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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第3章 テストとか本当に帰りたい
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敵に回すとこうなるそうです

「……それでは今回初めて見た暴れっぷりについて、感想をどうぞ」

「うわあ……」

 問いかけた先、竜胆はどん引きしていた。それはもう、心底引いていた。ほら見ろそうなるじゃねえか。


 現在、俺は竜胆に小脇に抱えられたままだ。しょっちゅう流れ弾が飛んでくるんだもん、仕方ねえよな。疾に仲間を守るなんて、発想からないんだぜ? 自己防衛大事。


 その疾はといえば、それはそれは楽しそうに敵をいたぶっている真っ最中だ。


「おら、最初の威勢はどうした駄犬。調子乗ってる俺に灸を据えるんだろ? 遊んでないで本気を見せろよ」

 活き活きと嘲笑う疾はまだまだ余裕そうでいらっしゃる。両手に銃を構え、見下すように相手を睥睨している。

 対して、既にローブがズタボロになってる女性の方は、心なしか涙の滲んだ目でキッと疾を睨み付けた。何も言わず、杖を振るって炎を生み出す。


 地面をマグマにしてしまうほどの脅威だったそれは、彼女の心情を示すような小さく弱い火球になっていた。それを見て疾が鼻で笑う。


「ちゃちいな」

 揶揄と共に、疾が銃を撃った。弾が直撃した炎玉があっさりと砕け散る。顔を歪めた女性をまた鼻で笑った疾は立っていた塀を蹴り、無造作に距離を詰めた。


「っ、くそっ!」

「はっ、へったくそ」

 がむしゃらに振るった杖は当然のように空振り、そのまま掴まれた。動きを封じられた女性は顔に焦燥を浮かべるも、行動に移るより早く。



「へっぽこ魔術しか生み出せない上、ただ振り回す棒きれなんか——いらねえよなあ?」


 悪魔の囁きと同時、杖が粉々に砕け散った。



「あ……ああ、あぁあ……ああぁあああぁあああ!」

 悲痛な悲鳴に思わず首をすくめた俺は、


「うっせえよ」 

「うげぇっ」


 失笑を漏らすような声と共に聞こえた膝を腹にめりこませる音と苦鳴に、たまらず耳を塞いだ。

 一応は狙われた側、被害者なのは疾だし、自己防衛は当たり前なんだけども。何かもうこれ、どう見ても加害者こっちじゃね?


「この世の終わりみてえな声出しやがって。杖なんざただの補助具だろ? 場所ばっかとって邪魔だったろ? 感謝しろよ、処分してやったんだから」

 大上段から言い放った疾の台詞を聞いて、竜胆がひそひそと耳打ちしてきた。


(なあ……確か魔術師って、難しい魔術には補助具必須じゃなかったか?)

(そうだとも。しかもあのサイズで魔石もかなりご立派ときた、多分家宝クラスだぞ)

(……分かってて言ってんだよな?)

(当たり前だろ)


