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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第4章 何でこんな主なんだろう。
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随分変わったなあ。

「あっ、ツェーンだ!」


 俺達強化体が居住する寮に併設するスペースに足を踏み入れるなり、子供の声が俺を認めた。一瞬部屋が静まりかえり、わっと騒がしくなる。


「ツェーンだー!」

「わーい、やっときた!」

「遅いよばかー!」


 一目散に駆け寄ってくるチビ共は、殆どがまだ耳や尻尾が出っぱなしだ。ぶんぶんと振られている尻尾に思わず苦笑を漏らしつつ、体当たりをかましてきた2人を抱き留める。


「だから学校で試験があるんだっつったろ」

「だってずーっと来なかったじゃん!」

「あー……それはそうだけどな」

 元気よく反論され、俺は言葉を濁した。そりゃ瑠依と契約してから2ヶ月、1度も顔を出してなかったしな。


「学校に慣れるので精一杯だったんだよ」

 取り敢えずそう、誤魔化しておく。実際は瑠依が家に帰りてえ布団から出たくねえと駄々を捏ね続けるせいで、ゆっくり局に顔を出せなかったからだが。


「むー、ツェーンのけちー」

「いっぱい見せたいものあったのにー」

「悪い悪い」


 軽く謝って、抱き上げていたチビ2人を下ろす。そのままくいっと耳を引っ張ってやった。


「それはそうと。お前らそろそろこれ、何とかしろよ?」

「うっ……うっさいな! むずかしいんだよ!」

 顔を赤くして反論するチビの犬耳がぴんっと立っている。他のチビ共もそわそわと尻尾や耳を動かしていた。

「大人になれねーぞ?」

 くつくつと笑ってそう言ってやると、全員がわあわあと喚きだす。


 強化体は大抵が妖の先祖返りか、特殊な異能持ちだ。そのせいか、ガキの頃は人の姿ながらも耳や尻尾が残ってる奴が多い。異能持ちも仲間達の風体に引き摺られる・・・・・・のか、大体何らかの獣耳・尻尾をくっつけている。

 そして、妖が一人前と認められる条件に人化を完璧にこなすってのがあるせいか、強化体である俺達もそれを重んじる面がある。大人になるまでには無理なく隠せるようになるのも理由の1つか。

 よって、大人に憧れる年頃からは、耳や尻尾を隠そうとしては失敗するを繰り返すことになる。上手くいかないのが恥ずかしくなってくる頃には、大体は後もう一踏ん張りだ。言わねえけど。


「ま、頑張れよ」

「う〜〜……っ」

 悔しげに唸るチビに笑いかけ、さてと周りを見回した。

「1時間くらいなら付き合えるぞ? 何するんだ?」


 途端に隠したがってる耳を立てて目を輝かせるんだから、苦笑いも漏れる。


「鬼ごっこ!」

「プロレス!」

「べんきょー教えて!」

「ほんよんでー!」

「あーはいはい。順番だからな」


 一斉にねだり始めたチビ共を宥めながら、これはちょっと1時間じゃ収まらないかもしれねえと、心の中で疾に手を合わせつつ腕まくりした。





 きっちり一時間後。チビ共は口々に礼を言いながら、あっという間に引き下がった。かつてない聞き分けの良さに唖然としていた俺は、袖を引っ張られて視線を落とす。猫耳の5歳くらいのチビが、絵本を胸に抱えるようにして俺を見上げていた。


「ツェーン、ごほんよんで」

「あ、ああ。ちょっとだけな」

 寮の中で最年少のチビは、今まで他の奴らの勢いに負けてねだれていなかった。少しくらい良いだろと、胡座をかいて本を開く。膝に上ってきたのを支えながら読んでやった。


「ありがと。じ、はやくよめるようになりたい」

「もちょい大きくなったら習おうな」

「がっこう、らいねんから」

「あ……」

 その答えに、思わず言葉に詰まった。チビが、怪訝そうに顔を上げる。

「ツェーン?」

「……なんでもね。そういや、色々変わったんだなって」


 俺達がガキの頃は、ひたすら訓練に明け暮れていた。文字の読み書きを学び始めたのは、それこそ耳やら尻尾やらをちゃんと隠せるようになってから。読み書きと、冥府局で働いていく為に必要な最低限の知識。それだけを、学ぶのが精一杯だった。

 だけどこいつらは、それこそこんなちっこい年から、系統だって勉強する。他のチビ共が一目散に戻ったのも、自由時間が終わって学校に戻るため、か。


「そういや、もう名前もらったか?」

「もらわない」

「は?」

 話題を無理矢理変えようと投げた問いに、またも予想外の返答。目を見開いた俺を見上げて、チビは言った。

「じぶんで、きめろって。そのほうがあんぜんって」

「…………」

「だから、ほんとうはツェーンもツェーンってよぶの、だめ」

「い、や……俺は」


 瑠依が目の色だけで速攻で決めてくれた仮初めの名は、嫌いじゃねえけど。強化体として、チビ共に呼ばれるのは「ツェーン」が妥当だと思っている。


「でも、ツェーンのおかげ」

「え?」


「ツェーンががっこういってるから、わたしたちもひつようならいけるようにって、かわった」


「っ!」

 目を見開いた俺に、チビはにこりと笑った。


「ありがと。みんな、たのしい」

 本当に嬉しそうなチビに、辛うじて笑い返した俺は、膝にちょこんと座っているチビを抱き上げてそっと下ろす。


「ツェーン?」

「ん。ちょっと、先生に挨拶行ってくるな」

「うん。いってらっしゃい」


 当たり前のように投げ掛けられた挨拶に、淡く笑って頭を撫でてやる。俺達が知らなかった事を学んでるチビを褒めるのは、当たり前だ。


「ああ、行ってくるな」

 柔らかな声と表情で褒めていることを伝えて、俺は寮の最上階目指して歩き出した。


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