表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第3章 テストとか本当に帰りたい
22/116

後先考えずに行動するとこうなります

「で? 何か言うことは?」

「考え無しな真似をしました、ゴメンナサイ……」

 冷然と笑みを浮かべて見下ろしてくる疾に、俺は土下座を敢行していた。


「考え無し、ねえ」

 ゆっくりとその言葉を繰り返した疾の声は、冷ややかを通り越して温度がない。おっかないなんてもんじゃねえ、これ死ぬわ俺。


「馬鹿のくせにお前の思考回路を予測するのはやけに難しいと常々思っていたが、なるほど考えが「無い」なら予測できる訳がなかったな。何も考えていないとなると、小学生以下のガキの発想だと思えばいいわけだ」


 くっと笑う声と同時に、ガツッと頭に衝撃。


「そうだな……例えば、俺が魔術で連絡が取れるなら、自分も呪術で連絡が取れるはず。呪術には「言葉」を送り続けることで相手を精神的に消耗させるというものがあるから、丁度良い連絡手段だ……といった所か」


 ぐりぐりと靴裏を頭にめりこませる力は強く、俺の額がざりざりと地面に押しつけられていく。


「例えどんなにへっぽこで出来損ないで半人前だろうと、お前は呪術師だ。つまり、お前の扱う術は全て、対象を「呪う」という概念で構築されるんだよ。……この俺を呪おうたあいー度胸してんなあ、おい」


 ぐりぐりが止まる。かといって足がどけられるなんて事は無く、頭にかかる圧力が増した。ぐっと身をかがめたのか、疾の声が近くに聞こえる。


「今直ぐ敵と認識してやろうか」


「本当にすみまっせんでした!!!」

 悲鳴に近い叫び声で、俺は全力で謝罪した。



 まあ大体察してもらえたと思うが、俺はうっかり呪術で疾に連絡するのに成功してしまった。で、いつもの待ち合わせ場所に来てみれば、怒り心頭の疾さんが仁王立ちで待っていた。そしてたった一言、「呪った対象に面を見せるとは良い覚悟だな」と仰った後、問答無用で蹴倒され、地面とこんにちはさせられて、まあ、うん。今に至る。



「あー……疾、悪い。俺もちっと配慮が足りなかった。あんまり応用の色が強えもんだから、瑠依の呪術が疾に本気で影響を及ぼしかねねえっての、失念してた」

 竜胆が困った声で疾に謝る。その声音は本気で申し訳なさそうなんだが、俺を心配する様子が全く無いってのがちょっと納得いかない。


 てか、今回は確かに俺が悪いけど、竜胆だってそそのかしたんだぞ。何で俺だけこんな目にあってんの。


「どうして竜胆には何も言わねえんだ、とか思ってそうだな」

「ひっ!?」

「術と縁のない竜胆が、呪術なんて鬼狩りの中でも物好きの部類に入る代物を熟知してる訳ねえだろうが。専門家がド素人の考えにホイホイ乗せられるとか、馬や鹿に申し訳なく思わねえの?」

「馬鹿とも呼ばれなくなった!?」

「反省の色が皆無だな」


 土下座させられてる地面に、光る魔法陣が浮かび上がる。さあっと血の気が引く音を、俺は確かに聞いた。


「ちょうど新しい魔術の実験をしていてな。さて理論が組み上がったは良いが、対象の存在を前提とする攻撃魔術だ。1人では試しようもないと少々持て余していたんだが……実験台が自ら名乗り出てくれるとはありがたい」


「やめて疾の新作魔術の実験台とかマジで死ねる!?」

「安心しろ、実験台の怪我だけは責任持って直す・・。魔術の微調整が仕上がるまで何度でも直して・・・やるさ」

「いやあぁああ死ねる死ぬ死んじゃう!? 竜胆助けて!?」


 なりふり構わず助けを求めた竜胆は、状況も読まずはあっと溜息をついた。


「まあ……なんだ。疾の怒りも尤もだが、その辺にしてやれよ。瑠依の抜けっぷりに関しては、俺より付き合いの長い疾の方が分かってるだろ。悪意なんて皆無だぜ」

「悪意無く人を害している方が余程問題だと思うがな。まあ、この阿呆に真っ当な判断を望むのも虚しいか」


 地面の魔法陣が消える。ほーっと安堵の息を吐きだしかけた俺は、次いで鳩尾に入った衝撃に肺の空気を強制的に吐き出させられて悶絶した。


「げふっ」

「にしても、部屋の壁中に「クンレン イツモノ」なんて血文字が現れ、そこから怨念に近い気が溢れ出た結果、俺の部屋はいつでも鬼を生み出せそうな状態な訳だが」

「うっ」

「うわ……マジか」


 改めて俺のやらかした惨状を知らされ、流石に言葉に詰まる俺と竜胆に、疾は冷ややかに笑んだ。わあ、えがおだけはおうつくしい。


「更に音声通信もひたすらに同じメッセージを垂れ流してな。魔術で相殺するまで延々と電話相手にも怨念が届いて、それはもう狼狽していたとも」

「げっ」

「連絡文言の媒体指定すらも忘れるとは、お前の頭蓋骨内には綿でも詰まってるのか?」

「いやもう、本当にゴメンナサイ……」

 もう1度綺麗な土下座を披露して謝罪すると、疾が鼻で笑ってきた。

「無様だな、駄目呪術師。地を這う様が非常にお似合いだぞ」

「ぐぬぬ……」


 壮絶上から目線。腹立たしいが、ちょっと今は怒れない。いや、マジで疾ん家、どうなんだろ。


「携帯とその通信相手を呪術の影響下から外し、部屋に溢れた怨念を祓い、呪術の対象とされた部屋と俺自身を浄化するのにかかる手間、事細かに語って欲しいか?」

「あの……本当に申し訳ありませんでした……」

「……疾、後始末手伝うぞ……?」


 流石にヤバさを感じた俺の謝罪と竜胆の申し出に、疾は冷淡だった。


「お前らが何の役に立つんだ、身代わりにでもなるか?」

「ですよね……」


 呪術の鉄則。術者を殺すか身代わりを立てるか力業で壊すか、この3つでしか解除できない。

 力業で壊すのは竜胆の戦闘スタイルだと疾の家が全壊するし、俺は術者張本人なので不可能。残り2つは言わずもがな。


 つまり、疾が自分で何とかするしかない。うん、これは俺でも怒るわ。


「この手間への対価はきっちりもらう。そうだな、向こうふた月の鬼狩り任務で手を打ってやる」

「げっ」

「何だ、文句を言うだけの図々しさが残ってたのか」

「イエ滅相もない! 喜んで働かせていただきます!」

「瑠依が喜んで働くとか言う日が来るなんてな……」

 他人事の様に竜胆が言っているけど、全然他人事じゃないからな?


 この、段々と夜が熱気を孕んできた時期から二月間、俺と竜胆だけで鬼狩り。この街、夜がめちゃくちゃ暑いんだよなあ……。


「ま、気が向いたら付き合ってやるよ。お前がクソ暑い中あくせく働いているのを、高みの見物してやる」

 愉悦を含んだ声で言い放った疾は、やっぱり真性のドSだと思う。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