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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第3章 テストとか本当に帰りたい
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認識がずれるのはよくないと思います

 その時、俺らのテーブルの横で人影が立ち止まる気配がした。何事かと顔を上げた俺は、目に入った顔ぶれに首を傾げる。

 壮年の男性と妙齢の女性がじっとりした目を俺に向けていた。何故俺かと不思議に思って見てると、女性の方が口を開く。


「本当に、冴えない子どもね」

「はい!?」

 素っ頓狂な声を上げた俺、悪くない。開口一番女性に罵られて喜ぶような高尚な趣味は持ち合わせていない。というか罵倒それは疾の専売特許じゃないのか。

 愕然と目を向いた俺だったけど、続く言葉にああなるほどと納得することになる。


「なんでこんなのが、ツェーンの使用者ユーザなのよ」

 ありえない、とその女性が続けると、壮年の男性の方も嘲笑を浮かべた。

「あのツェーンが経験も無いアホなガキに従うなんて、思いもしなかった」

「本当に」

 揃えたように嘲笑う2人に、俺は何となく疾の方を見る。


 ……ド新人の俺が竜胆と組んでるのに嫉妬してる鬼狩りは多いし、こういう絡みはそう珍しくない。経緯も経緯だから無理も無いし、俺もそろそろ聞き慣れた。


 とはいえ何、今日厄日? さんざ酷え目に遭ってる気がするんだけど。


「せめてそっちが使用者なら分かるけど。おまけがツェーンを従えるだなんて、馬鹿にしているわ。そう思わない?」

「はあ……まあ」


 それに関しては、うん、否定しない。盛大に前序列1位に喧嘩売っておいて「そんな決まりごとなんざ知った事じゃねえよ」と蹴り飛ばした疾は、普通に鬼狩りのシステムを嘲笑ってた訳だし。馬鹿にしてるというのは寧ろ優しい言い方だと思うんだ、うん。


 ただそれは俺のせいじゃねえってだけで。

 文句言いたいなら是非とも他人事顔でいる疾に言ってもらいたいだけで。

 そりゃあこき下ろされて心を折られるって分かってるんだろうけども、だからといって俺に八つ当たらないでもらいたいだけで!


(理不尽!)


 ああもう、帰りたい。何でのんびり寛いでるのにこんな気分にならなきゃならんか。

 というか本に目を落としてる疾さん、少しは何か言いませんかね。そもそも貴方の言動が原因なんですけど、当たり前のよーに他人事扱いですか、そうですか。


「だったら、譲ってくれるわよね?」

「……はい?」

 俺の駄々下がるテンションとは裏腹に、嬉しそうに女性が宣った。意味が分からず首を傾げた俺に、嬉々として言い募る。


「ツェーンを使いこなすのは使用者の義務よ。本来なら序列1位に与えられているものだけど、その当人が扱う気が無いなら仕方が無いわ。貴方のような冴えない子どもよりずっとまともに使ってあげるから、譲りなさい」

「…………」


 ぶっちゃけ言おう。引いた。何この人、疾とは全然違う意味でおっかねえ。


「ね、問題無いでしょ?」

「彼女は非常に優秀だ、ツェーンとも釣り合う。俺も保証するぞ」

 なんかよく分からん援護射撃もあったが、俺の言いたいのはこれだけだ。


「ええと、取り敢えず一言。……アホか?」


 空気が凍る。あ、疾がちょっとだけ楽しそうな顔した。ホント好きだな、諍いごと。とはいえここは男の子として引けない時ってやつなので、きっちり主張させてもらう。

「まず、俺が契約してるのはツェーンじゃなくて竜胆な。次に、俺は疾と組んでるから竜胆と契約してる、つまり竜胆と契約したきゃ疾と組むのが必須。なー疾、お前こいつらと組む気ある?」

「ない」


 顔も上げずに端的なお答え。あ、2人組が顔を赤くした。いや、ぶっちゃけこいつと組むとかなり痛いぞ? ……蹴りと言葉が。


「というわけで、あんたらが竜胆と契約する理由がねえ。何より、当人がいねえのにそんな話するか?」

「は? 何言ってんのよ、貴方ここにいるじゃない」

「……はあ、アホだなー」


 思わずつるっと本音が漏れると、疾が本から顔を上げないままくつりと笑った。

「馬鹿に2度もアホと言われるとは、気の毒な頭だな」

「なあ疾、ここで俺にまで毒吐く必要なくない?」

「事実を言っただけだろ、全教科赤点」

「ぐっ、やっぱ聞いてたのか」

 本日何度目か数えるのも虚しい暴言に胸を押さえた俺に、2人組が怒鳴ってきた。


「誰がアホよ! アンタ何が言いたいの?」

「いや、だから竜胆に聞かなきゃおかしいだろ、ふつーに考えて」

 2人組が虚を突かれたように黙り込む。ああもう、ほんっとーに「強化体」と「使用者」は禁止ワードにすべきだろ。竜胆を蔑ろにする奴多すぎ。


 あと、なにより。


「大体、竜胆をただの戦闘員としか見てない奴に渡せるか! あいつは強化体とかツェーンとか訳の分からんもんじゃない! 竜胆の本質を分かってなさ過ぎだ!」


「うるせえ。大声出すなこんなところで」

 力強い俺の主張に疾が茶々を入れるので、俺は思わず握り拳を作った。

「だって疾も思うだろ!? そりゃ竜胆はチートだぞ、走るの大好きで、訓練すると疾と仲良く訓練場全壊してくれちゃう愉快な奴だぞ。だが竜胆の本領はそこじゃねえ!」

「その主観も問題大ありなんだが、一応聞いてやる。本領とやらは何だ」

 呆れたような声でされた問いかけに2人組も興味を持ったっぽい。よし、力強く答えてやろうじゃないか。


「そりゃ勿論——竜胆はオカンだ!」


「おい、いくら何でもそれは」

 ねえだろ、と言いかけた疾の声に被さるように、慣れ親しんだ声が耳に入った。


「だ・か・ら、遊びに来た訳じゃねえっつっただろ! 今度だ今度!」


 いいかげんにしろ! と響いた声に、幼い声がわいわいと言い返す。


「やーだ、あそぶー!」

「おにごっこやってー!」

「べんきょうおしえてくれるまでかえさないー!」

「俺も明日学校なんだよ! いーかげん離せチビ共!」

「いーやーだー!」


 狐耳、犬耳、猫耳を生やしたちっこい子ども達を腰の辺りに纏わり付かせた竜胆は、だだっ子達に怒ったような声で離せ今度だと言い聞かせている。とはいえ本気で怒るでもなく、辛抱強く言い聞かせている様は妙にしっくりくるというか、違和感なく保護者だ。


 一連のやり取りを無言で見ていた——何と疾まで顔上げてたんだぜ——俺は、きっぱりといった。


「ほらオカンじゃねえか」

「……せめて面倒見が良いくらいにしてやれ」


 ほら、口では絶対に勝てない疾にこう言わせた竜胆が、ただの戦闘員扱いはぜってー間違ってるって。


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