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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第3章 テストとか本当に帰りたい
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案外機能的なスペースです

 そんなやり取りを挟んで、俺達は局に繋がる入口に到着した。


 大体が祠の隣とかそんな感じの場所に存在する入口は、ぱっと見どころか妖を見る事の出来る術者がじっくり見ても殆ど分からない、らしい。まあ俺も、鬼狩りの仕事始めるまではちっとも分かんなかったし。

 ゆらゆら揺れる淡い光を漏らす空間の歪みに、竜胆が無造作に腕を突っ込む。そのまま神力を流し込むと、空間が人1人通れるくらいの穴に広がる。


「うし、行くぞ」

 竜胆が穴をくぐる。続いて俺が入り、最後に通った疾が穴を閉じた。……銃弾撃ち込んで閉じる穴って、やっぱなんか変な感じだな。

 どこにも繋がってなくてどこにでも繋がっている、と言われる不思議な通路をしばらく歩くと、唐突に周囲が開けて、鬼狩り局到着となる。どうなってるかって? 俺も未だに謎。


 鬼狩り局は、冥府にあると聞いてイメージするのとはだいぶ違う。お役所みてえに縦割り仕事な冥府だけど、鬼狩り局は事務仕事ほぼ皆無の肉体労働なもんだから、役所とも雰囲気が違う。どっちかっつうと……学校に近いかもしれない。


 受付を通り、通路を通った奥の扉を開けると、途端に広々とした空間が広がる。右手にはかなり距離を置いて扉が続く、緩いカーブを描く壁が延々と続いている。壁に沿ってずっと奥まで行けば、通路になって分岐している。

 こっち側は全部訓練場だ。壁から続く扉が総合闘技場、少し奥に行くと近距離戦闘用。通路の先、分岐した奥の方に遠距離術練習用という風に別れている。


 左手側には情報板と本棚。鬼狩りに関わる情報や知識を自由に閲覧できるようになっている。俺は初期の義務にされてる研修以来近寄りもしてないけど、疾は案外マメに寄ってる。何見てんだろうな、あいつ。


 両手側をそんな実用性満タンな感じのスペースに挟まれた空間には、丸テーブルと椅子が多数置かれている。情報交換や親交を深める雑談など、自由に寛いでOKな場所だ。

 飲み物や食い物がフリーで食えるから俺としてはお気に入りの場所だけど、今日は訓練をしに来たから後で。勉強なんて最高にストレスフルな事をやったあとは、やっぱ身体を動かすに限る。



「とはいえこいつ相手だと俺が疲れるだけだった!?」

「おら、足元が留守だぞ」

「うぎゃあ!」


 気楽な感じに足元を蹴飛ばされ、盛大に顔から突っ込んだ。ずざーっとうつぶせで滑った所で背中に硬い感触が当たり、強制ストップされる。


「いー眺めだな、瑠依?」

「くっそ離せド鬼畜が!?」


 ぎゃあと喚くと、あっさり足をのけられる。ばっと立ち上がると、とっても楽しそうな笑顔の疾さんとご対面した。


「超楽しそうだなおい。そんなに俺をどつくの楽しいかよ」

「それはもう、最高に」

「悪魔!」

「褒め言葉どーも。おら、次行くぞ次」


 返事を待たずに疾が動く。あっという間に間合いに入られて、慌てて手にしていた呪術具を翳す。赤黒い文字を操り突き出された拳を受け止めつつ、もう片方の手に持っている呪術具を操って後ろに飛んだ。



 後衛とはいえ、前衛がうっかり敵を通してしまい、防御を破られる可能性は0じゃない。その時さっくりやられるわけにもいかんので、大体の後衛が何らかの対策を練ってる。


 俺の場合は呪術具2つ使ってのバトルだ。俺の運動神経は学校でも中の下という残念な感じなので、疾の蹴りとか避ける以前に見えない。

 ので、1つの呪術で移動を補助しつつ、もう1つの呪術で相手の攻撃を半自動迎撃するという戦闘スタイルだ。ちょっと操作型の戦闘ロボットに乗ってる気分になれて、地味に楽しいんだよな、これ。


 とはいえ動いているのは生身の身体だ。せいぜいが咄嗟に攻撃を避けて前衛がまた動いてくれるまでの時間稼ぎ程度の代物で、これで鬼とやり合おうとか頼まれてもごめんだ、ってレベル。まあ……なんつーか、その程度の戦闘スキルで、疾に敵う訳がないんだよな。



 ムチのようにうねる文字の列が疾に襲いかかる。触れただけでも結構な衝撃を与えるそれを軽々と避けて、疾が顎目掛けて蹴りを放ってきた。慌てて後ろに移動して避けると、蹴り足を振り下ろす勢いで付いてくる。


「くっそ!?」

 やけくそ気味に振るった文字は、運良く攻撃態勢に移っていて避けられないタイミングだった。お、これいけんじゃね? と思ったのはほんの一瞬。


 あろう事か、疾は無造作に文字を左手で打ち払いおった。


「何だと!? 人間やめすぎだろごふうっ」

 思わず叫んだら当然のように殴り飛ばされる。鳩尾にクリーンヒット、大ダメージ。床を転げ回って悶絶した。


「失敬な、人間やめてなんかねえよ。俺はごくごく普通の人間だっつの」

「うぅ……うそだ、術を素手で払える奴の、どこが人間か……竜胆の専売特許だばかやろ……」

 呻くように反論すると、呆れたような溜息が返ってくる。


「馬鹿はお前だ、神力を身体に纏わせるってのはそう珍しくない戦闘方法だろうが。身体強化の応用だ」

「それが呪術弾くとか……」

「普通。おら次、とっとと立て」

「無理に決まってんだろぉお……」


 これで床に転がされるのも片手で数えられる回数を超えた。加えてさっきの鳩尾の一撃、相当容赦がなかった。まだしばらく床に懐いていないと回復なんか出来ねえっての。


「お前本当に体力ねえな」

 だというのにせせら笑ってくる疾はひでえと思う。疾だって転がされた事くらいあるだろ、これけっこうきっついんだぞ。


 ……まあ、そんなんで他人おれに気遣うような奴じゃねえけどさ。ちくせう、いつか一撃入れてやる。


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