 疾を何だと思ってるんだ、相手の心を叩き折るのと煽るのに特化した悪魔だぞ。この程度、呼吸するのと同じノリでやらかすわ。


「うぐっ、げほっ……してやるう」

「あ?」

「してやるう……ころ、してやるう……殺してやるう!! クソガキがぁあああぁあ!」


 血走った目、血を吐くような恨みの叫び。激しい感情の波は、傍観者だってのに俺までびびってお布団直行したいくらい……だというのに。


「何だ、もう壊れたのか。拍子抜けだな」

 酷くつまらなそうに宣う疾は、マジでどっかのネジを落としてるんじゃなかろうか。


「はあ、遊びも終わりか。つまらん」

「……懇切丁寧に弱点をひとつずつあげ連ねて、ちくちくちくちくいたぶりつつプライドをへし折って、挙げ句に大事な武器まで壊すのが遊びですか……?」

「正当防衛って便利な言葉だよな」

「どう見たって過剰防衛ですけどっ!?」


 たまらずツッコミを入れた俺を振り返って、疾は呆れた顔になる。


「つーかお前、守ってもらってねえで結界張れよ。この程度のしょぼい魔術も防げないとか術扱う者として恥だぜ」

「いやどー見てもその人めっちゃ優秀だから! 当たり前のように弱点見つけて突く方がおかしいから!」

「はあ? こんなにどーぞ見てくださいとばかりに晒してんのに? お前目悪すぎ」

「魔術を銃弾でぶち壊すようなチート基準でものを語るなし!」

「状況読めバカども!!」


 術者としての大事な何かをかけて主張する俺とあしらう疾のやり取りを、竜胆の怒声が遮る。なんだよ大事な話だろ、と言いかけて、俺はひくっと息を呑んだ。


 俺達3人をすっぽり覆うような巨大魔法陣が6つ、正方形に囲むように展開されていた。え、嘘でしょ。なんで俺らも入ってんの?


「くたばれくたばれくたばれえ……!」

「ほお、杖無くたってやれば出来んじゃねえか。最初からこれくらい本気出せよな、ちったあ楽しめただろうに」

「ここでその感想とか頭オカシイだろ!?」


 何でちょっと楽しそうなんだよ、普通に命の危機だぞ? 今からこれ防ぐ結界とか、俺絶対無理だからな? 普通に死ねるよ?


「っ、2人とも掴まれ、魔法陣を突破——」

「無理だろ、火属性だしな。焼け死ぬぜ」

 焦った竜胆の提案もさらっと却下し、疾は口元を歪めて魔法陣を見上げた。

「ま、所詮は駄犬か。死なせるなってご主人様の命令よか、てめーのプライドを優先するねえ。つくづく魔術師ってのは、つまらんプライドに固着しすぎててうぜえわ」

「ここまでプライド踏みにじられて冷静でいられる方が珍しくないですかねえ……」

「煽る時と場所と相手くらい考えろよ……じゃなくて! どうすんだよこれ!? 防げるのか!?」

 思わず俺に同意しかけた竜胆が慌てて訊くも、疾は気怠げに首を傾げただけだった。


「あ? 無理。障壁張る余裕とかねえわ」

「はあ!?」

「お前との訓練で相当消耗した上、今までのやり取りでも結構魔術使ったからな。このレベルの防御魔術って相当燃費悪いんだ、流石に怠ぃわ」

「怠いって問題!?」


 何「疲れるからヤダ」みてえなノリで言ってくれるかな、死刑宣告じゃねえか。


「どうやって防ぐんだよ!」

「防ぐ気ねえけど?」

「やめて、お前らチートと違って俺は普通に死んじゃう!?」

「いや俺でもこれ直撃すれば死ぬけどな」

「ダウト!」


 死にそうな場面でこんな暢気にしていられる人間なんているもんかい!


 そんなやり取りの間に、魔術は完成してしまったらしい。

「くたばれえぇああぁああああ!」

 完全にイっちゃった叫び声と共に魔法陣が発光する。今にもこの辺り一体ごと吹き飛ばしそうな魔術が発動しそうになったところで——


「やなこった」

 鼻で笑うような疾の声に呼応するように、魔法陣が全て砕け散った。


「があっ!?」

「っな、」

 竜胆が絶句する中、吐血した魔術師に疾が詰め寄る。


「さて、チェックメイトだな」

 嘲るような声と共に、蹲る魔術師の脳天に疾の踵落としが炸裂した。



「あー……だる」


「「…………」」

 竜胆と2人、どん引きした目で疾を見やる。地面にめりこみかけたまま気絶してるらしい魔術師ガン無視で、疾は愉しげに俺を見下ろした。


「さて、守ってやった対価でもいただこうか」

「悪魔!!」

「褒め言葉どーも」


 思わず叫んだ言葉に返ってくるべきなのは、間違っても礼じゃねえと思うんだ。


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