝不足だぜ? 出るの渋った俺悪くない。


「竜胆が俺と契約してる理由? そりゃー俺が序列1位の呪術師だからだな!」

 竜胆の今更な疑問に胸を張って答えてやる。すかさず返ってきた言葉は、冷凍庫並に冷たかった。

「人ひとり満足に呪えない半人前だろ」

「疾が序列1位とったようなもんだしな」

「やかましいわっ」

 ぎゃあと叫ぶも、2人とも涼しい顔。くそう、竜胆まで冷たくなってきた。


 序列1位はまんま、鬼狩りのトップだ。条件が揃うとスタートするガチンコバトルの勝者が得る称号を、ひょんなことから俺が持ってる。

 ……ひょんなことからってか、前の序列1位に疾が盛大に喧嘩売ってボッコボコに叩きのめし、その後ガチンコバトルで他の鬼狩り達を文字通り地面に這いつくばらせ、そこまでやらかしといて竜胆を「いらない」とか言いだしたからなんだけど。


 序列1位に与えられるのが、竜胆と契約する権利だったりする。ので、疾と組んで働く俺に、その権利と肩書きが名目上与えられた訳だ。

 そんな名誉扱いな竜胆だけど、経緯が経緯だからか俺への敬意は地を這ってる。あ、今上手く言えた。


「ああ、新米の俺達を優しく導いてくれた頼りがいのある先輩が、今や口うるさいオカン……」

「誰がオカンだ。つか、誰のせいで口うるさく言う羽目になってんだ。局もびっくりだよ、俺が目覚まし代わりとかありえねえ」

「理由がアホすぎてあの局長が絶句してたな。あの顔は実に見応えがあった」

 人の悪い顔で笑う疾を見て、竜胆が苦笑する。

「あー、積もってんなあ恨み辛み。すっげえ分かるけど」

「たりめえだ。あのクソ局長いつか地べた舐めさせる」

「……疾が恨むべきはその上なんじゃ……」

「何か言ったか雑魚呪術師」

「イエナンデモ」

 すちゃっと片手を上げて、八つ当たりを回避する。


 俺も驚いたけど、冥府ってお役所みたいなんだよな。鬼狩りはその中でもちょっと変わった、冥王の直轄局。……サムいワードの連続が辛い。

 で、今の局長は非常に優秀なんだけど、なんつーか、かなり癖がある。ぶっちゃけ変人、奇人、何考えてるか分からない謎の人。噂されてる武勇伝は数知れない。

 俺もあの人苦手だけど、竜胆や疾はどうも相性が悪い。いや疾は鬼狩りのほぼ全員と仲悪いけど、局長とは顔合わせる度にどつきあいになるんだよな。体張って止めに入るけど、竜胆はともかく疾はそんなことじゃ遠慮しません。ひでえ。


 けど疾が恨むべきは、更にその上司、冥王の直轄部下? みたいな人だ。俺の目の前でそのお方は、疾を無理矢理引っ張り込んだ訳だし。

 ……いや、あれは俺も引いたよ? 目の前で行われた外道の行いにどん引きしたとも。あれだけは同情する。

 まあその辺の事情は省くけど、とにかく疾が恨むのはそっちじゃねえかなーと、いつも不思議な訳だ。理由なんか教えてくれねえけどさ。


「てか、俺別に雑魚じゃねえし。疾みたくぶっ壊れじゃないだけだし。呪術ならその辺の奴には負けねえし。ただし呪いは除く」

「何度聞いても矛盾してるな」

「最初3回くらい聞き返したもんな」

 しみじみと頷き合う疾と竜胆が憎い。ええい、ほっとけ。

「だって怖いじゃん! 呪いだぞ、ホラーに出てくるようなデロデロ死体とか作れちゃうんだぞ!? 誰がやろうと思うよそんなもん!」

「呪術師、つまりお前」

「怖いから絶対にやらない!」

「……やっぱ理解出来ねー……」


 竜胆が呆れきった声を上げ、未だ地面にへばってた——疾の蹴り痛すぎる——俺を軽く突いた。

「おい、そろそろ行くぞ。なんか来る気がする」

「竜胆が言うなら確かか、ならさっさと終わらせるぞ」

「……なあ竜胆、その勘が働く時だけ見回ればよくね?」


 絶対に当たる竜胆の勘だよりで仕事したい俺の言葉に、竜胆はにっこり笑って、ぽんと頭に手を置いてきた。


「そうはいかないのが仕事ってもんだぞ? 瑠依」

「理不尽! 帰りたい!」

「ハイハイ、行くぞ。多分あっち」

「おう」


 俺の魂の叫びを軽くいなし、竜胆と疾がさくさくと歩き出す。置いて行かれた、よし帰るか。


「瑠依? また空の散歩するか?」

「地面をしっかと踏みしめて歩きます!」

 すかさず飛んだ竜胆の脅しに、俺は良い子のお返事をした。


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