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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第3章 テストとか本当に帰りたい
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帰る為なら若干鬼畜を見習おうと思います

 勿論疾の口撃に勝つ術なんかあるわけもなく、「致死級魔術から命を救ってもらった対価」として、更に鬼狩りの見回り1月分が追加された。3ヶ月もオフトゥンできる権利とか、羨ましすぎる。


 ……というかなんで俺が対価払う流れになってんだろうね、超不思議。元々は疾を狙った魔術師に俺ら巻き込まれただけじゃん、完全に被害者じゃん。普通は巻き込んでごめんって謝られるトコじゃね?

 まあ疾が普通のカテゴリに入るなんてありえないのだからして、諦めるしかないんだけどさ。くっそ、なんで正義はこっちにあるのに気付いたら言い負けてんだ。


 そしてそんな無茶を押し通してくれた当の本人はといえば、未だに気を失ってる——というかあの踵落とし、普通に命に関わる怪我になってそうだけど大丈夫か——魔術師の頭に手を当てて、何やら怪しげな魔法陣を発動してる。

「はん、あいつらか。まだ身の程を弁えねえとか驚きだぜ。……いや、こんなの雇わなきゃならねえほど追い詰められてるとすれば……よし、潰せるな」


 ……何か聞こえたのはスルーしようぜ俺。もし今後どこかの建物が消え去ったって、別に俺なんも関係ないもんな、うん。


 その後も小さく独り言を呟いてた疾は、最後に一際強く魔法陣が輝いて消えると身を起こした。

「さて、帰るか」

「いやいやいやいや」


 くるりと踵を返して帰ろうとする疾を慌てて止める。怪訝そうに眉を寄せて睨んでくるけど、それはなかろう。


「この後始末どーすんだよ、まさか放置って訳にはいかないだろ」

「あ? 問題ねえよ、ほっとけ」

「お前マジで人間に戻ってこい!?」


 悪魔モードからせめて普段の鬼畜モードに戻ってきてくれと。そろそろ俺の心臓が持たないから、安心してお布団は入れるように、ほら戻ってきて?


「あのな……敵に情けをかけたいなら余所でやれ。こんなんにつけ込まれるのは御免だ」

「いやつけ込まれるってか、最低限人間としての良心をだな」

「いるか、んなもん」


 何と言うことでしょう。潔すぎる鬼発言に、もう俺の語彙力じゃ言葉が出てこねえ。


「とはいえ、このまま放っとくのはまずいんじゃねえの? 騒ぎになるだろ、これ」

 竜胆が疑問を投げ掛けると、疾は肩をすくめた。

「それは問題無し。人払いの結界は張られてたみてえだが、魔術の気配くらいこの街の術者でも感知できる。適当に回収して片付けるだろうよ」

「丸投げかい」

「それがあいつ等の仕事だ、俺が肩代わりしてやる義理なんざねえな。つーわけで、尋問されたくなきゃとっととずらかるぞ」

 こっちの返事も待たずに疾は踵を返した。慌ててその後を追う。


 ……いやだってさ、このまま残ってたら俺らが犯人じゃん? 流石にそこまで理不尽な扱いされるのはごめんです。

 荒れ果てたアスファルトの道を見なかったことにしてさっさと退散しようとした俺らだったけど、今日はとことん付いてなかった。


「待て! そこの者達、そこでなにをしてる!」

「げ」

 鋭い声が背中にかけられて、思わず呻く。咄嗟に振り返ろうとしたんだけど、

「ほっとけ雑魚だ、時間かかるだけだぞ」

「よっし帰ろう! 全力で!」

 疾のこれ以上ないほど親切な助言に素直に従った。帰る為だからな、しょうがない。


「おい、そりゃねえだろ」

「いーや、よく考えろ。この厄介事に関して、俺は全く関係ない! なんもしてないんだから何をしてると言われても答えられねえし!」

「いやまあ……そう、だな?」

 曖昧な相槌に、俺は力強く結論を述べた。


「けどっ、んなもん納得してくれねえじゃん、というかしてくれなかった! 答えようもねえ尋問に長々と拘束された挙げ句に記憶消されるフラグとか御免だし、そもそも帰れないっ! 俺はそろそろ切実にオフトゥンが恋しい、だからガン無視で全力でお家に帰るんだい!」


「……そうか。盛り上がってるトコ悪ぃんだけどな。さっきからあっちの人、おまえの言葉聞いて震えてるぞ? 帰れるのか?」

「げっ」

 振り返ると、まさに声の主と思しき和装のおにーさんが、顔を赤くして何やらお札を取り出すところだった。やっべ、あれはまさしく術を放つ為の道具!


 慌てて周囲を見回すも、辺り一面アスファルトはどろっどろで慎重に歩かねえとすっ転ぶような足場だし、頼りの疾さんは……待って、どこ行ったの?


「置いてかれたとか酷くね!?」

「いや、この場合は力説してるのにあの人が気を反らした隙に逃げたって感じじゃねえのか?」

「人身御供かひっで!」

「いやあ、自業自得じゃねえかと……」


 ぎゃあと喚く俺に対し、竜胆はどこか冷淡だ。くそう、おかんが冷たい。そもそも主の危機だぞ、もうちょい緊張感持ってください。


「逃げられると思うなよ……!」

 そうこう言い合ってるうちに、術が完成したらしい。周囲に鋭く尖った氷を浮かばせて、俺達にロックオン。……なあ、それ当たったら俺軽く死ねるよ? 捕まえるとか言うレベルじゃなくね?


「さあ竜胆、主を守って逃げてくれ!」

「はあ?」

「こんなのと戦ったら帰りが遅くなるじゃん! 帰るぞ帰りたい帰ろう!!!」

「……はあ……」

 呆れきった顔で溜息をついた竜胆が、ひょいと俺を小脇に抱える。わあ、なんかこれ懐かしい……じゃねえ!?

「だからこれやめて!? せめて肩に担いでくださいお願いしますってぎゃあああ!?」


 新たに道路が破壊される音と俺の悲鳴が、暮れなずむ街の一角に響いた。


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