少しくらい省みろ。
「……とりあえず、瑠依んちの人間が瑠依みてえな人ばっかだっつーのは分かったけど。じゃあ何で瑠依は努力しねえの?」
「さらっとひっで!?」
「え、この話の流れで否定するのか?」
「無理がある。拓を見習え」
「うぐう……」
雛さんの淡々と……というか、眠たげな口調で繰り出された一撃に瑠依が沈む。とりあえず、初めて耳にした単語を拾って聞いてみる。
「ええと……その、拓さん? ってのも、親戚ですか?」
「ん。現在行方不明」
「…………ええと」
さらっと爆弾発言されて、返す言葉を失う。何、どうすれば良いんだこういう場合。
「ついでに彰もいねえけどなー。2人揃って家に帰らないとか何してんだろーな」
「……何でそんなに軽いんだよ……」
脳天気な瑠依の言葉に、脱力気味に言葉を吐き出す。菫さんが深々と溜息をついた。
「もうね……心配はしているのよ? 私も何度も励ましに行ったり、捜索を手伝ったりしたし。けどねえ」
「あの2人ならいつかぜってー帰ってくる。寧ろ帰らないという選択肢が存在しない。オフトゥンの為に全力を尽くしてるあいつらを心配する必要なんて皆無」
「瑠依に同意」
「……こんな感じで、なんだか皆さん本気では心配していないのよ」
「ははははは……」
乾いた笑い声が俺の口から漏れた。何だろう、この虚しい感じ。ああうん分かってる、つくづく何でこんなのが主なんだって思ってるだけなんだけど。
「……ちょっと疾の気持ちが分かった」
「何でだよ!?」
本人気付いてないけど、疾が瑠依に対して特に辛辣になる気持ちが少し理解出来た。愕然と目を見開く瑠依は無視だ。
「ちえ……まーあいつ等帰ってきたら、取り敢えず言いてえこといっぱいあるけどなあ。帰宅の報せ入ったらぜってー突撃かます」
「突撃されるの嫌で、自分からこっち来ると思う」
「あー、いかにもやりそう」
雛さんの言葉に感心したように頷いた瑠依に、何となく聞く。
「言いてえことって、心配かけんなとか?」
「まあ、それも一応? でも一番は「何故2人同時に消えやがった、俺のオフトゥン返せ!」だな」
「は?」
またなんか意味の分からねえことを言いだした瑠依は、けど珍しく目が据わっていた。ぐっと拳を握り、言う。
「ふっふっふふふ、鬼狩りなんて最大級の厄介事を華麗に回避しやがって。どこまでも要領良くって死ぬ程羨ましいぞ畜生、俺のオフトゥン生活返せ」
「は……? どういう事だ?」
心臓が嫌な音を立てる。無意識にテーブルの下で拳を握りながら、俺は続く言葉を待った。こっちの緊張なんてつゆ知らず、瑠依が暢気に答える。
「あれ、言ってなかったっけ。俺の一族って誰かしらが鬼狩りに選ばれてたらしいんだよなー。で、前は彰の親父さんがやってて、次の候補は彰だったらしい。その次が拓。俺は候補にすら挙がらなかったらしーぞ」
「鬼狩りって何か知らないけど、瑠依が出来るとは思えない」
「ねーちゃんそれは酷すぎね? ……んで、いざ代替わりしよーって所で、彰と拓が立て続けに失踪。見つかる気配も無くて困り果てたフレア様が、しゃーないってんで俺にしよって決めたらしい? 詳しい手続きはしらね」
「……局長が」
「フレア様ちょーおっかねえの、俺に拒否権なんか存在しませんでしたよーだ。オノレ彰と拓、帰ってきたらぜってー死ぬ程愚痴ってやる」
暢気かつ力強く主張する瑠依を余所に、俺は迷ってた今日の予定を確定させる。それはそれとして、1つだけ訊いておく。
「なあ……それさ、2人が帰ってきたら交代すんのか?」
「へ? 無理じゃね? 疾が今更他の奴と組むとも思えねえし、竜胆もいるんだし」
あっけらかんと言い切られて、苦笑が滲んだ。本当に、瑠依はどこまでも都合が良い。
「何より今更超優秀な目覚ましもといおかんの竜胆を手放す理由は俺には無い!」
「そーか、月曜が楽しみだな」
「待って、竜胆さんそれどういうこと!?」
軽口を叩いてから、俺は立ち上がった。
「さてと、俺は局に顔出してくるなー」
「へ?」
「ほら、この間チビ共が駄々こねてただろ。試験終わったら遊んでやるって約束させられちまってさ」
「おおー流石、みんなのおかん」
「瑠ー依ー?」
「だだだだだ痛いいたい痛いです竜胆さん!?」
顔面掴んで力込めてみたら、思いの外効果があったようで盛大に悲鳴を上げた。馬鹿になってもマズいし、今度から拳骨落とすよりもこっちが良いか。
「で、今から行くんだけど瑠依はどうする?」
「訓練行って酷い目遭ったばっかだから俺は断固としてオフトゥンから離れないっ!」
「はあ……予想通りとは言え、ほんっと瑠依って……」
「布団に潜るのは自然の摂理」
「ごめんなさいねえ、竜胆君」
雛さんの返答に被せるように菫さんが謝ってくる。苦笑混じりに手を振ってみせ、まだ呻いてる瑠依に1つ頼んでおく。
「んじゃ、疾にメール打っとけよ」
「へ? あいつがそんなん付き合うわけねーじゃん?」
「まあまあ、一応よろしく」
「えー……何かやな予感がするんだけど」
それは多分、当たってる。
「ま、よろしくな」
「うえー……」
嫌そうな顔ながら端末を取り出した瑠依を尻目に、俺は1度部屋に上がって出かける準備をしに向かった。
「待って何で対価の話になんの!? 電話……電源切ってるし!!」
そんな絶叫が階下から響く中、俺は素知らぬ顔で窓から出発した。たまには布団に潜ってばかりの自分を反省しろ。